国内でのダークパターン対策に関するパネルディスカッション

続いて、黒木氏/大内氏/カライスコス氏、そしてデジタル政策フォーラムフェロー 一般社団法人EC ネットワーク理事の沢田登志子氏により、「デジタル空間における消費者の信頼(トラスト)獲得のために」と題したパネルディスカッションが行われた。ファシリテーターは同協会 事務局長の石村卓也氏が務めた。

  • 黒木氏、黒木氏、大内氏、沢田氏、カライスコス氏、石村氏

    (右から)黒木氏、大内氏、沢田氏、カライスコス氏、石村氏

最初のトピックは、ダークパターンが生み出された背景や要因について。ダークパターン自体はデジタル化の前から存在しているが、沢田氏は「EC市場の競争激化も背景にある」と指摘した。

「ECはリアルに比べると参入が容易と言われています。消費者は価格を含めて様々な情報を簡単に比較することができるため、ECサイトは消費者が他のページに移動しないようにタイムセールやカウントダウンタイマーなどの工夫をします。消費者はそれが真実かどうかは問題にしませんが、必要以上に煽られた場合は次回以降利用しない可能性があります。つまり、マーケティング施策、手法としては諸刃の刃だと考えています」(沢田氏)

続いて、海外と日本における法規制の違いについて。カライスコス氏は、海外では包括的かつ分野横断的な規制が行われているとして、EUの不公正取引方法指令(UCPD)やデジタルサービス法(DSA)/アメリカの連邦取引委員会法(FTC)などを紹介した。一方、日本では特定商取引法/景品表示法/個人情報保護法など、個別の法律による局所的な規制に留まっていると説明した。

  • 各国のダークパターン規制状況

    各国のダークパターン規制状況

黒木氏は、包括的な規定のあり方や位置付けを議論する必要性があると述べる。

「デジタルの取引の分野で注目していかなければいけないという問題意識は、海外も日本も一緒だと思いますが、それを踏まえた上で、日本の状況に合わせてどういう規律を考え、組み合わせていけば有効に機能するのかということはちゃんと考えていかないといけないのであって、コピペすればいいということではないかなと思っています」(黒木氏)

大内氏は、電気通信事業法を例に挙げ、EUの動向を参考にしつつ日本独自の文脈で規制を導入してきた経緯を説明する。

「例えば電気通信事業法は、その裏側にある価値観として、憲法に書いてある通信の秘密や個人情報の表現の自由をある程度ふまえながら作った規制です。私見ですが、お互いに参照し合うことでひとつの効果を生み出すことも日本ならではのやり方なのではと考えています」(大内氏)

沢田氏は、日本では包括的な規制が難しい理由として「つけ込み型勧誘」(消費者の合理的判断ができない事情を不当に利用する行為)に関する包括的な規定を消費者契約法の改正に入れることがうまく行かなかった事例を挙げた。

「日本の事業者は行政に対して、細かいガイダンスを求める傾向があります。裁判規範であっても、何がOKで何がNGかということを求めます。ダークパターンに関しても、同様のことが想像できます。実は、個別法で海外のダークパターンはカバーされているようにも思っています。包括的な一般規定を置いた上で、実際にどうだったら執行するかしないかという基準として、民間の自主規制ルール、ガイドラインのようなものをフル活用するという組み合わせが一番良いのではと個人的には思っています」(沢田氏)

続いて、ダークパターン問題における課題として、石村氏は「日本においてまだ包括的な法規制がない」「世の中のすべてのダークパターンを取り締まり、悪質な事業者を完全に排除することはできない」「ダークパターンとそうではないものの線引きの難しさ」の3つを挙げ、見解を尋ねた。

カライスコス氏は、「少なくとも当面の間は包括的な法規制が実現するのは難しい」と述べ、「日本流のあり方としては、既存の法制度の中で民間での取り組みが加わること。つまり、NDD認定制度が必要」だと解決策を提示した。NDD認定制度の運用が将来的に法整備へと結びつくとの考えだ。

カライスコス氏は「ガイドラインはどんどんバージョンアップしていくことを想定していまして、関係省庁の皆様にフィードバックをしながら、必要な部分については法整備がされていくことを期待しております。」と述べた。

  • ダークパターン対策協会理事 龍谷大学 法学部 教授 カライスコス アントニオス氏

    ダークパターン対策協会理事 龍谷大学 法学部 教授 カライスコス アントニオス氏

沢田氏は、「認定を受ける事業者がメリットを感じなければ普及しない。特に良いお取り組みをされてるところにはゴールド認定を出すとか、検索で有利になるとか、そういうインセンティブをつけられる制度設計が必要」との考えを示した。

また、悪質な事業者の排除について沢田氏は、「悪質な事業者は、信頼性があるかどうかを気にしない消費者を狙ってきます。NDD認定ロゴマークを気にするような消費者は引っかからずに済むかもしれませんが、気にしないタイプは引き続き引っかかってしまいます。であれば、悪質な事業者を排除するためには、民間の努力云々ではなく法執行しかないと考えています」との考えを述べ、日本の個別法でカバーできるダークパターンもあるので執行できるのではないかと話した。

「全てを取り締まることはできないなどと諦めず、警察とも連携していただいて、消費者庁、総務省にはぜひとも悪質な事業者の排除を全力で行っていただきたいと思います。加えて、プラットフォームとの連携も必須になってくるかと思います。で、消費者に関しては、ダークパターンかどうかを見分けるというよりは、詐欺かどうかを見分ける方が先決ではないかなと思っております」(沢田氏)

  • デジタル政策フォーラムフェロー 一般社団法人EC ネットワーク理事 沢田 登志子氏

    デジタル政策フォーラムフェロー 一般社団法人EC ネットワーク理事 沢田 登志子氏

消費者のリテラシー向上については、黒木氏が意見を述べる。

「消費者教育はもちろん大事です。ただ、ダークパターンに関してはここからが詐欺で法律違反だということが、すべてにおいてわかるわけではありません。『これがダークパターンと言われるようなものだ』と一人ひとりが認識する取り組みも重要かと思います。やはり認定制度のようなものがあって、それにより安心するといったことからお伝えをしていくことが効果的な方法ではないかと思っています」(黒木氏)

なお、ダークパターン対策協会は消費者向けのコンテンツをWebサイトに掲載している。今後も、消費者団体/事業者/教育現場向けに啓発資料やコンテンツを提供し、NDD認定マークの普及活動というのも注力していく予定があるそうだ。

本パネルディスカッションでは、ダークパターン対策には法規制だけでなく、民間の自主規制や啓発活動、消費者教育、官民の連携などが重要であるとの認識が示された。

ダークパターン対策協会は「ダークパターン対策ガイドラインver1.0」について、2025年3月5日まで意見公募を行っている。また、ガイドラインと認定制度についてのオンライン説明会を月2回開催することを発表している。