2030年代の商用化を目指して、どのような規格にするのか、これからルール作りが本格化していく次世代のモバイル通信「6G」。AIやロボット、自動運転などが当たり前になる時代に、求められる通信とは――スペイン・バルセロナで開催された、モバイル業界最大のイベント「MWC26」で、NTTドコモがそのコンセプトを展示しました。
AI時代にネットワークはどうあるべきか
「5Gまでは人間のためのネットワークですが、6GはAIやロボットのためのネットワークになる――という仮説を立てています」と話すのは、NTTドコモ 6Gテック部 無線標準化担当・NTN技術担当 担当部長の永田 聡氏。実際に今回のMWC26では、AIがもはや当たり前のものとして、社会実装されている様子をさまざまな企業が示していました。ドコモでも「AIネイティブ」や「AIセントリック」という考え方を踏まえて、次世代のネットワーク基盤を作ろうとしています。
「AIセントリックという考え方は通信業界に限らず、今後さまざまな業界で連鎖的・複合的に起こるものだと思っています。たとえばこの部屋にある家具は人間のために最適化されたデザインですが、ロボットやAIが当たり前になると、多くの業界で全体的なデザインやマインドを変えていく必要がある。そうなったときに、通信業界も同じ考え方に沿って基盤を作っておかないと、全く使われないネットワークになってしまう可能性があります」(永田氏)
AIセントリックなネットワークとは、どのようなものなのでしょうか。永田氏はその定義として、ドコモでは「AI for Network」と「Network for AI」の2つの考え方を持っていると説明します。
「AI for Network」とは、人間が保守運用しているものをAIに置き換えて効率化したり、コスト削減するなど、「ネットワークの中でAIを最大限に活用する考え方」。AIを用いた保守・運用の自動化には、世界中の多くのキャリアが取り組んでいます。一方の「Network for AI」は、AIやロボットがその能力を最大限に発揮できるネットワークです。たとえば人間の目には4K/8Kでも十分な情報量ですが、AIなら16Kや32Kといった超高精細な映像から、人間では気づけないようなさまざまな情報を得て、活用することができます。
一度に多くの情報を処理できるAIを中心に捉えたとき、通信のトラフィックはどれくらいの規模が必要なのか。常時大量のデータを処理するには、今のように下り中心ではなく、上りの速度も重要になります。さらにロボット同士が連携して動くためには、「遅延のゆらぎも含めてデザインをすることがポイントになる」と永田氏は言います。
「AIによるトラフィックは人間とどのくらい違うのか。10倍という人もいれば100倍、1000倍という人もいます。通信業界としてAIトラフィックの下限・上限の仮説を作り、AI業界と意見交換していく流れを作らないと、ネットワークを作ってもミスマッチが生じかねない」(永田氏)
さらにカバレッジをどうするかという課題もあります。現在のモバイル通信のエリアは人口カバー率をもとに構成されていますが、人が行けない場所でロボットが当たり前に働き、自動運転車が走る時代に、どうエリアを作っていくのか。一方で日本には、人口減少による地方のインフラの費用対効果をどうするかという大きな課題もあります。「これは通信業界だけでなく、放送業界、電気・ガス・水道など、インフラ企業全体で一緒に考えていかなければならない問題」と永田氏。またエリアは地上だけでなく、低軌道衛星や静止衛星、HAPSなどNTN(非地上系ネットワーク)も含めて考えて作っていく必要があると言います。
「ジェネレーション(通信世代)の時間軸、AIの進化の時間軸、衛星通信などNTNの時間軸がすべて違う。2030年にそれぞれがどの程度進化しているか、そこを組み合わせてデザインしていくのが、腕の見せ所になります」(永田氏)
「Network for AI」のコンセプトを示す3つの展示
AIやロボットが当たり前の世の中で、ネットワークはどんな役割を果たすのか。トラフィックの形態や遅延の要件はどう変わるのか。「Network for AI」のコンセプトを示すものとして、ドコモでは「変形型デバイス」「センサーレスロボット」「自律共生型ロボット」の3つを展示していました。
1つ目の「変形型デバイス」は、落合陽一氏とのコラボレーションによるもの。AIとつながるデバイスのインターフェースは、音声による入出力とペン操作だけで成り立つのではないかとの仮説のもと、直感的な操作に対してAIがどう反応し、どんなトラフィックが発生するのかを探るものです。「実際に音声とペンだけでどこまでできるのか、どんなユースケースで使ってもらえるのか検証していく」(永田氏)といいます。
2つ目の「センサーレスロボット」は、ロボットエンジニアの吉崎航氏とコラボレーションしたもの。ドコモダケのロボットに入っているのはモーターのみです。ロボットの目や耳にあたるセンサーはネットワーク側に持たせ、ネットワークにつながったカメラの映像を解析し、ユーザーの位置にあわせてリアルタイムでロボットを制御する試みです。センサーを外に出すことで、ロボットは素材や形状から自由になることができ、一方でセンサーのアップデートも容易になります。
3つ目の「自律共生型ロボット」に展示されていたのは、ロボットがヒューマノイドでなくてもいいという考えのもと、ユカイ工学が開発した「DENDEN」というロボット。自然界や街中に溶け込む「カタツムリ型」のデザインで、カメラやセンサー、ライダー(LiDAR)を搭載し、障害物を避けながら自律的に動作します。人間が活動しない山奥などにロボットが入っていく際、NTNなどをどう活用するか検証する展示になっていました。
いずれも「あくまで初期の開発プロトタイプです」と永田氏は言います。「6Gはこれまでのように通信業界の中だけで作るのではなくて、AIやロボットなどいろいろな業界の方々と一緒に考えていく必要があります。いろんな業界に私たちが直接ご意見を伺いに行って、本当に使ってもらえるネットワークを作りたい。その初期段階として、このようなプロトタイプを用意しました。ぜひ一緒に考えていただければと思います」と話していました。



