早いもので、「画面が曲がる」という革新的なギミックを持った折りたたみスマートフォンが日本市場に上陸してから、もう4年以上が過ぎています。縦折りの「フリップ」タイプに関しては韓国の若者文化の流入などにも後押しされて少しずつ街中で見かける機会が増えてきた印象もありますが、それでもまだ折りたたみスマートフォンは高価で珍しいもの、ごく限られた人が選ぶ機種という状況は大きく変わってはいません。
ところが、モトローラが今冬発売する「motorola razr 40」は少し様子が違います。SIMフリー版のrazr 40は最安79,800円から(IIJmioでのMNP特価)、ソフトバンク版のrazr 40sは99,680円から(MNPや22歳以下など向けの特価)と、通常型のスマートフォンのちょっと良い機種とさほど変わらない価格で手が届きます。これなら現実的な選択肢のひとつとして検討に値するのではないでしょうか。
今回は、そんな“身近になった折りたたみスマホ”として注目しておきたいrazr 40をお借りして試用しました。
ultraより控えめでも、折りたたみスマホらしいおしゃれさが魅力
モトローラ製折りたたみスマートフォンの2023年モデルとしては8月に、上位機種の「razr 40 ultra」が先行して日本市場に投入されています。性能面でいえば、ultraはSnapdragon 8+ Gen 1で無印はSnapdragon 7 Gen 1、価格で言えばultraは155,800円で無印は定価125,800円(SIMフリー版)と「ワンランク下の機種」と映るかもしれませんが、電池持ちの良さやFeliCa対応など、上位機種が先に出ていても見劣りしないどころかあえて無印を選びたいと思わせるところもあります。
性能・機能については後半で詳しく見ていくとして、ひと目見てわかる大きな違いは「ultraにあった大きなサブディスプレイがこちらにはない」ということです。
razr 40 ultraは本体を閉じた状態でもマップやコード決済などのアプリを難なく使えてしまうほど大きなサブディスプレイを備えていました。一方、razr 40のサブディスプレイは1.5インチで、時間や通知を見たり簡易的な操作ができる程度。ガラケーの背面液晶に近い感覚といえば伝わりやすいかもしれません。
こう言うとultraのほうが優れていて無印では物足りないように思われるかもしれませんが、その限りではなく、むしろrazr 40のような「サブディスプレイらしいサイズのサブディスプレイ」に留まっていたほうが縦折りスマホらしい魅力が残るという面もあると思います。
razr 40 ultraに限らず、競合製品であるサムスンのGalaxy Z Flip5など、2023年に入ってからの各社の縦折りスマートフォンはこぞってサブディスプレイを背面の片側全体に拡大し「閉じたままでも便利に使える」方向に舵を切っています。確かに便利ではあるものの、その思考の行き着く先は「だったら開いて使えばいいじゃん」「普通のスマホで良くない?」という、あえて折りたたむ意味を否定する結論に至りかねない危うさもあります。
その点では、縦折りスマートフォンが出始めた頃のスタイルに近いrazr 40であれば、携帯時には本体のカラーをしっかり表に出せますし、クリアケースと組み合わせてお気に入りのステッカーなどをはさんで見せるようなカスタマイズもしやすいでしょう。「スマホを見すぎない」というデジタルデトックス的な良さもあります。
試用機をお借りする際に、すでにテストを兼ねて実生活の中でrazr 40を使い込まれているモトローラ社員の方から感想を伺ったのも印象に残っています。お子さんがいらっしゃる方だったのですが、日々慌ただしく動き回るなかで「(razr 40なら)外側に画面が出ていないから普通のスマホより安心できる」と。どうしても出始めの頃から試用したり周囲の購入者から色々見聞きしてきた身としては「折りたたみスマホは繊細でこわい、扱いに気をつかう」というイメージが先行していた筆者にとっては目からウロコでした。
実際、razr 40を含めた最新世代の機種ではヒンジ部分などの作りもこなれてきて防塵性能も十分上がってきていますから、折りたたみ特有の破損リスクはそれなりに下がっているでしょうし、確かに「たためて安心」という見方もあるなと気付かされました。
縦型の折りたたみスマートフォンは先述したようなカスタマイズも含めてファッション性で評価されてきた部分もあり、カラーバリエーションも無視できないところ。
日本版のカラーバリエーションは、razr 40 ultraがインフィニットブラックのみ、razr 40はセージグリーンとサマーライラックの2色、ソフトバンク版のrazr 40sはセージグリーン、バニラクリーム、サマーライラックの3色。素材や質感も異なり、razr 40/40sは手触りの良いヴィーガンレザーと落ち着いた控えめな色合いのメタルフレームを組み合わせた上品な仕上げです。
実は海外版ではrazr 40 ultraにもヴィーガンレザーを採用するカラーがあるのですが、先進的なハイエンド折りたたみスマートフォンが欲しい人向けのultra、ファッション性の高い流行アイテムとしての折りたたみスマートフォンが欲しい人向けのrazr 40というすみ分けやキャラクターの違いを考えると、日本版のカラー展開は理にかなっているようにも思います。
縦折りスマホはハイエンドじゃなくてもいいかも、という発見
SIMフリー版(オープンマーケット版)であるrazr 40の主な仕様を以下に示します。
なお、キャリア版(ソフトバンク版)のrazr 40sもハードウェアの仕様は対応バンドを含めて同等とのことで、両者の違いは限定色(サマーライラック)以外ではプリインストールアプリなどのソフトウェアの部分のみとなります。
- OS:Android 13
- SoC:Qualcomm Snapdragon 7 Gen 1
- メモリ(RAM):8GB
- 内部ストレージ(ROM):256GB
- 外部ストレージ:非対応
- メインディスプレイ:6.9インチ 2,640×1,080(フルHD+)144Hz pOLED
- サブディスプレイ:1.5インチ 368×194 60Hz OLED
- アウトカメラ:約6,400万画素 F1.7(広角)+約1,300万画素 F2.2(超広角)
- インカメラ:約3,200万画素 F2.4
- 対応バンド(5G):n1/n3/n8/n28/n40/n41/n77/n78
- 対応バンド(4G):1/2/3/4/5/7/8/11/12/17/18/19/25/26/28/38/39/40/41/42
- SIM:nanoSIM/eSIM
- Wi-Fi:IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax(6GHz対応)
- Bluetooth:5.3
- バッテリー:4,200mAh
- 急速充電:有線30W(TurboPower)、無線5W
- 外部端子:USB Type-C(USB 2.0)
- 防水/防塵:IPX2/IP5X
- 生体認証:指紋認証、顔認証
- その他の機能:FeliCa対応
- サイズ(展開時):約170.82×73.95×7.35mm
- サイズ(収納時):約88.24×73.95×15.8mm
- 重量:約188.6g
- カラー:セージグリーン、バニラクリーム
折りたたみスマートフォンといえばやはり最新技術を使った最先端の機種ということで、基本的にはスマートフォンとしての基本性能もハイエンド相当である場合が多いです。しかし、razr 40はあえて「Snapdragon 7 Gen 1」を搭載したミドルハイ相当の内容となっています。
単にSnapdragon 8+ Gen 1を搭載するrazr 40 ultraありきの廉価版だからと片付けるのは簡単ですが、どちらも一定期間お借りして試用した感想は「あれ?縦型の折りたたみスマートフォンって実は全然ハイエンドじゃなくても良かったのでは?」でした。
Snapdragon 7 Gen 1が日常利用での応答速度ならハイエンドに見劣りしないよく出来たSoCであることも一因ではあるものの、改めて考えると折りたたみスマートフォン、それも縦型でハイエンドSoCを搭載したところで、通信性能はともかく、CPU・GPU性能が活きる場面はかなり限られます。
横折りの折りたたみスマートフォンなら複数アプリの同時使用などで高い処理性能を求められる場面も多いですが、縦折りで出来ることは普通のスマートフォン+αですし、まさか繊細なフォルダブルOLEDをビシバシ叩いて本気でゲームに熱中するという人もあまりいないでしょう。
さらに言えば、構造上どうしても通常型のスマートフォンよりバッテリーや冷却機構に割けるスペースも限られますから、電池消費が穏やかで熱管理もしやすい優等生なSoCのほうが適しているといえます。
実は、折りたたみスマートフォンに早期から取り組んでいたメーカーのなかでもモトローラは最初から「縦折りにハイエンドSoCは不要」と気付いていたメーカーで、2019年モデル(日本未発売)はSnapdragon 710、2代目の「razr 5G」はSnapdragon 765Gを採用していました。
もっとも、当時はフォルダブルOLEDやそれに付随するヒンジなどにかかるコストがまだ高価で、ミドルハイのSoCを採用してもハイエンドSoC搭載の競合機種と比べて十分な差額を出せていなかったため「そのスペックでこの値段は……」とあまり受け入れられてはいなかったのですが、ここに来ていよいよ「高性能すぎない身近なバランス型折りたたみスマートフォン」というポジションが確立され、コンセプトが開花したといえます。
最後に、日本版ではrazr 40 ultraよりrazr 40が優れている点としてFeliCa(おサイフケータイ)への対応が挙げられます。もちろん欲を言えば両方対応して欲しかったところではありますが、裏を返せば少量販売でもブランドイメージを牽引する技術ショーケース的な役割のrazr 40 ultraに対し、razr 40はFeliCa対応のコストをかけてもペイできる程度の出荷台数を見込んでいる、本気で普及を狙っている機種ということでしょう。
ユーザー目線でいえば、ultraはFeliCaを使えない代わりに大型サブディスプレイでのコード決済の使い勝手が非常に良いので、「PayPay派ならultra、Suica派なら無印」といった選び方もできるかもしれませんね。