楽天グループは2月14日、2024年度通期および同第4四半期の決算を発表した。全体としては2019年度以来の通期連結黒字となり、楽天モバイルは2024年12月にEBITDAベースで単月黒字化したという。
同日開催された決算説明会では、三木谷浩史代表取締役会長兼社長が登壇し、質疑応答にも対応した。
連結営業利益は2019年以来5期ぶりの黒字に
連結業績は、インターネットサービス/フィンテック/モバイルの全セグメントが増収となり、通期売上収益は前年同期比10.0%増の2兆2,792億円となった。Non-GAAP営業利益は前年同期比1,601億円改善の70億円、IFRS営業利益は同じく2,658億円改善の530億円と、2019年以来の通期連結黒字となっている。
三木谷氏はこれまでも楽天モバイルの事業が楽天グループ全体の売上・利益への貢献が大きい認識を繰り返し語ってきたが、2024年度の実績についても、「楽天モバイルのユーザーが1,000万人、2,000万人と増えていくことが我々の消費者向けのサービスを盤石にしていくということが証明されてきた」と語った。
モバイルセグメントは2024年12月に初のEBITDA単月黒字化
そのモバイルセグメントの通期売上収益は前年同期比20.9%増の4,407億円、Non-GAAP営業損失は前年同期比1,056億円改善の2,089億円となっている。楽天モバイル一社に限ると、売上収益は前年同期比26.2%増の2,839億円、Non-GAAP営業損失は前年同期比850億円改善の2,163億円となった。
三木谷氏が「世界的には、通信業界のひとつのパフォーマンスの指標である」というマーケティング前キャッシュフロー(PMCF)(※)では第4四半期は110億円の黒字になっており、「顧客獲得や顧客リテンションにお金をかけなければ黒字を出すところまで力をつけてきた」「水面下から頭を出すところまできた」と説明する。
※マーケティング前キャッシュフロー(PMCF)=マーケティング費用/ショップ費用/ポイントアッププログラム費用などを除外した収支。新規顧客獲得のための費用を除いた恒常的なコストと売上(他事業の売上の押し上げを含む)のバランスを示す。
前述の「2024年12月にEBITDAベースで単月黒字化」は、2024年12月のEBITDA(※)が23億円となり、初の単月黒字となったというもの。ただしこの23億円にはモバイルエコシステム貢献額を含んでおり、それを除外した場合の黒字額は1億円となる。同月は一時的な要因として「楽天モバイル最強感謝祭」開催に伴う広告増収があり、このまま持続的に黒字を維持できるかは不透明なところもあるが、2025年度は通期でのEBITDA黒字化を目指すという。三木谷氏も通期の黒字化について「実現可能性は極めて高い話」と自信をうかがわせた。
※EBITDA=利払前・税引前・減価償却前利益。利息/納税/減価償却費の影響を除外した利益額で、一般的に企業の純粋な営業活動による収益力を示す指標とされる。
三木谷氏の説明によれば、EBITDAの改善はたんにコスト削減を進めたことだけによるものではなく、オペレーションコストの改善、ARPUのの上昇、順調な契約獲得などの結果だという。今後は楽天グループとのシナジーを高め、広告事業を伸ばしていきたいとし、「楽天モバイル最強感謝祭」を定期的に開催していく予定だ。
2025年度はシニア・地方への浸透を図る
楽天モバイルの事業状況は、全契約回線数が830万回線、ARPUが2,856円と続伸。契約回線の純増数は、法人向けの回線数が大きく伸びた2023年度第4四半期と比較すれば小幅な伸びになっているが、個人向けの開通数では期を通じて前年を上回っており、堅調という評価だ。解約率は1.38%で第3四半期の終了時点の1.12%からやや上昇しているが、大きな問題とはみていないようだ。
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楽天モバイルの事業状況
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MNO契約回線数の推移。ここにある「BCP等回線」は、企業の企業の事業継続計画用途に提供されているプランで、一般的な回線とは異なった運用がされているもの
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B2Cの開通数は各四半期とも前年を上回った
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解約率は微増
楽天グループの各種サービスの利用者からの楽天モバイル契約獲得は順調に進んでいるとのこと。楽天サービスの利用経験により楽天モバイル契約後の解約率には大きな差が出ており、楽天エコシステム全体で好循環になっているという。世代別にみると、比較的若い世代でユーザーが増えているが、シニアではまだ浸透が弱い。三木谷氏は質疑応答で2025年度の取り組みを問われた際、「とにかくまずは1,000万件の獲得」「われわれが比較的弱い高齢の方々、そして地方、ここの強化を図っていきたい」と語っており、高齢層・地方への浸透で目安としている1,000万回線を目指す考えを示した。
ARPUの上昇にはグループ売上のアップリフト効果も大きいものの、大容量のモバイル通信を利用したり、固定回線を楽天モバイルのポケットWi-Fiやテザリングに置き換えたりといった動きも寄与している。今後のARPU向上に向けては、データ通信の利用促進、オプションメニューの強化、前述の広告売上の活性化、楽天エコシステムへの顧客誘導・育成といった施策を挙げた。
財政状況が改善していることもあり、2025年度は通信品質改善に向けての設備投資も推進していく方針。AST SpaceMobileと組んだ衛星との直接通信のサービスは、2025年3月には国内での実証実験を終了し、その後の衛星打ち上げを待って2026年のできるだけ早い時期に衛星と携帯電話の直接通信サービスの提供を開始したいという。三木谷氏は「どのような自然災害があっても楽天モバイルだけがつながる」「過疎の地域や離島でも衛星から直接携帯電話とブロードバンドでつながる」という状況が実現できると話した。とはいえ質疑応答では「ビジネスモデルは今後の検討しだい」「大きな災害のときは、どういうふうにオープンにしていくかと考えないといけない」とも語っており、災害時の開放については視野にあるようだ。
このほか、楽天シンフォニーは新たにウクライナ/ケニアでOpenRAN関連の実証実験を開始しているとのこと。三木谷氏は楽天市場や楽天モバイルといった「楽天エコシステムの事業」とはやや毛色の異なる楽天シンフォニーの事業について、現在ハイパースケーラと呼ばれる企業が手掛けていない「ワイヤレスネットワークの国際展開」という事業を手掛けることで、グループとして新しい形のハイパースケーラを目指すと位置付けていた。