• AMD、EPYC 4004シリーズを発表 - Zen 4 Raphaelベースの1 Socket EPYC、Xeon E対抗

AMDは米国時間の5月21日、EPYC 4004シリーズ8製品を発表した。事前説明会の資料を基に、このEPYC 4004シリーズをご紹介したい。

EPYC 4004シリーズは、以前のロードマップには存在しなかった製品である(Photo01)。ターゲットはDedicated HostingとかSmall Business向けとなっており、要するに既存の1 Socket EPYCでもまだOverkillな用途向けということになる。もっと平たく言ってしまえばIntelのXeon Eシリーズ対抗、というのが判りやすいかと思われる。

  • Photo01: 単に省いたというよりは、これを投入するかどうか決めていなかったが、最終的に投入を決断したという格好かと思われる。

  • Photo02: これまでだとRyzen Pro 5とかRyzen Pro 7辺りを利用したSMB向けサーバーなどに向けた用途に投入する格好である。

ほぼClient Desktop向けと同じような構成で、ただしそこにEPYCグレードの機能を追加した(というか、無効化していた機能を有効化した)というのが判りやすいかと思う。もの凄い勘ぐり方をすれば、このところRyzen Desktopのマーケットシェアがちょっと伸び悩んでいる。一つはIntelとの競争が再び激化しているという事もあるが、Ryzenが望まれていたマーケットにほぼ製品が入ってしまった、と言う事もあるかと思う。こういうマーケットが毎年無尽蔵に湧いてくるわけもないので、あとは「RyzenでもCoreでもいい」というマーケットをIntelと奪い合う事になる訳だ。

このためには、Ryzenの競争力を高めるというのは当然解決策の一つだが、もう一つRyzenが望まれるマーケットを増やす、という努力もある。今回はこの後者に当たるわけで、これまでRyzenに欠けていたServer向けの機能(いや欠けてて当然なのだが)を追加することで、新たな需要を喚起したいということだろう(Photo03)。実際、EPYC 4004の訴求ポイント(Photo04)を見ると、Desktopとほぼ変わらない価格でServer Gradeの製品が利用できることを大きくアピールしている。「安いサーバーが欲しいけどECCメモリは入れたい」なんて層は、これまでXeon Eシリーズしか解が無かったのが、今回EPYC 4004という形で新しい解を提供できるという訳だ。

  • Photo03: この一つがS/W RaidとかBMC、Server OSのサポート、それとここには無いがECC Memoryのサポートなどが挙げられる。

  • Photo04: 実際SMB Serverなら16コアでも多い程であって、しかも8chとか12chのMemoryも必要ない。確かにこれまでOverkillなところはあった。

さてそのEPYC 4004であるが、要するに既存のRaphaelである(Photo05)。ただRaphaelといってもRyzenというよりもRyzen Proの方が正しいかと思う。そのEPYC 4004のSKUがこちら(Photo06)。ちなみにこの中で4484Xというのは4484PXの間違いである。モデルナンバーの命名規則はこんな感じ(Photo07)。

  • Photo05: 基本全くRaphaelと違いが見当たらない。RAIDXpert2のサポートが唯一異なるポイントか?

  • Photo06: プレスリリースでは4484PXと記載されている。

  • Photo07: EPYC 4124Pを除くと2桁目が8/6/4のみというのは、今後派生型として7/5/3のSKUを追加できる余地がある、という見方も出来る。

要するに

  • EPYC 4584PX ≒ Ryzen 9 7950X3D
  • EPYC 4484PX ≒ Ryzen 9 7900X3D
  • EPYC 4464P ≒ Ryzen 9 7950X
  • EPYC 4364P ≒ Ryzen 9 7900
  • EPYC 4344P ≒ Ryzen 7 7700
  • EPYC 4244P ≒ Ryzen 5 7600
  • EPYC 4124P (N/A)

といった関係になる。既存のRyzen 7000シリーズでは4コアのRyzen 3がラインナップされていないからEPYC 4124Pのみ相当する製品が存在しないが、それを除くと既存のRyzen 7000シリーズとほぼ同じ(動作周波数が若干違うものも混じっているが)格好だ。価格もほぼ同等となっている。なお確認は出来ていないが、EPYCと言う事を考えると周波数の倍率はロックされているものと考えられる。

ちなみに最大構成が16コアなのは、こういう理由(Photo08)もあるそうだ。もっとも現実問題としてRaphaelの構成では16コアを超えるのは不可能ではあるのだが。

  • Photo08: 結果的に丁度コア数とうまくマッチしただけでは? という気もしなくはない。

ところで冒頭で説明したように、競合製品はXeon Eシリーズである。ということで、そのXeon E-2400シリーズとの比較対象がこちら(Photo09)。先程Photo05ではメモリが最大128GBとなっているのに、どこから192GB MAXが出て来たのかちょっと不思議で、これは間違いな可能性が高いが、これは同等の128GBとしても、同じ価格レンジでよりコア数が多く利用可能で、性能も高いというのがアピールポイントとなっている。実際示されたベンチマーク結果(Photo10~18)もこれを裏付けるものとなっている。これらを大雑把にまとめたのがこちら(Photo19)で、Xeon Eよりもコストパフォーマンスが良好であることを強くアピールするものとなっている。

  • Photo09: コア当たりのコスト、というのはあまり見ない斬新な比較である。

  • Photo10: SPECrate 2017_int_baseのスコア。コア数が同じケースでも性能はEPYCの方が高く、しかも12/16コア製品があることで更に差が出る、とする。

  • Photo11: テストはPhoronix Test Suiteをベースとした模様。スコアそのものが示されていないので判りにくいが、Xeon E-2488とEPYC 4364Pだと性能は同等で、性能消費電力比ではむしろEPYCの方が見劣りするという事だろうか?(これはあくまでもTDPの比較で、実際の消費電力ではないから断言できないが)

  • Photo12: 同じくPhoronix Test Suiteでの比較。VVenC/FFmgeg/uvg226/SVT-AV1/libavif avifenc/x265/SVT-VP9/Lvazaar/SVT-HEVC Benchmarkの9つの結果の幾何平均との事。実際の消費電力はこれも測定していないっぽい。

  • Photo13: こちらも同じく。OSPRay/Appleseed/Blender LuxCoreRender/OSPRay Studo/Chaos Group V-RAY Benchmarkの幾何平均との事。

  • Photo14: こちらはCpuminor-Opt/Xmrig/SecureMark/John Ther Ripper/Aircracking/OpenSSL Benchmarkの結果の幾何平均。

  • Photo15: Node.jsのコンパイル時間の比較。これもPhoronix Test Suiteを利用している。ちなみに平均消費電力が示されており、Xeon E-2488が148.1W、EPYC 4364Pが171.2W、EPYC-4564Pが230.3Wだそうである。時間短縮を考えれば、EPYCの消費電力が多少増えるのは仕方ないところか。

  • Photo16: ここまでスループットが変わるのはちょっと不思議である。ちなみに実際の消費電力は示されておらず、電力効率の方はTDPの数字との比較である。

  • Photo17: こちらではXeon E-2488が66.3W、EPYC 4364Pが79.5W、EPYC 4546Pが71.1Wとなっている。EPYC 4364Pが一番79.5W。

  • Photo18: Phoronix Test Suiteに含まれる全テストでの幾何平均。

  • Photo19: EPYC 4364Pの結果と4564Pの結果をしれっと混ぜてあるあたりに注意。

ちなみに基本的にはAM5プラットフォームそのままなので、BIOS Updateなどを掛ければ既存のAM5プラットフォームのマザーボードも動きそうな気はするが、これに関しては確たる情報はまだ出て来ていない。ただしこの6社(Photo20)からはマザーボードもしくはホワイトボックスサーバーの形で対応ソリューションが投入されるのは確実である。またOVHcloudとIONOSの2社がEPYC 4004を利用したHosting Serviceを同日より提供開始しており、2024年中には他にも続く予定、とされている。

  • Photo20: 少なくともこの6社からはソリューションが出てくる形。チップセットは不明だが、恐らくX670にBMCのサポートを追加したというあたりだろう。

なお、このEPYC 4004シリーズがリテールマーケットに投入されるかどうかは定かではないし、日本での価格もまだ不明だが、プレスリリースによればPhoto20の6社以外にLenovoとNewEggの名前が挙がっており、このNewEgg経由であるいはEPYC 4004単体での購入が可能になるかもしれない。