ニコンファン待望のミラーレスカメラ「Z f」の販売がいよいよ始まりました。MFフィルム一眼レフカメラ「FM2」をイメージした外観をまとうフルサイズミラーレスです。コンセプトを同じくするデジタル一眼レフカメラ「Df」を愛用する筆者が、Dfとの比較を交えながらZ fの仕上がりを見ていくことにします。
Z fのデザインや操作性はどうか
Z fの始祖というべきカメラは、2014年12月に登場したフルサイズデジタル一眼レフカメラ「Df」であることは言うまでもありません。Dfは、ニコン「FM/FE」シリーズをオマージュしたカメラで、そのスタイルに多くの写真愛好家が衝撃を受けたことは記憶に新しいところです。Dfは、惜しまれつつも2020年に製造を終了し、時代に即した後継モデル、つまり“ミラーレス版のDf”の登場が待たれていました。
2021年7月には、APS-Cセンサーを積む「Z fc」が登場したことで、“ミラーレスDf”の登場は時間の問題とまことしやかに言われていました。それから3年ちょっと、ついにZ fの登場となったわけです。
まずはZ fの外観です。Z fcがすでに発売されていることもあり、“ミラーレスDf”のスタイルはある程度予測がつくものでしたが、実際にZ fの細かなところを見ていくと、いわゆるペンタカバー(実際にはペンタプリズムは入っておらず、EVF用のディスプレイや光学系が入っています)のシェイプや、アナログ表示のダイヤルの造形などよくできており、この部分だけを見るとまさにFM2、と述べてよいほど。グリップの張り出しは控えめで、シャッターボタンもグリップの上ではなく、トップカバーに置かれているのもMFフィルム一眼レフを彷彿させる部分。Dfと同様にシャッターボタン外周のリングを電源ボタンとしたところや、アイピースのラバーが円形なのも、往年のニコンファンの琴線に大いに触れるところです。
一方、カメラ全体のシェイプについては、個人的には少々微妙に感じる部分もありました。特に気になったのは、ペンタカバーとカメラ本体部分のバランスです。
Dfのペンタカバーは大型のペンタプリズムを内蔵していることもあり、ボディに対してそれなりのボリューム感を持つものでしたが、Z fのペンタカバーはちょっと小ぢんまりとしたものとなっています。そのため、ボディ本体がひときわ大きく見えてしまい、さらにトップカバーにあるISO感度ダイヤル脇の空きスペースなども含め、見る角度によってはデザイン的なバランスがやや崩れているように感じてしまうのです。もちろん、Dfを知らない人にとっては、FM2のイメージを上手く活かしたボディデザインと感じるかもしれませんし、新しいカメラのデザインだと思えば納得できますが、造形の巧みさやメカとしての密度感などは、残念ながらDfに及ばないように思えてなりません。
外装のシェイプでもうひとつ気になったのが、バリアングル液晶モニターのヒンジ。いうまでもなくボディから出っ張っており、正直見た目がよろしくありません。Dfとは異なり、Z fには動画機能が搭載されているため、バリアングル液晶モニターの搭載がよかろうとするニコンの配慮だと思いますが、そこは割り切ってチルト式の液晶モニターで収めておけばよかったのにと思わずにはいられません。チルト式であれば、ローアングル撮影時もハイアングル撮影時もバリアングル式のように液晶モニターを左側に開いて上下の向きを変える必要がないため、光軸から液晶モニターの位置が大きくズレることがなく、アングルが決定しやすく思えます。
そして3つ目の苦言としてもう少し頑張ってほしかったのが、カメラ前面部にあるサブコマンドダイヤル。Dfではその位置に苦労したとみえ、ダイヤルをカメラ前面部に貼り付けたようなスタイルとしていましたが、Z fではダイヤル側面が本体からわずかに出たような一般的な配置としています。しかしながら、その位置はカメラ右側面に寄りすぎていて、操作の際は指がちょっと窮屈になります。デフォルトでは、絞り優先AEモードとマニュアルモードで絞り値の設定を行う重要な操作部材であるだけに、もう少しなんとかならなかったものかと考えてしまいます。小さいながらもしっかりとカメラがホールドできるグリップや、押しやすく感じるシャッターボタンなど、そのほかの操作部材は基本的に不満を感じないだけに、とても惜しく思えます。
バッテリーの大型化や、メモリーカードのWスロット化はとてもうれしく思えます。デジタル一眼レフであるDfにくらべ、ミラーレスであるZ fはバッテリーの消耗が激しいので、それを見据えてのことと思います。メモリーカードスロットは、SD/SDHC/SDXC用とマイクロSD/マイクロSDHC/マイクロSDXC用の2基を搭載。マイクロSDカードを使うのはミラーレスカメラとしては珍しいのですが、バックアップ記録が可能なので心強い装備となります。
外装の質感の違いも特筆すべきところです。Df(ブラックの場合)は艶消しで、表面がちょっとザラザラした感じでしたが、Z fは表面がツルツルと滑らかで、光を適度に反射します。指紋もつきやすく、質感についてはユーザーの好みが分かれると思われますが、現状Z fに似合っているように思えます。
感心させられたのがマイクの位置です。ステレオタイプで右のマイクがシャッタースピードダイヤルすぐ横のペンタカバー側面に、左のマイクがISO感度ダイヤルすぐ横のペンタカバー側面に備わります。それぞれダイヤルの影となるため、目立つことがありません。集音効果については分かりませんが、ペンタカバーやトップカバーの目立つところにマイクの穴のあるカメラは少なくなく、Z fのマイク穴の位置はカメラをカメラらしく見せるための配慮のひとつといえるかもしれません。
撮影をして気づいたこと
「おーっ!」と思わず感嘆の声をあげてしまったのがシャッター音です。適度な音量で、キレもよく、しかも落ち着いた印象です。妙に甲高いものであったり、無用に周囲に響き渡るようなものではなく、カメラの雰囲気に似合っているように思えます。特に、電子先幕シャッターの音は、メカニカルシャッターの音にくらべわずかに短く、より心地よく感じられます。
ちなみにZ fは、シャッター方式に電子先幕シャッターとメカニカルシャッターを採用。デフォルトは、カメラが状況に応じてシャッター方式を切り換える「オート」としています。シャッターの振動が良く抑えられているのも注目点。最大補正段数8段とするセンサーシフト方式の手ブレ補正機構を備えていますが、仮に搭載されていなくても手ブレに強そうです。実機を手にできる機会がありましたら、ぜひシャッター音にも注目してほしいと思います。
サブコマンドダイヤルの操作性については前述したとおり。ちょっと操作しづらく感じるので、カメラ背面のメインコマンドダイヤルに、カスタム設定で絞り優先AEモード時とマニュアルモード時の絞り設定の機能を与えるのが得策かもしれません。露出補正ダイヤルも右手親指のみで操作しようと思うと、やはりちょっと操作しずらく感じます。右手親指と人差し指でダイヤルを挟んで操作するのがよいようです。ただ、カメラ背面側から見て左側のトップカバーに露出補正ダイヤルのあったDfにくらべれば、それでも飛躍的に使いやすくなったと言えます。ミラーレスではリアルタイムに露出の状況がファインダーでも確認できるため、ファインダーから目を離さずに、しかも素早く露出補正ができることはうれしく思えます。
フォーカスポイントの移動はカメラ背面のマルチセレクターで行います。操作感はまずまずですが、Z 7IIやZ 6IIなどのようにジョイステイックタイプのサブセレクターがあれば、より操作性は向上したことでしょう。今後に期待です。
Dfユーザーとしていいなぁと思えたのが、最高1/8000秒のシャッタースピード。Dfでは最高1/4000秒でしたので、1段分速くなったことになります。絞りを開いて浅い被写界深度が欲しいときや、少しでも大きなボケが欲しい撮影では重宝するはずです。そのほか使い勝手のよかったものとしては水準器機能があります。水準器は「Type A」と「Type B」から選べ、特に画面中央を横切る罫線で表示するType Aは、水平のみしか確認できませんが、それゆえシンプルで分かりやすく思えます。
絵づくり設定であるピクチャーコントロールの「モノクローム」が、メニューのほか静止画/動画切り替えレバーでも選べることも注目しておきたい部分。カラーから素早くモノクロへ、あるいはモノクロから素早くカラーへと切り替えられます。また、メニューからでは「モノクローム」のほかに柔らかい調子の「フラットモノクローム」と、赤の感度が高くシャドー部を強調した「ディープトーンモノクローム」も選択可能。被写体や撮影意図などに応じて好みで選べます。フィルム時代から活動している往年の写真愛好家のなかには、デジタルとなってからもモノクロ写真に特別のこだわりをもつひとも少なくありません。そのような人に強く訴求できるものといえます。
若干の不満を感じるものの、Dfと同じく長く愛されるカメラになりそう
Z f は“ミラーレスDf”を待っていた人の多くに強く訴求できるカメラだと思います。また、往年のフィルム一眼レフが好きな人にも響くミラーレスと確信できます。つくりの甘さがいくつか見受けられものの、それを補うくらい撮って楽しいカメラといえます。モノクロ写真の好きな人も注目してほしいと感じます。いずれにしても、写真愛好家の期待に応えられるカメラに仕上がっており、Dfのように独自のスタンスによって今後末長く人気を博すことは間違いないように思えます。
今回のレビューでわずかな期間トライアルしましたが、使い込むにつれ欲しいという気持ちが次第に強くなり、現状それを抑えることに苦労しています。そのうちポチッといきそうで怖い自分がいます(笑)。もちろん、我が愛機Dfを下取りに出すようなことはしません!