毎日洗濯をしている人でも思わず首をひねってしまうのが、衣類のタグに付いている「洗濯表示」(洗濯マーク)の記号。見ただけでは何を意味しているのか分からない洗濯表示記号の意味を、スマホカメラで撮影するだけで即座に表示する――。「これ、欲しかった!」と思わせるユニークな“洗濯マーク検索機能”を、ヤフーが同社のブラウザーアプリに追加しました。ありそうでなかった異色の機能を搭載した背景には、「検索ワードによらない検索」を追求しているヤフーの取り組みがありました。
洗濯表示記号の意味を調べたい、という声が多かった
洋服など衣類のタグに付いている「洗濯表示」の記号。洗濯や干し方の方法を表したもの、ということは誰もが知っていると思いますが、記号が抽象的で分かりづらいうえ、添えられている文字や線の数によって意味が変わってくるなど、きわめて難解。意外に知られていませんが、2016年に国際標準規格に合わせる形で日本の洗濯表示が変更になっており、新旧の表示が混在するカオスな状況になっています。ヤフーの調査では、「意味の分からない洗濯マークがある」と回答した人が全体の98%にものぼるなど、ほとんどの人が正しく理解していないことが明らかになりました。
洗濯表示が記載されたタグをスマホカメラで読み取るだけで、その衣類が洗濯できるかどうかをまず示したうえで、記号の意味を解説付きで表示してくれる異色の機能が、ヤフーのブラウザーアプリ「Yahoo!ブラウザー」(Android版)に搭載されました。AIをフル活用したという新機能の開発の背景について、アプリを開発したヤフーの担当者に話をうかがいました。
Yahoo!ブラウザーで企画を担当した山下悟史さんによると、洗濯表示の記号を検索したい…というニーズは、ヤフーが定期的に実施しているアンケート調査から判明したといいます。「アンケート調査を実施するたびに、洗濯表示記号の検索は常に上位に来ていましたね。これほど高いニーズがあるならばやってみよう、となったわけです」
もともとヤフーは「カメラ検索」機能などを通じて、検索ワードによらない新しい形の検索を日々追求しているそう。言葉では検索できないもの、あるいは言葉では言い表せないものを検索できるようにすべく、日々研究を進めているといいます。洗濯表示の記号は、まさにそれらの条件に合致するものだったわけです。
開発期間を短縮するため、AI学習に工夫を凝らした
いざ開発を始めて分かったのが、洗濯表示の記号には日本固有の記号と、海外で広く使われている国際標準規格の記号が存在していること。日本では、2016年に国際標準規格に合わせる形で変更になりましたが、手持ちの衣類は旧来の表示のものもあり、両者が混在する状況になっています。
そのようなやっかいな状況でも、開発から導入までのスピード感を重視したといいます。そこで要になったのがAIの活用。記号の認識精度を高めるために、一般的にはさまざまな画像サンプルを用意して「この記号はこの意味である」と学習用のデータを人間が手作業で設定していくそう。しかし、その方法だと時間もリソースもかかってしまうため、今回は地の色や柄を変えて実画像のように仕上げた洗濯表示記号の画像を合成データで30万枚以上も作成し、それをAIにサンプルとして学習させ、認識精度を鍛えたといいます。
Yahoo! JAPAN研究所の東野進一さんは「洗濯表示の記号が記載されたタグは、もともと素材や表示の大きさが違いますし、経年や洗濯で色や見た目も変わります。そもそも、ユーザーが写真を撮る際の状況や使うスマホの機種でも色あいが変わってしまいます。そのような状況を想定して多くの画像を生成し、AIを鍛えて認識精度を高めました」と開発の工夫を語ります。
学習だけでなく、アプリの認識時もAIがしっかり働いているそう。「表示がかすれたりタグがよれてしまっても、ある程度までは認識できるようになっています。人間とAIでは認識時に注目するポイントが異なるので、人間の目では認識が困難な場合でもAIならすんなり認識できる場合もあります」(東野さん)
ちなみに、洗濯表示の記号が国際標準規格と統一された背景ですが、もともと海外では洗濯物を外に干して自然乾燥させる文化がなく、国際標準規格の洗濯表示記号には外に干す際の記号が存在しなかったそう。日本側から「外での干し方の表示は重要。自然乾燥の干し方の記号を国際標準規格に追加してもらえれば、日本もそちらに統一できる」と提案し、国際標準規格の修正を実施したうえで晴れて日本の規格も国際標準規格に沿う形となったそうです。
記号の意味より先に、洗濯できるかどうかを表示した
アプリで工夫したのは、結果表示の部分だといいます。デザイン担当の鑓水眞愛さんは「読み取った洗濯表示記号の解説よりも前に、その衣類が自分で洗濯できるかを最初に大きく表示するようにしました。それがユーザーが求める情報だと思ったからです。情報の表示には“けんさく”と“えんじん”のキャラクターも配置し、まず目が行くように工夫しました」と語ります。
さらに、Yahoo!天気やYahoo!マップとも連携しており、現在地の天気の情報や乾きやすさを示す洗濯指数や、近隣のクリーニング店の情報を併せて表示する機能も用意。このあたりのシームレスな連携の工夫はヤフーならではと感じました。
生活に寄り添うサービスを提供していきたい
山下さんは「今後も、みなさんの生活に寄り添ったサービスや機能を提供していきたいですね。特に、AIは難しそうなイメージがあると思うんですが、それを使いやすいようにしてユーザーのみなさんに届けていくのが我々の使命なのかな、と思っています」と抱負を語ります。
ヤフーといえば、ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」で紹介されるニュース記事やキーワード検索機能、「Yahoo!防災速報」などのアプリが多くの人になじみのある存在ですが、意欲的な検索機能をいち早く盛り込めるYahoo!ブラウザーの進化にも注目したいと思います。