CP+2024でシグマは、交換レンズの新製品「SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Art」と「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports」を出展。特に、15mmの魚眼レンズはニッチともいえる用途をターゲットにしたレンズですが、同社の山木和人社長は、メーカーも思いもよらなかった使い方をされることを期待していると語ります。交換レンズのマウント展開の方針やフルサイズのFoveonセンサーの開発状況など、気になるところを今年も山木社長に直撃インタビューしました。
新レンズで新たな写真表現を
新レンズの15mm F1.4は、180度の画角を誇る対角魚眼レンズですが、F1.4という大口径を実現した点が「民生用としては世界初」(同社)といいます。CP+2024会場でのプレゼンテーションでは、山木社長が「誰が使うのか」と発言するほどニッチな商品です。
このスペックは、特に星景写真家からの要望が多かったそうです。シグマは、星景写真向けに「14mm F1.4 DG DN」があり、その経験を生かして開発したのが新レンズ。山木社長が「持っただけで見分けが付くようになってほしい」と冗談めかして言うほど見た目は似ています。
ただ、三脚座以外は新規開発のパーツを使っているそうで、流用してコストを抑えるといったことはなかったとのこと。そんな15mm F1.4は「作ったモチベーションは完全に星景写真家向け」(山木社長)ですが、利用するのは「星景写真の中でも特殊な(撮影をする)人たちかな?」と考えていたそうです。
しかし、実際には「意外に反応が良い」というほど好評で、ブースでも手に取る人が多かったように見えました。それもあり、山木社長は「もしかしたら意外に売れるんじゃないかという気がしています」と笑います。何より、このスペックのレンズは他社にはないので、星景だけでなくさまざまなシーンで活用される可能性があるとみているそうです。
山木社長は、1つの活用例としてオーロラ撮影を挙げます。オーロラのように景色を大きく取って撮影したい場合は、魚眼レンズぐらいの画角が必要で、それでいてサジタルコマフレアなどの収差を補正したこのレンズは、「オーロラの新しい表現を実現できるレンズとして重宝される気がしています」(山木社長)とのこと。
既存の14mm F1.4は画角が114.2度で、180度の15mm F1.4とはもちろん差があります。そのため、山木社長が話した星景写真家は「撮影には両方持っていく」と話していたそうで、星景写真家にとっては性格が異なる2本のレンズとして人気になると期待しているようです。
とはいえ、そもそもニッチな商品ではあります。しかし、スマホカメラには早くから超広角カメラが搭載されてきたこともあって、昨今はより広角に対するニーズは高まっているそうです。
例えばポートレート撮影も、これまでは焦点距離50mm以上が一般的なレンズでしたが、最近は35mmもよく使われるようになっています。さらに、Instagramなどでは若いユーザーが超広角や魚眼レンズを使った新しい表現を見せているといいます。
そのため、今回の15mm F1.4が新たな写真表現につながるような、「ユーザーの創造性をかき立てるレンズになるといい」と山木社長は話していました。
超望遠レンズの500mm F5.6も、手ブレ補正を内蔵しながら1,370gを実現。持ってみると分かるのですが、破格の軽さです。手軽に手持ち撮影できる重量であり、山木社長は野鳥撮影や動物撮影に加えて、圧縮効果を生かしたストリートフォトにも使えるとアピールします。
「結構需要はあるのでは」と山木社長は語ります。開発当初から、先端部や操作部の太さを想定し、手ブレ補正のユニットやフォーカスのモーターをどこに配置するか、レンズの配置をどうするか、すべてを想定して設計したことで、このコンパクトさと軽さを実現したそうです。
500mm F5.6は手軽に持ち歩けて手持ちで撮影できる高画質の超望遠レンズであり、独特の撮影ニーズに応えるレンズにも感じました。
FFF(Full Frame Foveon)開発は難航?
シグマが開発を続けるフルサイズのFoveonセンサーについて、2023年のインタビューでは少しずつ進展していて2024年にも量産化の可能性に触れられていましたが、今年のインタビューでは山木社長の表現は後退しており、開発が難航している現状が告げられました。
まず大前提として、シグマはまだフルサイズFoveonセンサーの開発を継続しており、製品化に向けて取り組んでいると山木社長は明言。ただ、進捗という点では「あまり進展はしていない」(山木社長)というのが正直なところだそうです。
センサーの開発はまだ設計段階で、一番の問題となるのはセンサーの量産化技術だといいます。シグマは、カメラ、レンズのパーツは製造できますが、半導体の製造はできないため、パートナーに製造を委託する必要があります。
そうした状況もあり、センサーは設計段階で、量産化技術は「まだ研究開発の段階」(同)。前回のプロトタイプにあった問題を解消するために新しい設計を行い、それを反映した新たなプロトタイプの完成を待っている状態で、その結果が判明しても、さらに量産化技術を確立する必要があるわけです。
製造パートナーも過去に変更した経緯があり、現時点ではさらに新たなパートナーを「探している段階」(同)。フルサイズFoveonセンサー搭載カメラはそれほど大きなボリュームにはならないと見込まれ、特殊なセンサーの委託をするためには「ある程度量産化技術を確立させる必要がある」というのが山木社長の説明です。
もともとFoveonセンサーは「専用のプロセスが必要」(同)という特殊なセンサー。そのため「現在は、設計段階でなるべく普通のプロセスを使って3層構造を実現することにチャレンジしている」(同)そうです。ただ、これが難しく、課題が解決できていない、という状態のようです。
現時点で、フルサイズFoveonセンサーの製品化は見通せておらず、搭載カメラの登場時期は未定ということでした。ただ、前述の通り、山木社長は今後も開発を継続する意向を示しています。
Z、RFマウント向けレンズは?
CP+2023では、ニコンZマウント向けのレンズを発表したシグマ。富士フイルムXマウント向けもラインナップが追加され、キヤノンRFマウントへの展開も期待されていたところですが、現時点ではLマウントとEマウントが主力というのは変わっていません。
特にRF、Zは一眼レフカメラからの移行が増えている状況で、ユーザーからの声も「非常に多く、それは認識しています」と山木社長。「何ができるかは考えたいが、今すぐ何かできることがあるかは何ともいえない状況」とのことでした。
Xマウント向けは「非常に好調」とのことで、これまで受注停止していたX-T5やX-S20の受注も再開したことから、さらに売上が伸びる可能性はあります。そうなれば、シグマの戦略にも影響があるかもしれません。
とはいえ、いずれのマウント向けも明確な否定というわけでもないのですが、現状としては「さまざまな情報を確認している」という段階のようで、RFマウント対応製品の登場やZ/Xマウントへのさらなるラインナップ拡充は時間がかかりそうな雰囲気でした。