東京ゲームショウ2023 (TGS2023)が盛況のうちに閉幕した。4年ぶりに幕張メッセ全館を利用しての開催は、9月21日から9月24日までの4日間で24万人以上の来場者を集めた。出展者数は過去最多を記録し、海外からの406社を含む787社が集まったそうだ。そのTGS2023の一角にブースを構え多くの来場者を迎えていたのが、PC向け半導体メーカーとして知られるインテルだ。

  • 東京ゲームショウ2023のインテルブースの様子。展示のコンセプトは「遊ぶ、楽しむ、創る」だそうで、特に「創る」というのは、ならではのコンセプトだろう

ここ日本でも、いわゆるコンソールゲーム機といわれるゲーム専用機ではなく、PCでゲームを遊ぶことが、ひと昔前から見れば格段に「あたりまえ」になってきている。世界市場で見れば、ゲームをプレイするハードウェアとして、PCは既にゲーム専用機を上回るユーザーを獲得しているとも言われる。対して日本は比較的コンソールゲーム機が強い市場だが、それでも近年はPCの伸びが顕著で、差は縮まり続けている。このような背景で、インテルの向かう姿勢はゲーム業界全体への波及が大きいだろう。インテルはこれまでも東京ゲームショウへ出展してきたが、今年はひときわ充実した内容でブースを構えていた。今回、インテル 代表取締役社長の鈴木国正氏と、同技術本部 部長で工学博士の安生健一朗氏にインタビューする機会があったので、その内容をまとめておきたい。

  • 鈴木氏と安生氏はTGS2023の会場にも。写真は左からインテルのマーケティング本部 本部長 上野晶子氏、代表取締役社長 鈴木国正氏、技術本部 部長 安生健一朗氏

ちなみに、鈴木氏がインテルの社長に就任したのは2018年11月のことで、それ以前のキャリアはソニーで積んだ(参考記事:インテル日本法人にソニー出身の新社長)。当時のソニー・コンピュータエンタテインメントでは副社長も務めており、つまりPlayStationのビジネスをけん引する立場だったわけだ。同氏にとっては、東京ゲームショウの会場はホームグランドでもあるとも言えよう。

  • コロナ禍の影響もあり数年ぶりのフルスペック開催だった東京ゲームショウ2023。連日の盛況で来場者数は24万人を超え、出展数も過去最多に

肝要なのは、ゲーム市場全体のパイをいかに伸ばすか

編集部-- パソコンでゲームを遊ぶことが、ゲーミングPCというものが、日本でも本当に「あたりまえ」になっていることを、近年、特に強く感じます。また「eスポーツ」という言葉も新しい言葉ではなくなりました。そしてゲームタイトルに目を向けると、海外のみならず、ゲーム専用機で育ったような日本発のタイトルであっても、PCに対応したマルチプラットフォームのタイトルが主流になりつつあるように見えます。

インテル鈴木社長(以下、鈴木氏): ゲームタイトルの開発メーカーとは、おそらく本格的には3年くらい前からでしょうか、数年来でお付き合いを強めてきていました。インテルとしては、タイトルの動作検証であったり、開発のサポートをグッと強めてきているところです。ここで、3年ほど前から今日までの変化を言うならば、(PC向け開発に)アクセルを踏むか踏まないか迷っている会社は、もうなくなっている。「PCでゲームを遊ぶ」ということに、業界でやっと共通認識ができたなという感触があります。

  • インテル 代表取締役社長の鈴木国正氏。TGS出展の合間に話を伺った

-- 主要な市場調査などを見ていると、既に日本でも、ゲーム専用機のそれこそ半分程度にまで、PCでゲームを遊ぶ人の数が増えているという状況が見てとれます。マルチプラットフォームのタイトルでは、より高度なプレイ環境を求めて、PCでのプレイを選ぶという人は今後も増え続けそうに見えます。

鈴木氏: まず言うべきなのですが、ゲーム専用機とゲーミングPCは、戦っているわけではないということ。これを明確に言っておきたいです。ゲーム専用機だけでなく、モバイルも含めた多様なゲーム市場があるわけですが、どれがシェアを伸ばすか競争するというものではないのです。全体のパイをいかに伸ばすか、という話だと私は言いたい。

そもそも、ゲームの開発メーカーはそれ(デバイスのシェアの違い)だけでは動かないものです。全体のパイが増えるという「機会」が必要なのです。開発メーカーがどう見ているか次第なのです。こちらからの働きかけだとか、そんなものでも開発メーカーは動かない。パイは増えるのか、これは計算すればわかることで、どう計算してもマルチプラットフォームは市場のパイを増やすと常々主張してきた。そして今のこの現状を見れば明らかです。世界で、ゲーム専用機が伸びて、PCでゲームをする人が増えている。PCの裾野が拡大してゲーム市場のパイを増やして行くというシナリオは、今となっては否定しにくいものになりました。

  • スライドはちょっと古い2022年時点でのものだが、ゲーミングPCやeスポーツの市場規模は伸び続けるとの予測は多数派だ

ゲーミングPC市場は、足元ではグローバルでは微増といったところでしょうが、日本国内ではまだもっと伸びていく余地がある分野になっている。そして国内市場で、ゲーミングPCはゲーム専用機の競合ではなく、市場のパイを増やす存在なのです。我々は日本市場で、ゲーミングPCの市場拡大が、ゲーム専用機の市場にアドオンするという景色を見ています。

国内で、例えば量販店で、4年以上前になるかな? もっと前からゲーミングPCの露出の活動を強化していて、量販店でPCゲームのイベントを開いたり、地道に取り組んで、最近では大変な集客ができるようになってきた。量販店の店内を見てもらうと、以前はゲーム機と言えばおもちゃ売り場にありました。ゲーム機はおもちゃ売り場、PCはパソコン売り場と別々だった。でも最近はちょっと景色が変わって、ゲーミングPCとゲーム機の売り場が隣り合っているお店もあったりして、賑わいを見せている。ゲーミングPCがアドオンしてきたんだという手ごたえを感じています。

  • インテルのブースに掲げられていたゲームタイトルのバナー。メタルギアや龍が如く、ロックマン、ドラクエ(ダイの大冒険)など、ゲーミングPCの試遊機を用意していた

クリエイターもユーザーも巻き込んだコミュニティで盛り上げたい

-- ところで、PC向けのゲーム開発というと、これはこれまでNVIDIAやAMD(ATI)が強みとしてよく言っていたことなんですが、開発をサポートするチームが、ゲームの動作の最適化や検証でかなり手厚く支援しています。Iris Xe GPUでは、そのあたりの取り組みはどうなんでしょうか。ユーザーはより良い環境でプレイしたいわけで、最適化なんかはユーザー視点からも気になるところです。NVIDIAのDLSSが効くみたいに、IntelのXeSSも渡り合うよう対応が進むとユーザーは嬉しいはずです。

  • 会場ではIntel Arc A750 GPUを搭載したグラフィックスカードなども紹介していた

鈴木氏: インテルとして、もちろん開発のサポートチームをグローバル規模で置いていて、日本にもチームがいます。Irisを出した当時に、最適化されたゲームタイトルを並べて、増やして行くといった通り、ここまでタイトルはかなり増えてきている。TGS2023の会場では、インテルのブースにDynabookのノートPCをたくさん並べて、その全てでそれぞれ違うタイトルを動作させるという展示をしています。

-- Dynabookの展示は見ました。しかも重量級のゲーミングノートPCというわけでなく、全て薄型のモバイルノートPCですよね。きっと(Iris GPU初期から連携していた)ストリートファイターは凄い動いてるんだろうな、と思っていたのですが、展示ではそれぞれ違うゲームタイトルをしっかり動かしていて、国内でも人気のある、TGS2023内でも目玉級のゲームもちゃんと揃えて動かしていた。この論より証拠になっている展示はインテルさぞ誇らしいんだろうと思いました(笑)。

  • インテルブースに出現していたDynabookの壁。薄型モバイルノートPCで主要ゲームがちゃんと遊べるというアピールになっていた

インテル技術本部 安生部長(以下、安生氏): あの展示で、Intel EvoのノートPCはゲームがちゃんと動くというのを見せることができました。変わらず、ゲームの開発メーカーとのコミュニケーションはもっと進めたい。XeSSの対応ゲームは増えて行くし、もっと増やしたい。国内でもちゃんとサポートします。開発メーカーさんは、もう、それこそ私に直接お声がけをいただければがっつり対応しますという体制で(笑)。

  • Dynabookだけでなく、STREET FIGHTER 6が遊べるHP OMENや、Fateのサムライレムナントが遊べるDell Alienwareなど、インテルブースでは各PCメーカーのゲーミングPCで有力ゲームタイトルが試遊できるようになっていた

-- 最近、インテルは特にまわりを巻き込んでコミュニティをつくろうという活動が目立っていますよね。

安生氏: インテルとしては、開発メーカーとも、ユーザーとも、一方的ではない双方向のコミュニティをつくっていきたいな、という構想があります。Blue Carpet Projectなんかがそうなんですが、創作者、開発メーカー、ユーザーとインテルが、双方向でつながろう、融合させていこうという世界観で活動しています。

コミュニティをつくって、みんなを巻き込んで前に進めたらと思うんです。専門学校のHALに協力してもらって、今回のTGS2023でも一緒にeスポーツのイベント(参考:イベント内容はこちら)を開いているのですが、専門学校の学生さんを巻き込んで、カプコンのプロデューサーと直接会ってもらって、ゲーム制作を身近にしてもらったりする取り組みも企画しました。

  • ブース内にはコミュニティ対戦エリアや配信スペースも設置されていた。TGS2023に限らず、Blue Carpet Projectはじめ双方向のコミュニケーションを図ろうとする活動に積極的だ

Intelのチップを使ったゲーミングPC、他と何が違うのか?

-- 第13世代Core CPUだったり、Iris GPUで構成したゲーミングPCですが、実際のところインテルのチップを使ったゲーミングPCの特徴はどのあたりになるのでしょうか。というのも、市場にはもちろんAMDという強力なライバルもいます。ただ性能の優劣は実際のところ複雑で、最適化の違いもあってゲームタイトルによって有利不利もあるので、一概には言えないかもしれませんが、あえてわかりやすいところで、何がインテルの強みなんでしょうか。

  • インテル技術本部 部長で工学博士の安生健一朗氏。「ハイブリッド・アーキテクチャー」は、わかりやすいインテルの強みという

安生氏: もちろんゲームタイトル次第なところはありますが、AMDさんのチップを使ったゲーミングPCも、素晴らしい性能を持っています。インテルのゲーミングPCで、私からこれは明確に優れていると言えるのは、ハイブリッド・アーキテクチャーの優位性です。

-- ハイブリッド・アーキテクチャーは、PコアとEコアという、役割の違う2つのCPUコアが上手い具合に協調動作して効率良く動くという技術ですね。重い処理は高性能なPコアに振って、軽い処理は省電力なEコアにまかせるという、マルチタスクで強みのある技術だと認識しています。

  • 第12世代Intel Coreから搭載されている「ハイブリッド・アーキテクチャー」。PコアとEコアで演算処理の役割分担をする。エンジンとモーターのハイブリッド自動車のようなイメージだろうか

安生氏: はい。このハイブリッド・アーキテクチャーのおかげで、複数のタスクをスムーズにこなすのが圧倒的に得意なのです。せっかく高性能なパソコンがあるわけで、パソコンならではの使い方、例えばゲームをプレイするだけではもったいないよね、ゲームのプレイ配信なんかもしたいよねとなったときに威力を発揮します。

パソコンの性能というのは、アプリケーションの動作を単独で見るだけでなく、やっぱり色々な使い方ができる道具がパソコンなわけですから、PコアとEコアに処理を振り分けることで、ゲームをしながらバックグラウンドで別のこと、動画配信のタスクとかがきちんと動く。これはベンチマークテストのスコアだけでは表現できない、実際のパソコンの利用シーンで実感してもらえる高性能です。

  • インテルブースでは、ゲームの試遊機など「遊ぶ」ためのものだけでなく、「楽しむ」「創る」ための環境も紹介していた。例えば、Blackmagicdesignの配信機材なども試すことができた

-- ハイブリッド・アーキテクチャーでは、年内(12月14日)のリリースが決まった次世代のCore、いわゆる「Meteor Lake」も楽しみですね。ブランドも「Core Ultra」に変わって、AI機能の搭載も話題になっています。新しくなったPコアとEコアの情報も出てきて、今から期待しています。

安生氏: Meteor Lakeでは電力性能効率も上がっていますし、処理を分配するスレッド・ディレクターの動きもさらに良くなっています。GPUのIris Xeの性能も格段に増強していますし、コンシューマー向けでは初めてなんですが、AIエンジンのNPUも内蔵しました。ゲームでのAIの活用も拡大していくはずです。インテルからも、OpenVINO(x86ベースのソフトウェア開発ツール)の提供をひろげるなどして、開発側をしっかりサポートするという準備を進めています。新しい体験ができるようになるはずで、期待していただきたい。

  • 期待のMeteor Lakeは年内リリースも決まった。新しい半導体製造プロセスへの移行や、AIエンジンの搭載も話題になっている

自作PCは難しい? 近頃推しの「カスタムPC」のススメ

-- 最後に、TGS2023のインテルのブースを見ていて、ちょっと気になったのですが、「カスタムPC」というパソコンの楽しみ方を紹介していました。これはどういったものなのでしょうか。そう言えば、今年の春くらいから、インテルのユーザーイベントなんかを中心に、この「カスタムPC」という言葉を聞くようになったような。

  • インテルブースに設置されていた「カスタムPC」の相談コーナー

安生氏: これは、「自作PC」というものでちょっと悩みがありまして。これまでの自作PCって、それこそ秋葉原の専門店でパーツを買ってきて、パソコンを全部自分で組み立てる。面白いし、マニアには当たり前の行為なんですが、今となっては、やっぱり新しい人が入り難い世界になってきてはいるのかなという悩みがあって。

もっと気軽に、何もないところからパソコンを組むのではなくて、今のパソコンを「カスタム」するという楽しみ方を提案しているのが、「カスタムPC」です。今使っているパソコンでもっとゲームを動かしたくなった時に、CPUやGPUをアップグレードするだけでもいいじゃないかと。ゲームでなくともメモリを足すとか、SSDを大容量のものに換装するとか。もっと直感的にLEDを後付けしてパソコンを光らせるとか、デコレーションするのもカスタムPCであって、パソコンの楽しみ方を広げて、ファン層を広げたいと。

  • 気軽なアップグレードなど敷居が低い「カスタムPC」。それこそ無限のひろがりが期待できるデコレーションなど懐の深さも。「MOD PC」なんかも流行っていたりする

-- 僕らの周囲では未だに「自作PC」を楽しんでいますが、まぁ確かにちょっと周りを見ても高齢化というか、世代が固まっているし、いつもの見知った人達とばかり集まってやっているような気は、確かにその通りなところはあるかもしれません。それでも、やっぱり自作PCは楽しいんですけどね。

鈴木氏: 長く続いている趣味というはそういうものなのかもしれませんが、もはや「自作PC」はハードルが高すぎる気がして。今のイメージだと、難しそうだし、これからPCでゲームしようなんていう若い人には特にハードルに感じるのではないかと。そういったイメージがあるなら変えられないかなと。カスタムPCは、不慣れなお子さんでも気兼ねなく楽しめて、それこそクールに見えるくらいになれたらと。

-- ブースでは、カスタムPCの「マイスター制度」のようなものもはじめると聞きました。10月には、最初の認定カリキュラムも開催するそうですね。

  • 「インテル PC マイスター」の認定イベントは、これからも続けて実施されそう

安生氏: PCの知識を持っていることを認定する「インテル PC マイスター」というインテル独自のお墨付き資格で、マザーボードメーカー4社にも多大なご協力をいただいています。カスタムPCの楽しみ方をアドバイスできる人を増やしたいというのはもちろんあります。対象が小学生からとなる初級マイスターからはじまるので、試しにチャレンジしてもらえればと。階級は中級、上級、最上級のTOPマイスターまで上があるのですが、上位の階級ではPC専門店のスタッフレベルの知識を要求するような厳しい認定条件です。継続して認定して行く予定なので、狙ってみてください。

-- 上級からは認定テストに合格しないとなんですね。自作PCを嗜んできた意地で中級くらいは狙ってみようなかなと(笑)。とにかく、2022年の東京ゲームショウも盛況でしたが、今年はさらにゲーム市場の力強さとPCの存在感を実感しているところです。この流れで、来年もさらに大きな展開があるものと楽しみです。ありがとうございました。