この9月1日で、関東大震災から100年になります。今回の防災の日を機に、改めて災害への備えをしておこう…と考えている人も多いのでは。

災害への備えとして売れているのが、一般的な家電が停電時でも動かせるポータブル電源です。しかし、消費電力の大きな調理家電を使うと意外と早く電力がなくなるなど、災害時はポータブル電源も完璧とはいえません。そこで注目が高まっているのが、より大容量&高出力の「ポータブル蓄電池」。冷蔵庫や電子レンジなどの家電がある程度の時間動かせるほか、ソーラーパネルと組み合わせれば停電時でも電力を回復できるなど、電気まわりの備えはかなり盤石になると感じました。

  • ポータブル電源の親玉ともいえる存在の「ポータブル蓄電池」。ポータブル電源よりもバッテリー容量と出力が大きく、イザという停電時にも長時間安心をもたらしてくれる。災害大国の日本では今後注目が高まる可能性がある

停電時はポータブル電源があっても万全ではない

さまざまな電化製品のおかげで便利に暮らせる現代ですが、災害などで停電が発生してそれらが使えなくなると、一気に不便&不安な状況に陥ってしまいます。照明がつかない暗い部屋で寒さに震えながら過ごし、温かいものが食べられず、スマホはバッテリー切れで知人に助けを求めたり最新情報の収集もできない…といった状況は絶対に避けたいもの。

災害や停電への備えとしてこの1~2年でグッと浸透したのがポータブル電源です。当初はキャンプなどアウトドアレジャー用で売れ始めましたが、「停電時でも普通の家電が使える」メリットがアウトドア層以外にも広まり、防災グッズとしても存在感を高めています。ただ、多くのポータブル電源は「アウトドアレジャーでホットプレートやLEDライト、ファンを使ったり、スマホを充電する」程度の使い方ならば不満がないものの、「停電時に自宅の調理家電をふだん通り使いたい」というニーズでは容量が足りず、2~3時間で電力が底をついてしまいます。

  • ポータブル電源は電子レンジなどの調理家電も使えるが、容量が意外と早く減ってしまう

停電時でも冷蔵庫や調理家電がふだん通りに使える

そこで注目したいのが、ポータブル電源の兄貴分といえる「ポータブル蓄電池」。携帯性を省く代わりに容量や出力を大幅に引き上げ、冷蔵庫や電子レンジなどの家電をより長時間使えるようにした大型のバッテリー製品です。ポータブル蓄電池は、EcoFlowやJackery(ジャクリ)、BLUETTIなど、ポータブル電源を手がける多くのメーカーが製品をラインナップしていますが、今回はBLUETTIの高出力&大容量モデル「AC500+B300S」(実売価格は60万円前後)を試してみました。

  • 電源制御ユニットのAC500(上)とバッテリー部のB300S(下)。重さは、AC500が約30kg、B300Sは約38kgとかなり重い。自宅内の移動も苦労するほどの大きさ&重さだ

  • BLUETTIの小型ポータブル電源「EB3A」(上、268Wh)と比べると、AC500の大きさが分かる

  • AC100V端子は3つ搭載する

  • USB Type-CやUSB端子も搭載

本体は、3基のAC100V出力やカラー液晶が備わる電源制御ユニット(AC500)とバッテリー部(B300S)が分かれたモジュール構造となっています。出力は5,000W(瞬間最大出力は10,000W)と大出力で、ほとんどの家電が動かせます。バッテリー部のB300S(容量3,072Wh)は6台まで接続でき、最大18,432Whまで容量を増やせるのがポイント。

  • B300Sは最大6台まで接続でき、バッテリー容量を増やせる。それぞれのユニットを接続するケーブルはきわめて太い

ポータブル蓄電池はきわめて大きなエネルギーを蓄積するため、不慮の発熱や発火が発生しないよう、安全性の高さが何より求められます。AC500+B300は安定性の高いリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを内蔵しており、フル充電にした状態で安心して保管できます。

自宅が停電したことを想定して、室内にある家電を接続して使ってみました。まず接続したのが500リットルの冷蔵庫。内部がすでに冷却されている状態ならば消費電力は約80~150W前後で済んだので、軽く1日は通常と同じく保冷できる計算になります。食料など物資の調達が困難になる災害時、冷蔵庫にある食べ物がダメにならずに済むのはありがたいと感じます。

  • 冷蔵庫や電子レンジ、電気ポッドなどの調理家電も問題なく使えた

  • 冷蔵庫を接続したところ、すでに内部が冷やされている状態ならば80W前後の消費電力で済んだ。たまに冷却が始まると150W前後にまで高まった

電子レンジやトースター、電気ポットなど、消費電力が1,000Wを超える調理家電も使えます。冷蔵庫に電源を供給しながら電子レンジと電気ポットを同時に使うと消費電力が2,700Wを超えましたが、途中で止まることもなく問題なく使えました。ただ、これらの調理家電を使うとバッテリー残量の数字が2~3%目に見えて減るので、停電時は節約を意識して使う必要がありそうです。

  • 冷蔵庫を動かしながら1,000W超の調理家電を2つ同時に使っても問題なし。これは心強い

ソーラーパネルでバッテリー切れの恐怖から回避

このように、3,072Whの容量があれば冷蔵庫をはじめとする家電が1日近くは使えますが、もしバッテリー容量がなくなってしまえば蓄電池も役立たずの存在に。しかし、別売のソーラーパネルがあれば、晴れている日中に放っておくだけで電力を生み出してバッテリー容量が回復できます。

やや古い200Wクラスのソーラーパネルを接続すると、40~100W前後の電力が発電できました。決して発電量は大きくはないものの、停電時でもタダで電力を生み出してバッテリー切れの恐怖から逃れられるのは、イザという時に頼もしい存在になってくれます。防災目的でポータブル蓄電池を導入するなら、ソーラーパネルも合わせて導入すべきだと感じました。

  • ソーラーパネルがあれば日中に電力が回復でき、バッテリー切れを回避できる

  • ソーラーパネル経由で充電しているところ。複数のソーラーパネルが接続できるほか、自宅の屋根に設置した大型ソーラーパネルとの接続も可能

「災害時も辛い思いをせずに済む保険」として検討する価値アリ

災害への備えとして有用なことが体感できたポータブル蓄電池ですが、置き場所に困るほど大きいうえ、室内での移動にも苦労するほど重いので、キッチンに常設できるスペースが確保できる一戸建てや広めのマンションでないと導入するのは難しいかもしれません。常設が難しければ、鉢植えを載せる台車などを用意し、AC500とB300Sを必要に応じて移動させて使う…という手がよさそうです。

とはいえ、停電時でも平常時に近い生活や調理の環境が確保できる点は、イザという時にはお金には代えられないメリットとなります。「災害時も辛い思いをせずに済むための保険」と考え、導入を検討する価値はあると考えます。特に、在宅用の人工呼吸器など生命にかかわる医療機器を導入している家庭や、水温調整やエアレーションが欠かせない熱帯魚を飼っている家庭では、命をつなぐための大事なツールとなり得ます。

マンションならば、縦型で置き場所が最小限で済み、キャスターで容易に移動できるバッテリー一体型モデル「EP500」(実売価格は54万円前後)がよさそう。出力は2,000Wと低めですが、バッテリー容量は5,100Whと大きいので、より長時間の停電にも対応できます。

  • キャスター付きで移動が容易なバッテリー一体型モデル「EP500」