米AMDは11月2日、モバイル向けにZen 4とZen 4cを混在させたRyzen 5 7545U/Ryzen 3 7440Uを新たに追加した事を発表した。
今回同社が発表したのは、Phoenixという開発コード名で知られる、Zen 4+Radeon 740Mの組み合わせのMobile向け製品の一部のコアをZen 4cに置き換えた製品である(Phoenix2というコード名が伝わってきているが、AMDの正式な説明はない)。広義にはIntelのAlderLake以降で採用されているHybrid Architectureという事になるのだろうが、実装を見るとちょっと異なっている。
元々AMDもbig.LITTLEやHybrid Architectureに代表される「異種コアの統合」に関しては研究を行っていた。同社が2020年に特許を取得した"Instruction subset implementation for low power operation"(Photo01)は、機能的に見ればbig.LITTLEというよりもHybrid Architectureに近い。ただ今回AMDはそこまでドラスティックな変更を行わず、Zen 4とZen 4cを組み合わせる事で、若干の効率改善を図る程度にとどめた。
そもそもZen 4とZen 4cは同一の論理設計で、ただしZen 4cは低消費電力/省エリアサイズ向けに最適化したもの、一方Zen 4は高性能向けに最適化したものであり(Photo02)、実際内部構造は完全に一緒である(Photo03)。
この結果として、製品スペックもほぼ同じとなっている。Photo04が従来のPhoenixのラインナップであるが、このうちRyzen 5 7540UはRyzen 5 7545Uに置き換えられ、一方Ryzen 3 7440Uは同じ型番のままZen 4c入りになった(Photo05)。また説明によれば、ハンドヘルドデバイス向けのRyzen Z1もやはりZen 4cベースに切り替わる(Ryzen Z1 Extremeは引き続きZen 4ベースのまま)という話であった。具体的に言えば、Ryzen 5 7540U/Ryzen 3 7440Uは新ダイになるが、この新ダイはZen 4×2+Zen 4c×4という構成になり、恐らくはRyzen 3 7440UはこのうちZen 4c×2を無効化する形になると思われる。
これによりどんなメリットがあるか? という話だが、Zen 4cの方が消費電力が低いところでの動作周波数が高く取れる一方、Zen 4はより上まで動作周波数が伸びる。このクロスポイントが丁度20Wあたりとされており(Photo05)、なのでより高い動作周波数が必要な時はZen 4を、それほど負荷が高くない時にはZen 4cを主に使う事で、効率化が図れるとしている(Photo06,07)。
またAMDにとってはダイサイズを小さくできるというメリットがある。もともとPhoenixのダイはハイエンド構成のZen 4×8コアの構成になっている訳だが、今回PhoenixはZen 4×2+Zen 4c×4だから、ダイサイズは13.12平方mm程削減できる計算になる。もともとPhoenixのダイサイズは178平方mmという数字があるから、これが165平方mm程に削減できる訳だ。これは当然原価削減や歩留まり改善に繋がる事になる。
このPhoenix2ベースのRyzen 5 7545U/Ryzen 3 7440U、それとRyzen Z1の投入時期は現時点では明らかにされていない。ただパッケージそのものは完全に従来製品と互換なので、乗せ換えは容易とされている。恐らくはクリスマス商戦にギリギリ間に合う位のタイミングで市場投入されるのではないかと推察される。