タッチパネル付き充電ケースの完全ワイヤレスイヤホン登場

親機との間だけでなく左右ユニット間すら無線でつなぐ「完全ワイヤレス(TWS:True Wireless Stereo)イヤホン」。登場当初こそ煩わしいケーブルが存在しないことが注目を集めたが、本格的な普及とともに高機能化の波が到来、ノイズキャンセリングや低遅延によるゲーム対応強化は珍しいフィーチャーではなくなった。いまや機能で差別化するのはなかなか難しい製品だ。

Polyから発売された「Voyager Free 60+UC」は、その状況へ真正面から斬り込むTWSイヤホン。充電ケースにタッチパネルを搭載するというわかりやすい新機軸もあるが、注目すべきはその本質――、音質や通話品質を含めた広い意味での「音」だ。

  • Poly Voyager Free 60+UC

まずはPolyというブランドについて簡単に触れておきたい。Polyは2019年のポリコム社買収に伴い実施されたリブランド後の名称で、それ以前は「Plantronics(プラントロニクス)」だった。1960年代に旅客航空機用軽量型ヘッドセットで名を上げ、後に企業向けの会議システムやヘッドセット、個人向けのオーディオ用ヘッドホン/イヤホンで高い知名度を誇った米国ブランドだ。

2022年夏以降、テレワークおよびオフィスワーク分野を担うHPのブランドとして展開されているPolyだが、Voyager Free 60+UCという製品で判断するかぎり、そのユニークな製品開発方針はいまなお続いているらしい。どこがユニークなのか、順を追って説明しよう。

新幹線でノイズキャンセリングをテスト

Voyager Free 60+UCという製品の根幹は「音」だ。ただし「オーディオ機器としての音」だけではなく、「音声通話のための音」でもあり、さらには「取り除かれるための音」でもある。

「オーディオ機器の音」としてのスペックは、φ10mmというドライバー径と、豊富なオーディオコーデックから推し量ることができる。φ10mmはTWSイヤホンとしては大口径に分類され、形状はカナル型/密閉型だから、特に低域の再現性で有利。コーデックはSBCとAACに加えてaptX、そして付属のUSBドングルを使えばLC3もサポートするという充実ぶりだ。

  • ドライバー径はφ10mmとTWSイヤホンにしては大きいが、女性の耳にも無理なく収まる

  • タッチスクリーン付き充電ケース。バッテリー残量がひと目でわかる

付属のUSBドングルは、パソコン(Windows/Mac)などUSB Audio対応デバイスへ差し込むだけで認識される。ドライバーソフトのインストールといった手間はなく、挿入直後にLEDが青く点灯したことを確認すればOK。これだけで、Voyager Free 60+UCはオーディオデバイスとして認識される。Bluetoothイヤホンではお約束のペアリング作業は必要なし、しかもコーデックにLC3を利用してのオーディオ出力となるため、明らかにSBCより格上の音を楽しめるようになる。

手持ちのAndroid端末(Xiaomi Redmi Note9S)でも試してみたが、利用手順はパソコンとまったく同じ。やはりペアリングは必要ないので、とにかく機械類が苦手という人へのプレゼントにちょうどいいかもしれない。ただし、iPhoneやM1チップ搭載のMacBook Airなど、USBドングルを認識しない(挿入直後にLEDが赤く点灯する)デバイスもあることは認識しておきたい。

ノイズキャンセリングは適応型(Adaptive ANC)と標準型の2種類があり、充電ケースのタッチパネルかスマートフォンアプリ「Poly Lens」で切り替えられる。説明書やヘルプに書かれてはいないが、Qualcomm製チップを搭載しているところからすると、適応型は「密着状態や周囲のノイズレベルの変化からANCの効きを動的に調節する」機能、標準型は効きを動的に調節しない従来のANC技術――と判断してよさそうだ。

  • ANCの種類(標準/適応型)も充電ケースで選択できる

  • アプリ「Poly Lens」でさまざまなカスタマイズが可能

新幹線で移動中にそれぞれの効果を試してみたが、新幹線ならではの風切り音とレールノイズが目立つのは適応型。単純に比較すると、ノイズ低減効果が大きいと感じるのは標準型のほうだ。しかし、適応型は周囲の音とのバランスが自然で、ノイキャン独特の耳がツーンとするような閉塞感は少ない。

適応型と標準型のどちらを選んでも、携帯電話で話す付近の人(のぞみ号のS Work車両は電話OKなのだ)の声は聞こえてくるし、ANC専用チップを搭載する他社製品と比較すると効きはマイルドだが、全体的な完成度は高い。

  • 新幹線でノイズキャンセリング機能をテスト

付属のUSBドングルは次世代コーデック「LC3」対応

もっとも目立つフィーチャーといえるタッチパネル付き充電ケースは、賛否が分かれるかもしれない。確かに便利は便利だが、外出しているとき充電ケースはカバンの中に入れるのが普通で、再生と一時停止くらいの曲操作はイヤホン本体で済ませたい。ANCオン/オフもまた然り、それにタッチパネルで行える操作のすべてはアプリ(Poly Lens)でも賄える。

とはいえ、いい点が3つある。ひとつは、充電ケースとイヤホン本体のバッテリー残量がひと目で確認できること。スマートフォンで確認するより断然速いから、慌ただしい朝には重宝するはず。もうひとつは、USBドングルを格納できること。すぐ無くしてしまいそうなサイズなだけに、パソコン主体で利用する向きにはありがたいフィーチャーといえる。

そしてもうひとつが、Bluetoothトランスミッター機能。付属の3.5mm to USB-Cケーブルで3.5mmジャックを備えたデバイスと接続すると、そのデバイスの音をイヤホンで聴けるのだ。パソコンやタブレットはBluetoothで接続すればいいとして、テレビや古めのオーディオコンポの音をTWSイヤホンで聴けるのはうれしい。

  • 充電ケースはBluetoothトランスミッターとしても使える

Amazon Musicのロスレス/ハイレゾ品質の楽曲をiPhone(コーデックはAAC)で聴いてみたが、全体的に繊細で緻密な印象。入力からの立ち上がり/下りがすばやく、アコースティックギターのようにともすれば輪郭が丸まってしまいがちな楽器の音も再現度は良好、弦の上で指を滑らせるグリッサンド奏法の微妙なニュアンスも感じ取れる。

再生にパソコンを使うなら、USBドングルがおすすめだ。iPhoneのときと同じ曲を試聴したが、ブラスセクションの金属感やドラムブラシの粒状感など、特に中高域方向の解像度が増すことで全体の印象がだいぶ変わる。次世代コーデック「LC3」のメリットを先取りできるということもあり、使わない手はなさそうだ。

まとめ ~ パソコンと組み合わせて使いたいTWSイヤホン ~

TWSイヤホンといえば、スマートフォンと組み合わせて使うことが前提のオーディオガジェット。しかし、Web会議などパソコンでもTWSイヤホンを使いたいというニーズは高く、マイク性能を含めた音声通話品質に対する要望も多い。

今回のVoyager Free 60+UCというTWSイヤホンは、そこにうまく照準を定めている。スマートフォンとつないでいる状態でパソコンにUSBドングルを挿せば、すぐにパソコンのオーディオ出力に切り替わり、スマートフォン側で音声に関わる操作をすれば、制御は再びスマートフォンに戻る。Bluetoothオンリーの接続よりわかりやすく音質も上、USBドングルを充電ケースに格納して持ち運べるところもいい。

どうしてもタッチパネル付き充電ケースに目が行ってしまうし、それが目玉機能であることは確かだが、音質やノイズキャンセリング性能などTWSイヤホンとしての基礎がしっかりしていることこそが、Voyager Free 60+UCという製品の真の魅力なのだろう。