スマートフォンやデジタルカメラなどデジタル撮影が全盛の現在ですが、若年層を中心にフィルムカメラが人気を集めています。独特の写りや「現像に出すまでは何が写っているか分からない」という不便さが逆にエモい、新鮮だ、と好まれているようです。ただ、スマートフォンやデジタルカメラにはない注意点も多いのが事実。これからフィルムカメラを始めてみたい…と考える人に、フィルムカメラのイロハを解説しましょう。

  • 35mmフィルムを使用するフィルムカメラ。コンパクトカメラ、一眼レフカメラ、レンジファインダーカメラなど、さまざまなスタイルのモデルが存在し、クラシカルなデザインも魅力。現在、新品のフィルムカメラはごくわずかしかないため、基本的に購入は中古となります

フィルムカメラの不便さやぼんやりした画質が若者に響いている

フィルムカメラがいまだ根強い人気を誇っています。デジタルカメラが普及し、スマートフォンで写真を楽しむことが一般化している現在でも、フィルムカメラを求め、フィルムで写真を楽しむ人が一定数います。

ところが、近ごろはベテランの写真愛好家だけでなく、フィルムカメラの時代をほとんど知らない若い世代がフィルムカメラに興味を示すようになりました。デジタルとは異なるローファイな写りが面白いと感じたり、撮影できる枚数が限られる不便さゆえに写真を撮るという意識が強く持てたり、あるいはフィルムで写真を撮ること自体が世界的にちょっとしたブームになっているから、といったことが理由のようです。

近年では、大手メーカー製のフィルムは種類が整理されて減ってきているものの、これまで聞いたことのない個性的な外国製のフィルムが多数流通してきていることも、ブームの要因のひとつと述べてよいでしょう。

「フィルムや現像がすごく高くなったのに、なぜ人気が出ているの?」といぶかしがる向きもありますが、新しいフィルムカメラファンは、安く楽しめる時代を知らなかったことが逆に幸いし、フィルムの値段はこんなもんだと納得していることもあるでしょう。

これからフィルムカメラを始めたい、これからフィルム写真を楽しみたいと考える人に向けて、機材選びからフィルムを扱うときの注意点など基本的なことがら解説していきましょう。

フィルム一眼レフと単焦点レンズの組み合わせがオススメ

まずはカメラ選びです。装填するフィルムの種類によって、35mmフィルム(135フィルム)を使用する35mmカメラ、ブローニーフィルム(120フィルム)を使用する中判カメラ、シートフィルムと呼ばれる大きなサイズのフィルムを使用する大判カメラですなどがありますが、もっとも一般的で扱いやすいのが35mmカメラとなります。

  • 対応するカメラも含め、手に入れやすいのが35mmフィルム。135フィルムとも呼ばれ、フィルムは「パトローネ」と呼ばれる金属製の容器に入っています。撮影可能枚数は36枚、24枚、20枚で、かつては12枚撮りのフィルムもありました。カラーネガ、カラースライド、モノクロのフィルムが流通しています(写真のフィルムは旧デザイン、および廃番になったものも含まれます)

ちなみに、35mmフィルムの撮影可能枚数は36枚もしくは24枚が一般的で、デジタルのようにガシガシ撮れる枚数ではないため、被写体とじっくり対峙して撮る必要があります。

35mmカメラも、構造の違いによっていくつかの種類があります。レンズとボディが一体で比較的小型軽量のコンパクトカメラ、レンズ交換が可能な一眼レフカメラ、レンジファインダーカメラ(距離計連動カメラ)などがあります。

  • コンパクトカメラは、基本的にボディとレンズが一体になったカメラのことをいいます。小型軽量で、シャッターを押すだけの操作がシンプルなものと、撮影者が露出やピント合わせを行うものがあります。写真右のカメラのように、ユニークなスタイルのものもありました

  • 一眼レフカメラはレンズの交換が可能で、そのレンズを通った光をもとにファインダーに画像を表示します。マニュアルフォーカスで露出もユーザーが設定するMF一眼レフ、同じくマニュアルフォーカスでAE露出に対応するAE/MF一眼レフ、オートフォーカスとAEどちらも備えるAF一眼レフの3つに大きく分けられます

  • レンジファインダーカメラは、レンズ交換ができるものの、ファインダーの画像は専用の光学系を使用します。M型ライカが有名ですが、国産でも1950年代までは多くのメーカーからリリースされていました

さらに、露出の設定を撮影者が行うマニュアル露出のカメラ、カメラ側で自動的に露出を設定してくれるAEカメラ、ピントを手作業で合わせるマニュアルフォーカス(MF)カメラ、カメラがピントを合わせるオートフォーカス(AF)カメラなど、35mmカメラの種類は多岐にわたります。

幅広い層に向くのが、手軽に使えて携帯性にも優れるコンパクトカメラですが、手に入れやすく種類も豊富でレンズ交換のできる一眼レフカメラもオススメです。一眼レフは、マニュアルでのピント合わせを楽しみたければMF一眼レフを、ピントも露出もオートがよければ同じくAF一眼レフを選ぶとよいでしょう。

一眼レフ用の交換レンズは、単焦点レンズとズームレンズがあります。ズームレンズは自由に画角が変えられますが、開放F値の関係からマニュアルフォーカスのカメラではピントが合わせづらいことが多いのが欠点です。単焦点レンズは画角こそ変えられませんが、開放F値が明るいためピントが合わせがしやすく、写りがよいのも特徴。マニュアルフォーカスのカメラで撮影を楽しみたければ、焦点距離35mmあるいは50mmの単焦点レンズがオススメです。オートフォーカスの場合はズームレンズでも構わないでしょう。

  • 左は焦点距離が変えられるズームレンズ、右は焦点距離が固定されている単焦点レンズ。一見、ズームレンズの方が便利なように思えますが、一般に単焦点レンズのほうが開放F値(F1.8などと書かれた数値)は明るく、ピントが合わせやすいほか、写りもズームレンズより優れる場合がほとんどです

  • 左は撮影者がフォーカスリングを操作してピントを合わせるマニュアルフォーカス(MF)レンズ、右はカメラがピントを合わせるオートフォーカス(AF)レンズです。使用する一眼レフカメラに応じて選ぶようにします。MFレンズの方がフォーカスリングの形状など操作しやすいのが一般的です

中古カメラや中古レンズはカメラ専門店での購入がベター

フィルム一眼レフおよびMFレンズの購入は、基本的に中古となります(一部のAFレンズは現在も新品での購入が可能)。中古品は、中古カメラ店や中古カメラ店のネット通販、ネットオークション、フリマアプリなどで入手できますが、強くオススメしたいのは中古カメラ店での購入です。多くのカメラやレンズを手に取って状態を確認できるうえ、お店によっては専門業者による点検整備が行われていたり、一定期間の保証が付くことも多いので安心です。店員からアドバイスをもらいながら製品選びできるのも、実店舗ならではのメリットといえます。

反対に避けたいのは、ネットオークションやフリマアプリ。現物を直接手に取って見られないばかりか、素人がジャンク品を修理した素性の怪しいものや、不具合を隠したものが出品されており、リスクがあるからです。もちろん、問題のないカメラも出品されていますが、アップロードされた画像だけで状態を正しく確認するのは困難。保証も付かず、不具合があった場合も返品や返金に対応してくれない場合もあるので、カメラのことを熟知していない入門者は避けた方が賢明です。

フィルムカメラは古い商品が多いので、基本的にトラブルは付きものと考えた方がベター。もし故障した場合でも、機能的にシンプルなMF一眼レフの方が修理しやすいといえます。AF一眼レフなど電子部品を多用するカメラは修理できない可能性が高いと考えてよいかと思います(MF一眼レフでもAE機能や露出計などは直せない場合もあります)。

レンズについても同様で、電子部品を内蔵するAFレンズよりもMFレンズのほうが修理できる可能性が高く、なかでも単焦点レンズはズームレンズよりも構造がシンプルなため、修理可能なものが多いと思ってよいでしょう。なお、光学系に付着したカビやクモリは除去できない場合があるので、その点は覚えておきましょう。

外国製のフィルムは現像が断られることもあるので要注意

フィルムの購入にあたっては、まず使用期限をチェックしましょう。フィルムの入っている箱に記載されており、それで確認します。使用期限の切れたフィルムを安く売っている場合もありますが、使用期限からそれほど日が経っていなければ、さほど問題になることはありません。ただし、時間が経てば経つほど発色の変化やコントラストの低下、粒状性の悪化など、画質の劣化が見受けられるようになるので、その点には注意する必要があります(それが面白いとする楽しみ方もあります)。ちなみに、使用期限はその日までに撮影を終えなければならない日のことではなく、フィルム現像まで終える日のことを表します。

最近の傾向として、フィルムによっては生産が追いつかず手に入りづらいものがあり、購入の個数制限を設けているお店もあります。

外国製のフィルムで気をつけたいのが現像です。フィルムによっては特殊な現像方法や現像液を必要とするものがあるため、国内のカメラ店では現像を断られるものもあります。外国製のフィルムを購入する際は、現像できるかどうかを購入前に店員に確認するとよいでしょう。

参考までに、フィルムの取り扱いについて記しております。購入したフィルムは、必ず冷暗所で保管するようにします。一般家庭でフィルム保管に適しているのが冷蔵庫となります。使用する際、冷蔵庫から取り出した直後はフィルムが結露することがあるので、使用する1時間ほど前に冷蔵庫から出しておき、外気となじませておくようにします。

撮影したフィルムは現像が必要で、現像したあとはプリントあるいはスキャンをすることで正しい色で見られるようになります。プリントは、基本的に現像に出したお店で対応してくれます。スキャンしてデジタルデータにするには、プリントと同様に現像に出したお店で対応してくれますが、スキャナーなどの機材があれば自宅でデータ化できます。

  • 現像が終わったフィルム。カラーネガフィルムはオレンジのベースの上に明暗を反転させた像が現れ、モノクロフィルムは白黒を反転させた像が現れます。カラースライドはそのままの像となります

  • 液晶パネルを内蔵し、パソコンなしでフィルムのスキャンが可能な簡易型のフィルムスキャナーがあると便利。デジタルデータにすることでSNSなどにアップしたり、プリンターで写真プリントも楽しめます。値段も比較的リーズナブルなので、カメラの次に手に入れたいアイテムです。写真はケンコー・トキナーの「KFS-14WS」(現在販売中の後継モデル「KFS-14DF」の実売価格は21,800円前後)

フィルムはX線で感光してしまうため、航空機に搭乗する際は気をつける必要があります。X線をカットする専用の袋にフィルムを入れるとともに、手荷物検査場では係員に写真用フィルムであることを伝えるようにします。預け荷物は、内容物確認のため保安検査場以上の強いX線が照射されることがあるため、預け荷物にはフィルムは入れず、機内持ち込みにするのが賢明です。

これまでフィルムでの撮影の経験がなく、何はともあれフィルム写真を楽しんでみたいと思う人は、まずは「写ルンです」をはじめとするレンズ付きフィルムを試してみるのがよいでしょう。レンズなどの装備が簡素なので、一眼レフカメラやコンパクトカメラよりも写りは劣りますが、フィルム装填やピント合わせの手間が不要で誰でもすぐ使えるので、初めてのフィルムカメラとしては最適です。モノクロフィルムを内蔵するレンズ付きフィルムもあるので、モノクロ写真に挑戦したい人も手軽に始められます。