2025年1月16日、IntelのディスクリートGPU「Arc Bシリーズ」で下位モデルとなる「Arc B570」が発売となった。Arc B580はライバルGeForce RTX 4060を上回る性能を見せることが多かったが、Arc B570はどうなのか。Arc B580/A750、Radeon RX 7600も加え、ゲーム7タイトル、AIやエンコード性能も含めて検証していく。
なお、国内でArc B570搭載カードは、ASRockの「Intel Arc B570 Challenger 10GB OC」(実売価格4万4,980円前後)、SPARKLEの「SPARKLE Intel Arc B570 GUARDIAN OC」(実売価格4万5,800円前後)が発売される。
「XeSS」が「XeSS 2」に強化されたBattlemage世代
まずは、Arc Bシリーズの特徴について軽く触れておこう。Intel最新世代のXe2アーキテクチャを採用しているGPUで、開発コードネームのBattlemage世代と言われることもある。前世代よりもレイトレーシング性能が大きく向上したのに加え、Intel独自の描画負荷軽減技術「XeSS」が「XeSS 2」に強化された。従来からのアップスケーラー(Super Resolution)はXeSS-SRとなり、そこにフレーム生成(Frame Generation)のXeSS-FG、表示遅延を軽減するXeLLが追加。NVIDIAの「DLSS 3」やAMDの「FSR 3」と同じような技術と言える。なお、XeSS 2が使えるのはArcシリーズだけだ。
スペックは以下の表にまとめている。Arc B580よりもXeコアやレイトレーシングユニットビデオメモリなどが減っている。それでもビデオメモリはGDDR6が10GBと、ライバルと言えるGeForce RTX 4060、Radeon RX 7600の8GBよりも多い。カード電力はArc B580が170Wなのに対して、Arc B570は150Wまで下がっている。ちなみに、GeForce RTX 4060は115W、Radeon RX 7600は160Wだ。実際のゲームでどこまで差があるのかも注目したい。
仕様 | Intel Arc B580 | Intel Arc B570 |
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Xe Core | 20基 | 16基 |
レイトレーシングユニット | 20基 | 18基 |
XMX AI Engine | 160基 | 144基 |
GPUクロック | 最大2670MHz | 最大2500MHz |
GPUメモリ | GDDR6 12GB | GDDR6 10GB |
メモリバス幅 | 192bit | 160bit |
メモリ速度 | 456GB/s | 380GB/s |
接続インタフェース | PCI Express 4.0 x8 | PCI Express 4.0 x8 |
消費電力(TBP) | 190W | 150W |
今回テストに使用するのはASRockの「Intel Arc B570 Challenger 10GB OC」だ。GPUクロックを定格の2,500MHzから2,600MHzに高めたファクトリーOCモデル。カード長は24.9cmで2スロット厚と多くのPCケースに組み込みやすいサイズと言える。推奨電源は600W以上だ。
ベンチマーク Arc B550/A750、GeForce RTX 4060、Radeon RX 7600と比較
さて、気になる性能チェックに移ろう。テスト環境は以下の通りだ。比較対象としてArc Arc B550 Limited Edition、A750 Limited Edition、GeForce RTX 4060、Radeon RX 7600を用意した。CPUのパワーリミットはPL1=PL2=253Wに設定。ドライバは、Arcシリーズは「32.0.101.6256」、GeForce RTX 4060は「Game Ready 566.36」、Radeon RX 7600は「Adrenalin 24.12.1」を使用している。テストの解像度はフルHDとWQHDの2種類とした。
【検証環境】 | |
CPU | Intel Core i9-14900K(24コア32スレッド) |
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マザーボード | ASRock Z790 Nova WiFi(Intel Z790) |
メモリ | Micron Crucial DDR5 Pro CP2K16G56C46U5(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2) |
ビデオカード | ASRock Intel Arc B570 Challenger 10GB OC、 Arc B580 Limited Edition、 Arc A750 Limited Edition、 GeForce RTX 4060、 Radeon RX 7600 |
システムSSD | Western Digital WD_BLACK SN850 NVMe WDS200T1X0E-00AFY0(PCI Express 4.0 x4、2TB) |
CPUクーラー | Corsair iCUE H150i RGB PRO XT(簡易水冷、36cmクラス) |
電源 | Super Flower LEADEX V G130X 1000W(1,000W、80PLUS Gold) |
OS | Windows 11 Pro(23H2) |
まずは、3D性能を測定する定番ベンチマークの「3DMark」から見ていこう。
3DMarkの結果を見ると、Arc B580に対してDirect X11ベースのFire Strikeで約11%、DirectX 12ベースのSteel Nomadで約15%、レイトレーシングのテストが含まれるSpeed Wayで約26%のスコアダウンとなった。RTX 4060に対しては、Fire StrikeとSteel Nomadでは上回っている。ただ、Speed Wayは37%も下回り、RTX 4060のレイトレーシングに対する強さが見える部分だ。
続いて実際のゲームに移ろう。まずは、定番FPSの「Apex Legends」と「オーバーウォッチ2」を試そう。Apex Legendsは射撃練習場の一定コースを移動した際のフレームレート、オーバーウォッチ2はbotマッチを実行した際のフレームレートをそれぞれ「CapFrameX」で測定している。
Apex Legendsでは、Arc B570はRTX 4060とほぼ拮抗、RX 7600を上回った。ただ、Arc B580はフルHDで約17%上回っており、さすが上位モデルという性能を見せた。オーバーウォッチ2はブレが大きいテストではあるが、Arc B580に対してフルHDで約10%のダウンと順当と言える結果だ。WQHDでRTX 4060を上回っているのがポイント。ただし、このテストはRX 7600も強かった。
続いて、アップスケーラーとフレーム生成の両方が使える重量級のゲームとして「Ghost of Tsushima Director's Cut」と「サイバーパンク2077」を試そう。アップスケーラー(Super Resolution)はSR、フレーム生成(Frame Generation)はFGと略した。アップスケーラーの設定はすべて「バランス」に統一している。なお、この2本はXeSSにも対応しているがフレーム生成を含めたXeSS 2ではないため、今回はFSRを採用した。
Ghost of Tsushima Director's Cutはを旅人の宿場周辺の一定コースを移動した際のフレームレート、サイバーパンク2077はゲーム内のベンチマーク機能を実行した際のフレームレートをそれぞれ「CapFrameX」で測定した。
Ghost of Tsushima Director's CutはRadeonが強いタイトルだ。ゲームによってGPUの得手不得手があるのが分かる。Arc B580に対してはフルHDで約11%下回るとこれまでと同じ傾向だ。RTX 4060に対してはフルHDで負けているが、ビデオメモリ10GBが効いたのかWQHDでは逆転している。
2024年末発売の注目タイトルとして「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」と「インディ・ジョーンズ/大いなる円環」を用意した。S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobylはザリシアの一定コースを移動した際のフレームレート、インディ・ジョーンズ/大いなる円環はバチカンの一定コースを移動した際のフレームレートをそれぞれ「CapFrameX」で測定している。
S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobylは、Ghost of Tsushima Director's Cutとは異なりRadeonが弱いようだ。対RTX 4060で見るとフルHDでは負けているが、WQHDでは拮抗。ここでもビデオメモリの多さが効いていると見られる。ビデオメモリ12GBのArc B580はWQHDだとさらに強い。
インディ・ジョーンズ/大いなる円環は、現役最高クラスの描画負荷なので、画質プリセットを低めの「中」とした。それでも描画負荷は強烈だ。また、このゲームはGeForceに最適化されており、描画負荷軽減技術はDLSSだけの対応。そのため、フルHD、WQHDともRTX 4060がトップに立った。今後、FSRに対応予定なのでArcシリーズやRX 7600でもよりフレームレートが伸びる可能性はある。
次は、XeSS 2対応タイトルとして「F1 24」を試そう。ArcシリーズはXeSS 2、RTX 4060はDLSS 3、RX 7600はFSR 3を利用している。ゲーム内のベンチマーク機能を実行した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定している。
XeSS-FGは有効に働いていると言ってよいだろう。フルHDではRTX 4060、RX 7600と拮抗、WQHDではビデオメモリの多さもあって上回った。Arc B580はより高いフレームレートを出しており、XeSS 2対応タイトルが増えれば、Arcシリーズに魅力は大きく向上することだろう。
システム全体の消費電力はどうか。OS起動10分後をアイドル時、F1 24ベンチマーク中の最大値を高負荷時として測定した。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。なお、Arcシリーズの電力設定はIntelからのレビュワーズガイドに従い、UEFIでPCI ExpressのASPMを「L1」に、Windows 11の電力オプションを「高パフォーマンス」にしてPCI Expressのリンク状態の電源管理を「最大限の省電力」にしている。
Arcシリーズはアイドル時の消費電力が高いのは知られている。GPUの省電力機能を引き出す設定にしても、OSやUEFIがデフォルト設定のRTX 4060やRX 7600よりアイドル時の消費電力は高かった。Arc A750よりは改善しているのはよいところだが、ここは課題と言える部分だろう。高負荷時の消費電力についてはArc B570はRTX 4060よりも下回った。ワットパフォーマンスはArc B580よりも高いと言ってよいだろう。
AI性能はどうだろうか。複数の画像系推論エンジンを実行してスコアを出す「AI Computer Vision Benchmark」を実行した。推論エンジンのAPIはArcシリーズはOpenVINO、RTX 4060はTensorRT、RX 7600はWindows MLと各GPUに最適なものを選択している。
AI処理にはRTXシリーズで使えるTensorRTが強いのは知られているが、Arc B580でほぼ同等、Arc B570で10%低いだけとかなり健闘している、Arc A750よりも大幅にスコアを伸ばしており、AI処理も強化されているのが分かる結果だ。
次は動画エンコードを試す。エンコードアプリのHandBrakeを使い、約3分の4K動画をAV1とH.265へと変換するのにかかった時間を利用した。各GPUに内蔵されているハードウェアエンコーダーを選択している。ArcシリーズはQSV、RTX 4060はNVENC、RX 7600はVCEだ。
ArcのQSVはAV1もH.265どちらの変換速度もRTX 4060を上回り、前世代のArc A750よりもかなり高速化した。Arc Bシリーズは動画エンコード用のカードとしても優秀と言える。なお、今回は基本的にAV1、H.265ともビット深度は10bitを選択しているが、RX 7600のAV1のみ10bitを選択できなかったので参考値としてほしい。
ここまでがArc B570のレビューとなる。上位モデルのArc B580より10%~15%性能が下がった。これで価格差は約5,000円だ。なかなか絶妙な価格設定と言える。RTX 4060に対してはゲームによって勝ったり負けたりという結果。それでデュアルファンモデルはほとんど同じ価格帯だ。ゲームだけ見れば最適化タイトルの多いRTX 4060に分があるが、現状でも動画エンコードを行う人ならArc Bシリーズの速度は魅力的に映るはず。XeSS 2対応タイトルが増えれば、ミドルレンジGPUの選択肢としてかなり強力なものになるのではないだろうか。