今年のCESで発表されたRyzen 8000Gシリーズであるが、予定通り1月31日に発売された。既に秋葉原で発売されているのはレポートの通りだ。今回諸般の事情で評価チップが届いたのが発売日後ということで、遅めの性能レポートになってしまった事をお詫びしたい。
評価機材
今回はRyzen 5 8600GとRyzen 7 8700Gの両方が届いた(Photo01~05)。きちんとOSからも認識されている(Photo06~09)。ちなみに評価キットにはRyzen 8000G対応のBIOSを搭載したマザーボードが付属していたが、マザーボード各社はRyzen 8000Gに合わせて対応BIOSをリリースしており、これにUpdateする事で問題なく既存のSocket AM5マザーボードで利用可能である。実際今回評価に浸かったASUS PRIME X670E-PRO WIFI-CSMも今年の1月30日付でAGESA version Combo AM5 PI 1.1.0.2bに対応したVersion 2412がリリースされており、これを利用する事で問題なく動作した。
■表1 | ||||
CPU | Ryzen 7 5700G | Ryzen 7 7700X | Ryzen 5 8600G Ryzen 7 8700G |
Core i7-13700KF |
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M/B | ASUS ROG STRIX B550-E GAMING | ASUS PRIME X670E-PRO WIFI-CSM | ASUS PRIME Z690-A | |
BIOS | Version 3404 | Version 2412 | Version 2802 | |
Memory | G.Skill F4-3200C16-16GSXKB×2 DDR4-3200 CL22 32GB |
Micron CMK64GX5M2B5200Z40×2 DDR5-5200 CL44 64GB |
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Video | 統合GPU(Radeon Graphics) | ASRock AMD Radeon RX 6600 Challenger D | 統合GPU(Radeon 760M/780M) | ASRock AMD Radeon RX 6600 Challenger D |
Driver | Adrenalin 24.1.1 WHQL Vega-Polaris | Adrenalin 24.1.1 WHQL RDNA | ||
Storage | Seagate FireCuda 520 512GB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot) WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data) |
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OS | Windows 11 Pro 日本語版 23H2 Build 22631.3085 |
その他の環境は表1に示す通りである。今回の評価は
- Ryzen 8000GシリーズのCPU性能はどの程度の性能か?
- Ryzen 8000Gシリーズの統合GPU(Radeon 760M/780M)はどの程度の性能か?
の2点であり、対抗馬としてはギリギリ1080P Gamingを名乗れるであろうRadeon RX 6600を用意した。GeForce RTX 3060でも良かったのだが、以前のテストで、大体Radeon RX 6600も同程度(やや性能は低いがその分消費電力も低い)と判っているので、今回はRadeon RX 6600だけにした。もっとも普通に考えてRadeon RX 6600に及ぶ筈もないのであって、頑張ってどこまで行けるのかを見る程度にとどめた(あるいはRadeon RX 6500 XTとかGeForce RTX 3050あたりまでグレードを落とした方が良かったかもしれないが)。Ryzen 7 5700GはAPUの前世代製品ということで、前世代からどこまで性能が向上したかの指標とするために利用した。そんな訳でRyzen 7 5700G、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは内蔵GPUのみで、Ryzen 7 7700XとCore i7-13700KFはRadeon RX 6600と組み合わせての評価としている。
なお内蔵CPUに関しては、FSR2/FSR 3を利用できるものに関してはこれを有効にした場合としなかった場合で、利用できないものはAMD FMF(Fluid Motion Frames 参考記事:https://news.mynavi.jp/article/20240209-2880538/)を無効/有効化して、それぞれ性能の変化も確認した。
グラフ中の表記は
5600G :Ryzen 5 5600G
7700X :Ryzen 7 7700X
8600G :Ryzen 5 8600G
8700G :Ryzen 7 8700G
13700KF:Core i7-13700KF
となっている。FSR2/FSR 3、ないしFMFを使った場合の結果は、例えば5600G_FSR2の様に表記している。また解像度表記も何時もの通り
1.5G:1600×900pixel
2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
とした。
◆CineBench R23(グラフ1)
CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
もう旧ベンチマークになってしまったCineBench R23であるが、古いCPUとの比較には便利であろうという事でとりあえずやってみた。結果はグラフ1の通りでまぁ順当といった結果。同じ8コア同士で言えば、TDP 65W枠のRyzen 7 5700Gに比べてRyzen 7 8700GはSingleで11%、Multiで22%の性能向上が見られ、それなりに性能が向上しているのが判る。TDP 105WのRyzen 7 7700Xと比較してもRyzen 7 8700Gのスコアはそれほど遜色ない。流石に合計24threadのCore i7-13700KFには及ばないが、消費電力も桁違いであることを考えると、性能/消費電力比では悪くない(というか、むしろ良い)性能になっていると思う。
◆CineBench R24(グラフ2)
CineBench R24
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
こちらが現行版である。ちなみにCineBench R24では久々にGPU Renderingが復活したのだが、残念ながらRyzen 7 5700GはもとよりRyzen 8000GシリーズのRadeon 760M/780Mでも動作環境を満たしていないということで動作しなかった。最低要求が8GBのVRAMを搭載していることで、これに引っかかったものと思われる。
結果(グラフ2)はグラフ1と同傾向である。まぁ最高速なのがCore i7-13700KFなのは不思議でも何でもないが、後で消費電力の所で説明するがCore i7-13700KFの実効消費電力差はRyzen 8000Gシリーズの3倍程であり、性能/消費電力値では非常に良い(Ryzen 7 5700Gを上回る)結果を出しているあたり、絶対性能と性能/消費電力比のどのあたりでバランスをとるか、を問う結果になっている感じである。絶対性能で言えば、確かにRyzen 7 7700Xにも及ばない程度であるのだが。
◆PCMark 10 v2.1.2662(グラフ3~8)
PCMark 10 v2.1.2662
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10
おなじみPCMark 10。もっともPCMark 10そのものはもうだいぶ通常のUsage Modelから外れてしまった感が強く(特にOpenCLを多用するあたり)、Office 365を使ったApplication Testが一番実情に近い気はするのだが、それは兎も角。全体の傾向(グラフ3)としては
Ryzen 7 5700G < Ryzen 5 8600G < Ryzen 7 8700G < Ryzen 7 7700X < Core i7-13900KF
という感じであるが、意外にRyzen 7 5700GとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能差が無いのが判る。これはRyzen 7 7700X/Core i7-13700KFについても同じで、確かに性能差はあると言えばあるのだが、大きいものだとは言いにくい。唯一性能差がはっきり出るのはPCMark 10 Extendedの結果だが、これは3DMark FireStrikeを組み込んでいるのが関係しており、これを除いたPCMark 10の結果はそう大きな違いが無いあたりがこれを物語っている。
もう少し仔細に、ということでTest Group(グラフ4)を見ると、明確に「大きな」差があるのはDigital Contents CreationとGaming(これは3DMark FireStrikeである)で、EssentialsやProductivityは言うほど大きな差は無い。
Essentials(グラフ5)を見ると、Video ConferencingなどRyzen 7 5700GがRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gを上回る結果になっている。これはVideoConferencingDetectPrivateOclとVideoConferencingDetectGroupOclという2つのOpenCLを使った処理が、Ryzen 8000Gシリーズでは性能が出ないため。ただその他のOpenCLを使った処理は同等の性能なので、一概にRyzen 8000GシリーズはOpenCLが遅いとも言いにくいし、ただRDNA2のRadeon RX 6600の方は更に高速に処理できる(これがRyzen 7 7700XとCore i7-13700KFが更に性能が高い一因でもある)あたりは、ドライバの癖とでもいうべき問題なのかもしれない。
Productivity(グラフ6)ではWritingではRyzen 7 5700G以外大きな差は無し。これは恐らくだがメモリ帯域の問題かと思われる(Load/Save/Pictureの3つのみ、他より時間を要しているため)。一方のSpreadsheetsは、CPU処理に関してはどれも殆ど性能差が無い(というか、一番遅いのがRyzen 7 5700Gで、他は大差がない)のだが、MonteCarloとEnergyMarketという2つのOpenCLを利用した処理で性能差が出ており、これは先のVideo Conferenceの時と同じくRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gが妙に遅いのが性能差がついた理由である。
これはDigital Contents Creation(グラフ7)も同じである。Video Editingのスコアが実際のCPU性能の差にほぼ近い。Rendering & Visualizationは3DMark Sligh Shot+POV-Rayであり、POV-RayのスコアはほぼCPU性能に比例する感じであるが、3DMark Sligh Shotの方がもろにGPU性能を反映しており、これで大差がついた格好だ。一方Photo EditingではやはりOpenCL系の処理がそのままスコアに直結している。ただこれをちょっと生データで見てみたのが表2である。CPUを使う処理に関しては概ねCPU性能そのままといったところで判りやすいのだが、問題はOpenCLの方。BatchとかContrastは間違いなくRyzen 7 5700Gが一番遅いのだが、BlurなどではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはそのRyzen 7 5700Gの倍の処理時間を要するといった具合に、処理による差が結構大きい。もっと面白いのはRyzen 7 7700XとCore i7-13700KFで、どちらもRadeon RX 6600を使っているのだから性能差は無いか? と思うと、これが全般的にRyzen 7 7700Xの方が処理が高速になっているのが判る。このOpenCL周りの処理性能の差+CPU処理性能の差がグラフ7の結果に繋がっている訳で、なかなか複雑である。
■表2 | ||||||
処理名 | 5700G | 7700X | 8600G | 8700G | 13700KF | |
---|---|---|---|---|---|---|
CPU | Thumbnail | 0.11 | 0.09 | 0.17 | 0.15 | 0.09 |
Png | 12.49 | 10.58 | 11.71 | 11.57 | 10.61 | |
Jpg | 1.03 | 0.83 | 0.92 | 0.90 | 0.91 | |
Noise | 0.24 | 0.15 | 0.22 | 0.17 | 0.12 | |
Unsharp1 | 1.50 | 1.24 | 1.70 | 1.40 | 1.30 | |
Color | 1.92 | 1.51 | 2.08 | 1.65 | 1.28 | |
OpenCL | Batch | 24.39 | 3.08 | 7.03 | 5.15 | 3.41 |
Denoise | 1.90 | 0.29 | 1.05 | 0.81 | 0.34 | |
Contrast | 16.62 | 1.47 | 4.13 | 2.98 | 1.54 | |
Unsharp2 | 1.05 | 0.54 | 1.19 | 0.94 | 0.71 | |
Blur | 0.26 | 0.21 | 0.53 | 0.43 | 0.31 | |
(所要時間:sec) |
そういうOpenCL周りの影響を受けない(何しろOpenCLのアクセラレータを利用していない)のがApplications(グラフ8)で、Excelを除くとそう大きなばらつきは無い(PowerPointとEdgeも多少差はあるが、どちらもメモリ帯域に影響されやすいアプリケーションであり、内蔵GPUを使うとそのメモリ帯域で多少のハンディキャップが出る事は否めない)。ではExcelは? というと、これはもう純粋にCPU性能というかマルチスレッド性能の差であり、コア数もピーク性能の高いCore i7-13700KFが最高速、次いでRyzen 7 7700Xというのは妥当な結果である。ただスコアの絶対値で言えば、一番低いRyzen 7 5700Gでも全体で12000超、Excelでも22000超というのは普通に使う分には全く問題を感じさせないレベルのスコアであることは改めて強調しておきたい。Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは、確かにCore i7-13700KFやRyzen 7 7700Xには及ばないスコアであるが、普段使いに支障があるようなレベルでは全くない。
◆Procyon v2.6.988(グラフ9~12)
Procyon v2.6.988
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/procyon
次はProcyonであるが、度重なるAdobeのVersion Upにベンチマーク本体が追い付かない現象がまたしても発生。今回Photoshop及びLightroom Classicを使ったPhoto Editingが途中でエラーを吐いて終了するため、Photo Editingは省いて残り3つで比較を行った。
と言う事でOverallがこちら(グラフ9)。まぁやはりCPUの性能そのままという感じだが、Video EditingではCPU性能以上の差がついているのはメモリ帯域も関係しての事と思われる。
まずAI Inference(グラフ10)だが、生憎ProcyonはまだRyzen AIに対応していない(これはIntelのCore Ultra搭載NPUも同じであるが)。またGPUにも対応していないため、これは純粋にCPUの性能となる。こちらは6種類のNetworkのInferenceをCPUで実行し、その際の所要時間を示したもので、なので棒が長いほど遅い事になる。また結果の桁が大きくばらついているので、グラフが対数表示になっている事に注意されたい。さて、Ryzen 7 7700X/Core i7-13700Kが最高速なのは当然として、Ryzen 7 5700GとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能差も2倍以上というのは、単にCPU性能だけではなくメモリ帯域(DDR4-3200×2 vs DDR5-5200×2)も効いているものと考えられる。まぁ本来これらはCPUでやるものではなく最低でもGPU、できればNPUで実施すべきものであり、あくまで一つの目安といったところだろうか。Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GとRyzen 7 7700X/Core i7-13700Kの性能差も微妙で、差が大きい物(Deeplab v3とかInception v4)は3倍近い性能差があるのに、小さい物(例えばEsrgan)は数十%程度の差でしかないなど、Networkによって差があるのはまぁ仕方ないところか。このあたり、早くアプリケーションの側がGPU/NPUに対応してほしいところである。
もう少し意味のあるベンチマークがOffice Productivity(グラフ11)で、傾向的には先のPCMark 10のApplications Testに近いものになっている。ただWordの結果でCore i7-13700KFの伸びがPCMark 10より大きいが、これはPCMark 10の方には含まれないPDFの書き出しとかExcelからの表の取り込みなどが入っており、ここで差をつけた格好になっている。このあたりは動作周波数の違いもあるから、ある程度差が付くのは致し方ないところだ。
次のVideo Editing Detail(グラフ12)もまたCPUのみでのEncodeなので、やはりCPU性能がそのまま反映される形になっている。ただこれも、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GがターゲットとするようなマーケットであればむしろMedia Encoderを使って処理すべきものであり、Professional向けにパラメータを細かくいじってCPUによる高品質エンコードを行うような用途はXeon WなりRyzen Threadripperなりを投入すべきなので、あまり現実的な比較ではない様にも思える。まぁそれはともかくとして、ここでは性能差がAI Inferenceとか程には出てこないのは、CPUの処理負荷が律速段階になってしまっており、メモリ性能などより先にCPUボトルネックを起こしているためと考えられる。こうなると、実は言うほどに性能差が出ない。一番処理負荷の高いH.265 #1(4K UHD動画のエンコード)の場合、Ryzen 7 5700Gの処理性能を1.0とするとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは1.12~1.14程度、Ryzen 7 7700Xが1.35、Core i7-13700KFも1.55程度でしかない。つまり、言うほど性能差は無い、という訳だ。
◆GeekBench ML 0.60(グラフ13)
GeekBench ML 0.60
Primate Labs Inc.
https://www.geekbench.com/ml/
Procyonよりもう少しマシなAI Benchmarkは無いか? ということで色々探したのだが、結果から言えば無かった。一番問題なのは、まだRyzen AIを利用するベンチマークが、AMD自身すら持ち合わせていない(Ryzen AIを利用するデモソフトは存在するが)ということで、この辺りは現時点では見送りとするしかない。次善の策ということで試してみたのがこのGeekBench MLである。まだ完全版ではない(なにしろVersion 0.60だ)が、ONNX RuntimeをCPUとGPU(DirectML)を選んで実行できるという意味で貴重なテストである。
起動するとこんな感じ(Photo10)。FrameworkはONNXのみが選択可能である。BackendはCPUとDirectMLが選択可能で、DirectMLを利用した場合はGPUの選択が可能となる(Photo12)。テストそのものは
Image Classification
Image Segmentation
Pose Estimation
Object Detection
Face Detection
Depth Estimation
Style Transfer
Image Super-Resolution
Text Classification
Machine Translation
の10種類について、それぞれFloat32/Float16/Int 8で推論を行い、その結果からInference Scoreを算出して結果をhtmlで表示する(Photo13)。もう少し詳細な説明はこちらにまとめられているが、算出方法そのものは明記されていない(恐らくだが、個々のテストについてReferenceとの性能比を求め、最終的に幾何平均でReferenceとの性能差を求め、それにReference Scoreを乗じている様に思われる)。ちなみにReferenceはCore i7-10700を利用した場合で、その際のReference Scoreは1500になるそうだ。
ということで結果がグラフ13となる訳だが、Ryzen 7 7700X/Core i7-13700Kが突出しているのはまぁ当然として、CPUだとRyzen 7 5700GとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gが大差ない、というのはちょっと意外だった。逆にGPUを使うとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはRyzen 7 5700Gのダブルスコア、とまではいかないものの相応に高いスコアが出ているのはGPU性能差(というかDirectMLの性能差)という訳だ。ただそれでもRadeon RX 6600には及ばないのだが。