インターネットイニシアティブ(IIJ)は7月20日、トークイベント「IIJmio meeting #35」を開催した。前回(#34)から実に1年ぶりとなるIIJmio meetingだが、リアル会場開催としては実に約4年半ぶりとあって、250人近いファンが訪れ、熱気ある開催となった。イベントの詳細をレポートしよう。
1年ぶりで4年半ぶり
ユーザーとIIJのエンジニアらによる交流イベント「IIJmio meeting」。例年、年に3~4回開催されてきたが、今回は前回(2023年6月24日)から約1年1カ月ぶり(正確には392日ぶり)と、大分間隔が空いての開催となった。さらに冒頭に述べた通り、コロナ禍によるイベント自粛とオンライン開催を経て、リアル会場での開催は第26回大阪開催(2020年1月19日)以来、実に約4年6カ月ぶり(1,644日)。多くのIIJmioファンが心待ちにしていたと見えて、当日、会場には約250人ものファンが集まり、非常に活気あるイベントとなった。
|photo_center |I@002.jpg,IIJmio meeting会場になるのも久しぶりの、IIJ東京本社のセミナールーム。この広い会場がほぼ満員となる盛況ぶりだった|
今回のIIJmio meetingの司会進行は、いつもお馴染み広報の堂前清隆氏…ではなく、IIJ MVNO事業部営業企画1部企画課の宮根惇城氏。IIJ入社6年目の宮根氏だが、IIJmioに関するプロモーションを担当しているほか、IIJmioが立ち上げたYouTubeチャンネル「IIJmio TV ~みおちゃんねる~」でYoutuberとしても活動しているとのこと。ちなみにこの「みおちゃんねる」、会場の観客の中でも観たことがあるのは数人というレベルで、まだ認知度が高くないこともあって、ぜひチャンネル登録をお願いします、とのことだった。
続いて、恒例のIIJ Updatesでは、堂前氏にバトンタッチして約1年間のIIJmioの変更点について紹介。ここでは大きな変更点だけを抜粋して紹介する。まずは今年6月からスタートした長期利用者向けの特典「IIJmioご愛顧感謝特典」から。ギガプラン利用者向けに、長期に渡り複数回線契約している場合、機種変更時や各種手続きなどの手数料が割引になるなどの特典が受けられる。
こうした長期利用特典は、かつてはMNOでも多く見られたが、MNPの妨げになるということもあり、「電気通信事業法27条3等の運用に関するガイドライン」で規制が入っていた。そこでIIJmioとしては、特典の代わりに利用料金自体を下げるという方向で「ギガプラン」を開発・展開していたのだが、昨年末にこの規制の条件(主に回線契約数)が緩和されたことにより、IIJmioは対象外ということになった。そこで新たに長期契約者向けに親切したのが「ご愛顧感謝特典」というわけだ。
特典は、IIJmio側から指定された端末の購入時に割引が受けられる「mio優待券」、ギガプランの音声回線が2回線以上の場合、1回線につき100円の割引が受けられる「家族割引」(2024年秋スタート予定)、データ量最大5GB分、SIM交換&再発行手数料、初期費用が割引される「長期利用特典」(2024年冬スタート予定)の3つ。特典が受けられるかどうかはユーザー毎に異なり、IIJmioの会員ページから確認できるとのことだ。
続いて、2024年3月からMNP転入出時の「MNPワンストップ」に対応したという話題。従来はMNP転出時に「MNP予約番号」を転出するキャリアから受け取り、それを転入側のキャリアに渡して手続きをする「ツーストップ」方式だった。MNPワンストップでは、MNP予約番号の事前取得が不要になり、いきなりIIJmioに「転入したい」と契約処理を進めれば、予約番号の確認等はIIJmioと転出キャリアの間でやってくれるようになる。
大変便利そうだが、(1)転出するキャリアがMNPワンストップに非対応の場合、(2)固定回線とのセットなど、転出側の契約内容により、ワンストップによる乗り換えができない場合、(3)店頭で申し込む場合、の3つのパターンでは、MNPワンストップが利用できない。
また、手続きが完了しない場合、手続きの途中で必要な確認操作が行われていないといったケースがあるといい、エラーが発生している場合はメール等で通知するので、確認してほしいとのことだった。
続いて、3月から開始された30、40、50GBの大容量プランについて。2020年~21年にかけて、菅義偉首相(当時)の肝煎りで始まったMNO各社の新プランによる「通信料金の値下げ」だが、2022年以降、再び値上げ傾向(縛りも含む)が見られてきた。
そこで、こうした縛りを嫌うユーザー層に対してMVNOが食い込む余地があるのでは?ということから、ギガプランの20GBユーザーを調査したところ、20GB契約が増えていること、さらに20GBでは足りずに、追加容量を購入する割合が高いことがわかったという。こうして大容量プランへの需要があるのでは?ということで生まれたのが、30GB、40GB、50GBの大容量プランだ。
大容量プランは容量あたりの価格がかなり割安になるため、組み合わせによっては面白い事態になる。例えば3回線で月間60GB利用したいという場合、20GB回線を3つ契約するよりも、50GBプランと5GBプラン2つのほうが120円安くなるという。こうした攻略的な組み合わせも模索しながら楽しんでほしいとのことだった。
9社もの端末メーカーによるハンズオンコーナーも盛況!
今回は、メイン会場となるセミナールームでのトークのほか、展示コーナーに9社もの端末メーカーが集まり、最新端末のハンズオンコーナーが設けられた。端末マニアも多く集まるIIJmio meetingとあって、参加者の注目も熱く、筆者も時間内に全部の端末を触りきれないほどの大盛況ぶりだった。各ブースの様子を写真で簡単に紹介しよう。
さらにIIJによる技術展示コーナーもあった。同社のサービスには法人向けのサービスが多いため、あまり直接目にする機会が多くはないのだが、もしかすると気づかないところで接しているかもしれない。
今はどんなスマホが売れている?
続いて「スマートフォン市場の近況」と題し、IIJ MVNO事業部コンシューマサービス部デバイス事業推進室の永野秀太郎室長代行がトークを行った。
まず現状の確認として、端末の性能・品質向上により、製品の寿命が2年から2~4年程度と、かなり長くなったこと。値引き規制や実質レンタル(リース)とも言えるプランの登場により、端末の買い替え頻度の低下につながっている。また、円安の進行による端末価格の向上も、買い替えスパンの長期化への影響が大きいという。
また、これまでハイエンド・ミドル・エントリーと大きく3つに分かれていた端末の性能別クラス分けがさらに細分化し、ハイエンドは「プレミアム」「スタンダード」「型落ち」の3つに、ミドルレンジも「ミドルハイ」「スタンダード」「ミドルロー」の3つに。エントリークラスもスタンダードとローの2つに分類できると分析。さらにそれぞれの境界線上は区別が曖昧になっていると指摘した。
こうした状況を踏まえた上で、2024年の夏モデルは各メーカーとも、各ジャンルでかなり力の入った端末が多く登場しており、買い替えを検討するにはピッタリだとのこと。特にミドルハイ付近にはコストパフォーマンスが非常に高い機種が揃っているという。新モデルの多くは今回のハンズオンコーナーに並んでいるので、ぜひ実際に手に取って体験してほしいとアピールした。
永野氏もYouTubeの「みおちゃんねる」で端末・ガジェット紹介をしているとのことで、ぜひチャンネル登録を!とはたらきかけた。
スマホメーカー3社によるパネルディスカッション
最後に、スマホメーカー3社からそれぞれ担当者が集まってのパネルディスカッションが行われた。参加者は、シャオミジャパンの安達晃彦氏、OPPOブランドを展開する欧加集団の日本法人であるオウガ・ジャパンの丹下紘彰氏、そしてモトローラ・モビリティ・ジャパンの見潮充氏だ。
まずは三氏から、それぞれ自社のプレゼンテーションが行われる。IIJmio meetingに来るようなマニア層には釈迦に説法…かと思いきや、なかなかディープな情報も飛び出していた。
プレゼンが終了したところでパネルディスカッションへ。まずは「日本市場向けモデルで重視していること」について。
シャオミの安達氏は「まずUSB Type-Cが付いていること」と、暗にiPhoneを揶揄して会場の笑いを誘いつつ、グローバルで販売シェア3位というスケールメリットを利用して、グローバルで部品調達を行ったりすることで、同社のミドル~エントリー向けブランドである「POCO」のように価格を抑えることができる。日本の市場にスーパーフィットすることも大事だが、グローバルなイノベーションを日本のマーケットに紹介することを忘れないようにしているとした。
OPPOの丹下氏は「右に同じ」と笑いを誘いつつ、グローバルの端末をそのまま持ち込むのではなく、FeliCaやeSIM、防水防塵といった日本で好まれる仕様を考慮しないと難しいという認識。またグローバルシェア4位、ユーザー6億人という規模の中で、日本を含むそれぞれの市場向けに最適化していくことが重要だとした。
モトローラの見潮氏は、一度危機に陥ったモトローラブランドが日本市場で再び受け入れられるためには、IP68やFeliCaといった基本機能が入っていないのは難しいということがようやく本社にも理解されてきたという。その上で、AI対応などグローバル市場のほうが日本よりも進んでいると感じられる機能を、日本向けにもしっかり搭載していくことが重要だとした。
「おサイフケータイは重要か?」という問いについては、モトローラは生活インフラとして重視。OPPOは重要性を認めつつも、QR決済も普及してきているので、端末のユーザー層により必要性は分かれるとのこと。シャオミは確かに必要な機能だが、統計取ってみると利用者は20%くらいであると指摘。FeliCaを必須にすると、日本市場導入のハードルが上がることもあるため、個人的にはマストにせずオープンに考えるべきだとした。
ちなみに、IIJmioで扱っている端末の多くは永野氏らが海外での発表などを注視し、積極的に取り扱いのオファーをアピールすることも少なくないそうである。
続いて「AIに対する取り組み」について。シャオミは「Xiaomi 14 Ultra」を例に、わかりやすい生成AI的な機能(背景の拡大、天候の変更、不要なオブジェクトの消去など)も取り入れてはいるが、真価は目に見えない部分での活用、特に画像処理に関する部分だという。これはAI SP(シグナルプロセッサ)として搭載されており、一度のシャッターで複数枚のRAW画像を撮影して陰影などを解析し、最適な画像を出力するといった処理を行なっているとのこと。また、Android端末についてはメーカー独自のものだけでなく、翻訳や文字起こしなど、Googleのプラットフォームとして提供される機能もどんどん増えてくると指摘。その上でメーカーとしては画像処理、生成AI系に代表される「面白AI」、そしてIoT製品に搭載されるAIなどを、日本に紹介していきたいとした。
先だってのプレゼンでAIに注力すると宣言したOPPOは、「プロダクト関連の話題になるので、言っちゃいけないことを注意しなければならない」と笑いを誘いつつ、プラットフォーマーとしてGoogleやMicrosoft、またチップセットメーカーとしてQualcommやMediaTekとも連携して機能を作り上げているとした。また、初出しの情報として「Find」シリーズの日本導入を計画しているという。おそらく海外で販売中の「Find X7 Ultra」あたりではないかと予想されるが、画像処理についても高度なものが期待できそうだ。
モトローラも「Moto AI」で画像処理関連のAI処理に力を入れていることをアピールする一方、今後は「キャプチャ(写真処理)、クリエイト(生成AI)、アシスト(音声アシスト等)」の三本柱を軸にしてAI機能の開発を進めていることを明らかにした。3社とも、スマートフォン上でのAI体験については積極的に取り組んでいくようだ。
一旦メーカー担当者という立場を離れ、「ユーザーとして欲しいAI機能は?」という問いには、オウガ・ジャパンの丹下氏から「逆に会場の皆さんの欲しい機能を聞いてみたい」と逆オファーが。会場からは「同時通訳」「パフォーマンスやバッテリーチューニングのAIによる最適化」「ハードウェアメーカーとして他社AIサービスとの兼ね合いはどうなるのか」「基地局の電波の掴み方をAIに学習させて最適化できないか」といった質問・要望が寄せられた。
自動通訳について、シャオミの安達氏は、社内の会議用翻訳ツールが入社時よりも明らかに翻訳精度が高まっていることを挙げ、多言語翻訳ツールは「当たり前のものになって、誰もが使うようになる」と予想していた。
バッテリーやパフォーマンスのチューニングについては、すでに実現しており、各社から特にバッテリーについてはユーザーの行動パターンに合わせた充電の最適化なども実装していることが紹介された。AIといえば最近は生成AIが注目されがちだが、こうした地味な分野でこそAIの真価が発揮されるという指摘もあった。
他社との協業については、オウガ・ジャパンの丹下氏から、実現したい機能に必要な機能を協業パートナーから提供してもらい、チップセットメーカーも含めて最適化していること、その際の作り込みについてはメーカーごとの特色が出るのではないか、という回答があった。
電波の管理については、キャリアのネットワーク側の制御でAIが活用されている可能性はあるが、端末側では難しいのではないかとのこと。個人的には、Wi-Fiとキャリアの電波が両方あるときに、電波強度に合わせてどちらの回線を優先するか(いわゆる「Wi-Fiアシスト」機能)を端末側で学習できたら面白いのではないかと思う。
「各メーカーの強みは?」という問いに対しては、モトローラからは開発拠点が全世界にあり、端末開発に広い視点が取り入れられるという点。社内の話になるが、上から下まで忖度なく意見のやり取りが行われる点なども挙げられた。こうした例として、日本仕様として好評だった防水防塵(IP68)がグローバルにも取り入れられ、特にインド市場などで好評であることも紹介された。
シャオミからは、コストパフォーマンスの高さと、スマートフォンに止まらない幅広いラインナップなどが挙げられた。また経営陣と顧客の距離が近く、CEO自らユーザーへの情報発信を欠かさないという企業文化を日本でも積極的に行っていきたいとした。
OPPOからは自社一環体制から来る品質の高さ、「薄・軽・大容量バッテリー」という端末の特徴、4年間のOSアップデート保証など、長く安心して使ってもらえる体制という点が挙げられた。
3社から共通する意見としては、各メーカーとも日本市場ではまだまだ認知度が低く、またiPhone一強市場であることもあり、競合ではあるものの、SIMフリー市場全体を盛り上げるための同士であるという認識で、互いに切磋琢磨するいい関係が築けているようだ。
最後に、「端末メーカーからみたIIJmioは?」という問いについては、シャオミからは「こんなに端末を扱ってくれる販路はない。SIMフリー市場の宝箱。多種多様な商品を揃えていただいているし、ユーザーも目が肥えている」と絶賛。オウガ・ジャパンも「ラインナップの充実ぶりや独自のセット企画など、ユーザー獲得のための施策が豊富」と評価した。モトローラは「IIJmioに8年間、ほぼ全機種を扱ってもらっているが、ブランド認知の低い中でしっかりユーザーに魅力を届けてもらっている。ユーザーのリテラシーも高く、メーカー、販路、ユーザーまでを通していい関係が築けている」とした。
ついに現地開催復活!次回は?
約1年ぶりとなったIIJmio meetingだったが、大勢の参加者やハンズオンコーナーの盛況ぶりを鑑みるに、その期待に答えるだけの熱気あふれる開催となったと言えるだろう。次回の予定はまだ決まっていないということだが、感染症がこれ以上拡大しなければ、リアル開催の可能性も高まるだろう。オンライン開催はどこからでも参加しやすいというメリットがあるものの、本イベントの魅力はやはり、ユーザーとエンジニアやメーカーとの交流にある。以前のように東京・大阪と開催できるようになることも期待したい。また、こうしたイベントに興味のある方は、IIJmioユーザーでなくとも参加できるので、ぜひ次回には参加を検討してみてはいかがだろうか。