既報の通り、AMDは11月7日にRyzen 7 9800X3Dを$479で発売開始する。国内では11月15日に¥86,800(税込み)で発売予定となっている。今回は事前にこのRyzen 7 9800X3Dを評価する機会に恵まれたので、早速ご紹介したいと思う。

3Dの構造は?

先のレポートにもあるが、Zen 5世代からはCCDの下に3D V-Cacheが搭載される格好になった。

それはいいのだが、その3D V-Cacheの構造が今一つ不明のままである。元々Zen 4までは、CCDのL3キャッシュだけをくり抜いた様なダイを2枚張り合わせて1枚にしたうえで、それをCCDの真上に積層。その両脇に熱伝導を行うインターポーザ(AMD用語ではStructual Silicon)を配して高さを揃える形にしていたが、これが理由で放熱特性が悪化しており、動作周波数や消費電力を高くできないという欠点があった。

  • Photo01: 64MB L3のDieがCCD Dieの下に配される様子。

そこでZen 5では追加のL3キャッシュのダイをCCDの下に配する形になる(Photo01)のだが、今度はCCDから本来パッケージに接続する信号をどうするか? という問題が出てくる。実装方法としては3種類考えらる。つまり

(1) 64MB(つまり32MB×2)のL3と、CCDとパッケージを接続するTSVを搭載するMonolithicなダイをCCDの下に挟む(図1)
(2) 32MBのL3と、CCDとパッケージを接続するTSVを搭載するMonolithicなダイ×2をCCDの下に挟む(図2)
(3) Zen 4までと同様、32MB L3のダイを2枚積層したものを、Zen 5 CCDのL3の真下に配する。それとは別に、CCDとパッケージを接続するTSVを搭載したインターポーザを追加のL3の両脇に配する(図3) である。

  • 図1:

  • 図2:

  • 図3:

ただAMDの公開した動画(Photo01_add)を見ると、図3の案はなさそうであり、可能性としては図1か図2になる。コストが安いのは図1の案だが、これだと追加のL3のアクセスを行う際に水平方向の距離が加わるのでLatencyが大きく増えるという欠点がある。図2は垂直方向の距離だけ(Zen 4までの3D V-Cacheと同じ)で済むのでLatency増加は最小限だが、その代わり2枚のダイを張り合わせる手間が掛かる事になる。

  • Ryzen 7 9800X3Dを試す - ゲーミングCPUの本命か? 第2世代3D V-Cacheの威力を徹底検証

    Photo01_add: これを見るととりあえず図3案はなさそうで、図1か図2になる。

AMDにこの件を投げたところ、とりあえずStructual Siliconはもう無い、という返事をいただいた。筆者的には多分図2の方式で、ただし2枚のダイはSoICでCCDと張り合わせる前に、熱を掛けて一枚のダイに加工されている(Zen 4までの3D V-Cacheのダイと同じやり方)のではないかと思う。ちょっとネタばれになるが、SandraでL3領域のLatencyを確認したが、Latencyの増加は最小限だった。そうなると図1はLatency的に間に合わないと思われるためだ。正解かどうかは、また誰か詳しい人に確認しないといけなそうだが。

Ryzen 7 9800X3D

さてでは製品のご紹介を。といってもパッケージは既存のRyzen 9000シリーズと大差ない(Photo02)し、バッジも特に違いが無い(Photo03)し、CPU自身もロゴ以外に違いは見られない(Photo04,05)。CPU-Z(Photo06)やWindowsでの認識(Photo07)も特に異常はなかった。

  • Photo02: 左にある"AMD 3D V-Cache Technology"の文字が新しく追加された違いである。

  • Photo03: 改めてRyzen 7 7800X3Dのバッジと比較すると、全体にのっぺりした印象。もっとも最近ロゴをシンプルにするのが流行であることを考えると、流行りに乗った恰好か?

  • Photo04: この見える範囲ではチップコンデンサとかの配置も既存のRyzen 9000シリーズと違いがみられない。

  • Photo05: 裏面は当然同じ。右上の△マークが大きいのも同じ。

  • Photo06: Ryzen 7 9700Xとの差はL3程度。

  • Photo07: きちんと仮想コアが16個認識される。

これに組み合わせるマザーボードやメモリ、SSDなどであるが今回はAMD提供の評価キットを使う様にという話だったので、これに従う事にした(手持ちのX670EマザーボードのBIOS Updateが間に合っていなかったので、他に選択肢も無かったのだが)。まずマザーボードであるが、MSIのMPG X870E Carbon WiFiである(Photo08)。今年9月に発表の製品であり、最近流行のカバードタイプ(Photo09)の構成。裏面もしっかりした構成(Photo10)である。バックパネル側はUSB 10GとDisplayPort兼用のUSB 40G、2.5G/5GのEthernetとWi-Fi 7と盛り沢山であり、またBIOS UpdateやClear CMOSなどのボタンが配されているのも便利である。反対側はこんな感じ(Photo12)。CPUへは24-Wayで電力供給されるとしている(Photo13)。

  • Photo08: ハイエンドマザーらしく、パッケージはかなり重かった。

  • Photo09: M.2スロットのカバーが工具無しでワンタッチで外れるのは便利だった。

  • Photo10: ちなみにこの状態でのマザーボードの重量は1877.4g(実測値)だった。

  • Photo11: USBポート、帯域的には十分だがポート数の絶対数的にはちょっと足りない感じも。まぁUSB Hubを併用すれば済む話だが。

  • Photo12: SATAポートは4つ。その分USBコネクタが並ぶ。

  • Photo13: コンデンサが猛烈な並び方をしている。まぁハイエンドマザーだからこの程度は当然か。

メモリはG.SKILLのTrident Z5 Neo RGB(Photo14,15)である。今回はBIOSでExpo EnableにしてDDR5-6000 CL28動作で利用した(Photo16,17)。またSSDはSamsungのV-NAND SSD 990 Pro(Photo18,19)にWindows 11の英語版がインストールされた状態で届いた。

  • Photo14: Trident Z5 Neoも何種類かあるが、今回はDDR5-6000 CL28の一番高速なメモリが用意された。

  • Photo15: DDR5-6000駆動時は1.40V動作となる。

  • Photo16: SPDの情報一覧。

  • Photo17: CPU-Zでの情報。微妙に3000MHzに達しておらず、2993.2MHz動作になっている。

  • Photo18: 流石にPCIe Gen5対応のSSDは冷却対策をしないと性能が出ないので、このあたりが妥当な選択だろう。ヒートシンク無しでも最大でRead 7.45GB/sec、Write 6.9GB/secのスペックを持つ。

  • Photo19: 容量は1TB。ちなみにインストールされていたWindows 11は23H2だったので、24H2にUpdateを掛けた。

テスト環境そのものは表1に示す通りである。今回Arrow Lakeとの比較は機材調達の関係で敵わなかったので、Ryzen 7 7800X3D及びRyzen 7 9700Xの2つを比較対象に用意した。なおGraphics Driver、AMDからはβ版のAdrenalin 24.10.34が提供されたのだが、AMDのページからダウンロードできるAdrenalin 24.10.1に上書きインストールを掛けようとしたら「Downgrade」と表示されてしまった(Photo20)ので、素直にAdrenalin 24.10.1で利用している。

  • Photo20: バージョンだけで考えればUpgradeの筈なのだが。謎。

■表1
CPU Ryzen 7 7800X3D
Ryzen 7 9700X
Ryzen 7 7900X3D
M/B NUMSI MPG X870E Carbon WiFi
BIOS Version 1.A13N2
Memory G.SKILL Trident Z5 Neo RGB
DDR5-6000 CL28 16GB×2
Video ASUS TUF Gaming Radeon RX 7900 XT OC Edition 20GB
Radeon Software Adrenalin Edition 24.10.1
Storage Samsung 990 Pro 1TB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot)
WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data)
OS Windows 11 Pro 英語版 24H2 Build 26100.2161

グラフ中の表記は

Ryzen 7 7800X3D : 7800X3D
Ryzen 7 9700X : 9700X
Ryzen 7 9800X3D : 9800X3D

となっている。また解像度表記も何時もの通り

2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
3K :3200×1800pixel
4K :3840×2160pixel

としている。

なお、ゲームに関してはFSRとかフレーム生成などは一切利用していない。それをやるとフレームレートが変化して、CPU性能との関わり合いが判りにくくなるためである。また今回利用したゲームについて、設定及びテスト方法はこちらと同じままとしている。なので個々の設定の説明は割愛する。

◆CineBench R23(グラフ1)

CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench

  • グラフ1

さてCineBench。Single Threadだと最速はRyzen 7 9700Xで、Ryzen 7 9800X3Dはちょっと及ばない感じであるのに、Multi ThreadsだとRyzen 7 9800X3Dが群を抜いて最高速となっている。今回の3製品の動作周波数などを表2にまとめたが、Single ThreadだとMax Boost Clockが効いているのは理解できるとして、Multi Threadsだと本来ならRyzen 7 9700Xの方が上回っても不思議ではないのに逆転しているのは、TDPの差が大きいという事だろうか? それともL3を大容量化した効果なのか、この辺はこの後のテストで比較する事になるだろう。またRyzen 7 7800X3Dとの差は、Zen 4とZen 5の違いということかもしれない。

■表2
Ryzen 7 7800X3D Ryzen 7 9700X Ryzen 7 9800X3D
Core/Thread数 8/16
Base Clock 4.2GHz 3.8GHz 4.7GHz
Max Boost Clock 5.0GHz 5.5GHz 5.2GHz
L3 Cache 96MB 32MB 96MB
Memory(定格) DDR5-5200 DDR5-5600
TDP/cTDP 120W 65W/105W 120W
PPT(Default Socket Power) 162W 88W 162W

◆CineBench R24(グラフ2)

CineBench R24
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench

  • グラフ2

CineBench R24でも傾向はグラフ1と同じになった。ちょっとここでMulti ThreadsとSingle Threadの比を計算すると

CineBench R23 CineBench R24
Ryzen 7 7800X3D 10.10倍 9.85倍
Ryzen 7 9700X 8.80倍 8.46倍
Ryzen 7 9800X3D 10.82倍 10.01倍

となる。一般にはRyzen 7 9700X程度の倍率が普通で、L3を増量するとメモリアクセス周りのボトルネックが多少緩和されるためか性能が上がるのは理解できるのだが、Ryzen 7 9800X3Dはそれにしても性能がちょっと上がり過ぎている感もある。これはL3周りの性能がRyzen 7 7800X3Dよりも高速、ということかどうかはこの後もう少し検証の必要がある。