Intelの第13/14世代Coreの上位モデルで発生している、高負荷時に動作が不安定になるという問題。電力設定のガイドラインである「Intel Default Settings」の公表、eTVBのバグを修正したマイクロコード「0x125」の配布、2年間の保証期間延長などの対応が行われてきたが、ついに根本原因が“プロセッサへの不適切な電圧要求による動作電圧上昇”にあるとして、それを修正するマイクロコード「0x129」の配布がスタートした。
すでに各マザーボードメーカーは一部モデルでマイクロコード(0x129)を搭載したUEFIを公開。順次対応モデルを増やしている状況だ。そこで気になるのが、性能への影響。ここでは、Core i9-14900K/13900Kを使って各種ベンチマークでマイクロコード(0x129)の適用前と後で性能、動作クロック、温度、消費電力などがどう変化するのかテストしていく。
不安定な症状が出るというCPUは、Core i5-13600K/14600K以上の12モデルだ。詳しくはこちらで確認してほしい。今回はこのうち、Core i9-14900KとCore i9-13900Kを用意した。
マザーボードは、ASRock Z790 Nova WiFiだ。2024年8月9日に公開されたバージョン「6.02」のUEFIでマイクロコード(0x129)を実装している。ここでは、2024年6月7日公開でIntel Default Settingsが導入されたバージョン「5.06」と比較していく。eTVBバグ修正のマイクロコード(0x125)を実装したUEFIも公開されているが、ベータ版だったので今回のテストには含めなかった。
なお、電力設定に関してはIntel Default SettingsのPower Delivery Profileにある「Performance」の数値を適用する。Core i9-14900K/13900KともPL1=PL2=253W、ICCMAX=307Aだ。
なお、注意したいのはUEFIメニューにPower Delivery ProfileとしてPerformance Modeが用意されているが、それを選んだだけでPL1=PL2=253W、ICCMAX=307Aにはならない(少なくともバージョン6.02/5.06においては)。
PL1=PL2=253Wは、CPU Cooler Type and Power Presetを「240~280mm Liquid Cooler(253W)」にすると適用、ICCMAXを設定するには、CPU Configurationにある「CPU Core Unlimited Current Limit」をDisabledに設定し、「CPU Core Current Limit」の欄に数字を入力する必要がある。このあたりの挙動はマザーボードのメーカーごとに異なるので、設定方法はマニュアルなどで確認してほしい。
テスト環境は以下の通りだ。
- CPU:Intel Core i9-14900K(24コア32スレッド)、Intel Core i9-13900K(24コア32スレッド)
- マザーボード:ASRock Z790 Nova WiFi(Intel Z790)
- メモリ:Micron Crucial DDR5 Pro CP2K16G56C46U5(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2)
- ビデオカード:NVIDIA GeForce RTX 4080 SUPER Founders Edition
- システムSSD:Western Digital WD_BLACK SN850 NVMe WDS200T1X0E-00AFY0(PCI Express 4.0 x4、2TB)
- CPUクーラー:Corsair iCUE H150i RGB PRO XT(簡易水冷、36cmクラス)
- 電源:Super Flower LEADEX V G130X 1000W(1,000W、80PLUS Gold)
- OS:Windows 11 Pro(23H2)
まずは、CGレンダリングでCPUパワーをシンプルに測定する「Cinebench 2024」を試そう。
Core i9-14900K/13900Kともほぼ変わらない結果となった。マイクロコード(0x129)を適用したバージョン6.02は微減しているが、Multi Coreで0.1%程度、Single Coreで1.5%程度だ。誤差と言ってもよい。
続いて、3Dベンチマークの定番「3DMark」からDirectX 12ベースのTime Spyを実行した。CPUに関するテストも含まれているための採用だ。
Core i9-14900Kに関しては、総合スコアはまったく同じ、GraphicsやCPUもほとんど変わらなかった。Core i9-13900Kはバージョン6.02のほうが若干スコアがよいほど。とは言え、総合スコアで0.8%程度の差。誤差と見てよいだろう。
続いて、動画のエンコードだ。エンコードアプリの「HandBrake」を使用し、約3分の4K動画をフルHD解像度へH.264とH.265形式で変換するのにかかった時間を測定している。
Core i9-13900Kのバージョン6.02適用時のH.265への変換がわずかに遅くなった以外は、すべて同じ。これもほぼ変わらないと言える。
続いて実ゲームとして重量級の「サイバーパンク2077」を実行しよう。ゲーム内のベンチマーク機能を利用している。
一番差がある部分でもたった1.4fps。ここも誤差と言ってよい。今回のテストにおいては、マイクロコード(0x129)による影響はほとんどないという結果になった。
では、CPU温度と動作クロックはどうだろうか。Cinebench 2024を10分間連続で実行時のCPU温度と動作クロックの推移を「HWiNFO Pro」で測定した。温度は「CPU Package」、クロックは「P-core 0 T0 Effective Clock」の値だ。
グラフの推移は、バージョン6.02/5.06ともほとんど同じだ。スコアに差がないので、当然と言える挙動と言える。ちなみに、PL1=PL2=253W、ICCMAX=307Aと電力が制限されているため、Core i9-14900Kで平均温度は約77℃、Core i9-13900Kで約79℃とリミットの100℃よりもかなり低い動作となった。動作クロックは、Core i9-14900Kが5.1GHz前後、Core i9-13900Kが4.9GHz前後だ。両者は最大クロックに200Hzの差があるので、それが結果に出ている。
最後にCPU単体の消費電力推移を見てみよう。同じくCinebench 2024を10分間連続で実行時の推移を「HWiNFO Pro」で測定した。「CPU Package Power」の値だ。
みんながBIOSアップデートに慣れているわけではない
電力の推移もバージョン6.02/5.06でほぼ同じ。Core i9-14900Kで平均が約207W、Core i9-13900Kで平均が約197Wとリミットの253Wには届いていない。ICCMAX=307Aという制限が効いているようだ。実際、ICCMAXを無制限設定にするとほぼ253Wまで消費電力は増加する。その分、動作クロックも上がるが、温度も10℃ほど上昇。それだけにPL1=PL2=253W、ICCMAX=307Aというのは性能と発熱、消費電力のバランスをうまく取った設定と言えそうだ。
マイクロコード(0x129)の登場によって、第13/14世代Coreの不安定問題はいったん解消されたようだ。さらに、もし今後トラブルが発生しても2年間の延長保証によってサポートを受けられる。Power Delivery ProfileのPerformance設定で使う分には、性能への影響も軽微だ。すでに購入した人もこれから購入を考えている人の不安はかなり払拭されたのではないだろうか。
ただ、マザーボードのUEFIアップデートが必要というのは、慣れてない人にとっては手間と感じるだろう。そして、定格以上の動作は自己責任とは言え、性能の限界を攻められるからこその「K」付きモデルであり、強力な電源回路を持ったハイエンドマザーボードだ。今回の問題は、その存在意義が揺らいでしまったのは事実。CPUの動作に関する標準的な設定が今後どうなっていくのか、気になるところだ。