かつてはパソコンメーカーも出展していたCEATECですが、近年はB2B向けで商談やビジネスマッチング、技術展示、共創の場へと進化を遂げつつあります。とはいえ「将来の家電に搭載される技術」に関する展示も豊富ですし、環境問題に対応した展示は一般の方の興味のある内容でしょう。ということで会場を回って気になった技術、製品(のタネ)をいくつか紹介します。
「Realforce RC1」の展示を発見、70%レイアウトはかなり使いやすそう
東プレが、省スペースの70%キーボードRealforce RC1をいち早く展示していました。パソコンユーザーの目から見ると東プレは高級キーボード屋さんのイメージがありますが、このキーボードも元は産業用技術から生まれているもの。街中では冷凍・冷蔵トラックに東プレのマークを見かけることがあります。
70%レイアウトの特徴は何と言ってもファンクションキー搭載。テンキーレスながら若干コンパクトで、さらにUSB-C/Bluetoothのデュアル対応。東プレ独自の静電容量の静音キーを使用しており、APCによるアクチュエーションポイントを調整できる点もユニークです。30 / 45gの二種類のキー荷重、英語と日本語の二種類のキー配置の計4製品が販売されます。カラーはダークグレー/ライトグレーのツートーンです。
HHKBもいいけど、ファンクションキーがどうしても欲しい……というユーザーに向いてそうな気がしますが、どちらもお高い製品なので実機が触れるショップでじっくりと試してみたいところ(注:現行のHHKBも東プレのキースイッチを使っています)。
ムラタセイサク君復活! リチウムイオンの新電池やグラボを短くする(!?)技術まで
村田製作所ブースでは、気になる技術や展示が結構ありました。以前のCEATECでは定番イベントだったムラタセイサク君が7年ぶりに復活。初代セイサク君は19年前にCEATECでお披露目され、見かけは同じですがセンサー類が新しく進化したそうです。デモでは不倒停止と坂道登りを行っていましたが、明らかに安定度が増した感じで、一歩ずつ確かな歩みを進めていました。
CEATEC AWARD 2024 イノベーション部門賞を受賞したのが、多数のコンデンサ/インダクタを薄い基板に内包したiPaS(Integrated Package Solution)です。パソコン自作派ならば、マザーボードのCPUソケットの裏側や、GPUボードにも大量のチップコンデンサが実装されているのはよく見ていると思います。このコンデンサは、電流の変化が大きな半導体素子に安定した電圧を供給するために不可欠なパーツです。
CPUやGPUなどは、パソコンの電源で使われている電圧をそのまま使用せずに、必要に応じて電圧を変圧させて利用しています。本来ならば、電圧をロスなく供給するためにはCPUやGPUにより近いところに電源回路を配置することが必要。マザーボードでもCPUソケットの周りには電源回路が取り付けられています。理想的にはCPU内部、あるいはCPUの裏側に電源回路があれば最短距離で配線することができます。
iPaSは半導体パッケージの中に複数のコンデンサを埋め込むためのソリューション。より半導体チップに近いところにコンデンサが入るため効率を高められるほか、ボードの裏側にコンデンサを配置する必要がなくなるため、場合によって基板裏側に電源回路を配置することも不可能ではないでしょう。
最近の高性能GPU製品は幅も長さも大きくなっており、今まで使っていたPCケースに収まらないという事態がiPaSによって解消するといいなと期待しています。
ノートパソコンではまだリチウムイオン電池が主役です。村田製作所ではポーラス集電体(PCC)リチウムイオン電池の技術展示がありました。現在、リチウムイオン電池には金属箔を電極に使用しています。この電極をPCCにすることにより、内部抵抗値が半分となり電力が最大4倍に拡大するという技術を紹介していました。
従来は電力を増大させるためには電気を貯める電解質の厚みを減らす必要がありましたが、これは容量減少を招きます。新電極を使用することで、容量を減らさずにパワーアップすることができます。
TDKブースでは、従来の黒鉛電極に変えてシリコンと黒鉛を使用したリチウムイオン電池の紹介を行っており、このシリコン電極を使用したスマートフォン(市販モデルですが、国内未発売)の展示もありました。充電池はしばらくリチウムイオン電池が主流となりますが、リチウムイオン電池もまだ進化を続けるようです。
カメラの性能アップの技術とサステナブルな取り組みを紹介していたパナソニック
Panasonicは昔から新素材、新技術を積極的に開発しています。今回気になったのは、カメラセンサの新フィルタ技術と家電を含むサステナブルな取り組みでした。カメラに関しては、ハイパースペクトルイメージングを紹介。通常のフルカラーカメラでは、CCD/CMOSセンサーの前にRGB(原色)のカラーフィルターを使って色の判別をしています。
原色フィルターは出力となるRGBそのままでデータが得られますが、感度はざっくり1/3になります。スマートフォンで使われているCMOSセンサーではRGGBの配置が多いですが、RGBWなどの配置もあります。
ハイパースペクトルイメージングは複数の色情報を取得できるフィルターを使用し、演算によって間引いたデータを復元するという、MRI検査やブラックホール観測でも使われている手法です。これによって感度は従来の10倍となり、さらに細かな色の違いも判別することができるようになります。このためイメージングだけなく、検査用途での利用も期待されています。
デモではハイパースペクトルイメージング向けのフィルターを組み込んだLumixと通常のLumixを使用し、おもちゃの電車を走らせて撮影したデータを表示していました。従来タイプは光が足らずブレがありましたが、ハイパースペクトルイメージングに対応した製品では鮮明に表示されていました。
ただし、ハイパースペクトルイメージングの元データから画像を得るためには多くの演算を必要としています。今回のデモ展示の裏側では、GPU入りのパソコンを使用して処理しているとのこと。カメラ本体で演算後の画像を得る事は現在できませんが、セミプロ以上がデジタルカメラのRAW現像を使うように後処理前提で利用する方法もありそうです。
サステナブルに関しては、いくつかの新素材と取り組みが紹介されていました。パナソニックのドラム型洗濯乾燥機には乾燥能力を高めるためにヒートポンプが組み込まれています。しかし通常のメンテナンスを行っていても、糸くずやホコリでヒートポンプの能力は徐々に低下し、長期間の利用の障害となっていました。
そこで、「ヒートポンプユニットクリーニング安心パックサービス」を開始。パナソニックの認定作業員がヒートポンプユニットと乾燥経路を洗浄し、新たに二年間のヒートポンプアフターサービスが付加されます。新たな機器に買い替えることなく高い性能を維持するというのは素晴らしい取り組みと言えます。
また家電製品には流通の都合上、一定の返品があります(展示品、輸送時のスレや箱潰れ等)。これに対しては再チェックの上、一般販売する「Panasonic Factory Refresh」を開始。品質基準は満たしたものとですが、一部汚れやキズが残存する場合もあるそうです。これが価格とのトレードオフで許容できるならば悪くないでしょう。
サステナブルな素材も各種展示していました。パソコンではガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチックが使われていますが、完全なリサイクルが確立しているとは言いにくいものです。今回はポリプロピレン繊維強化ポリプロピレンと、植物繊維混入プラスチック「Kinari」を展示していました。
ガラス繊維やカーボンファイバーでの強化と異なり、すべてポリプロピレン樹脂なので熱で溶かすだけでポリプロピレン樹脂として再利用できるというもので、強度もさることながら繊維強化プラスチックらしい意匠性も加わっていました。
kinariは最大85%のセルロースを含む植物ベースの高機能素材です。セルロース繊維につなぎとしてプラスチックをいれており、従来通りのプラスチックの射出成型によって自由な形を作ることができます。セルロースの素材も間伐材だけでなく、竹、トウモロコシ、コーヒーかすなど、従来では原材料として利用できないものを資源として利用可能。今後はつなぎとなるプラスチックのバイオプラや生分解性プラに変更する予定となっています。
一方、繊維質が入っているため流動性が低く、現在は55%までの混入までの成型可能な商品化が行われており、70%の成型実験が行われています(先日、産総研の特別公開2024に行ってきましたが、ここでも同様の研究が行われており「100%は流動性が悪く、こうなってしまう」というサンプルを見せていただきました。産総研の方は木材の持つ成分としてセルロースだけでなく、ヘミセルロースやリグニンも余すところなく活用したいと研究者的な説明を受けました)。
地道な研究が進む超電導量子コンピューター
量子コンピューターも現在開発が進む技術です。国産技術では、今のところ64bitの量子ビットを扱う超電導量子コンピューターが開発されていますが、実用性のためには現在のところ100万bitの安定した量子ビットが必要と言われています。超電導量子ビットのコントロールと読み出しにはマイクロ波を使っており、現在の64bitでもかなりの配線がある画像を見たこともある方も多いと思います。
CEATECではNECや産総研が共同で開発している1000量子bit級の量子コンピューターのモックアップを展示していました。増えた量子ビットのコントロールを超低温の冷凍キャビネットの外からだけではなく、冷凍キャビネットの中でも高温の4K(-269℃)のゾーンで動作する制御回路で行い、0.01K(-273.05℃)の超電導チップまでの配線距離を大きく減らしています。また、単線の同軸ケーブルではなく、フラットケーブルを使っていました。
学生やお子さん連れも
CEATECは以前は土曜日までの開催で学生や家族連れも参加していましたが、一方で出展企業の負担もあることから、土曜日の開催は2015年で終了。2016年からはCPS/IoT Exhibitionとして、金曜日までの開催に変わってしまいました。「熱意のある学生ならば平日でも来場する」というのが当時の質疑応答の回答で、少々気になっていたのですが、今年は学生だけでなく家族連れの姿も平日に見る事ができました(画像は会期三日目の木曜日のもの)。
また、一昨年からJEITAが学生優先の展示「半導体産業人生ゲーム」を行っており、今年も半導体産業に興味を持つ学生にアピールしていました(毎年気づくのが遅れており、体験できていません)。