• 東京・南青山の新青山ビル2Fにある、テナント向け貸し会議室「サクサク」。ゼンハイザーとQSCによる高音質会議システムを導入し、新しいオンライン会議体験ができるようになっている

大型の会議室や講演会場で、Web会議をしたり講演を聞いたりする際、手間になるのが機材のセットアップ。主催側はマイクを何本も用意し、カメラやスピーカー、通信ケーブルなどの接続も当然イチから準備しなければいけません。また、参加者側も、マイク位置によっては発言者の声が聞こえにくかったり、誰が発言しているのかわからなかったりする問題もあります。

ゼンハイザージャパンは7月27日、東京・南青山の新青山ビル西館2Fにあるテナント向け貸し会議室(別名:青山ツイン レンタルミーティングルーム サクサク)に、同社とQSC(Q-SYSブランド)の高音質会議システムを導入しました。Web会議や講演会などで、手持ちマイクがいらない新しい会議体験を提供する予定です。

特に声を張り上げなくても、話し手の声が拡声され部屋の隅まで届き、オンライン会議もそのままできる、この不思議な会議室。今回メディア向けに実施された体験会に参加しました。

  • 「サクサク」の内部。なお、この会議室はテナント向け貸し会議室のほか、ゼンハイザーの製品体験ルーム「Experience Room」としても機能することから、この記事では便宜上Experience Roomと記載する

  • Experience Roomの天井。ここに秘密が隠されている

【音声あり】ゼンハイザーのエクスペリエンスルーム(製品体験ルーム)で、マイク無しでも声が拡声される音響システムを体験しました。動画12秒ほどまでがマイク無しでの発声、13秒ほど以降が音響システムをオンにした状態です。音響システムをオンにすると、マイクが無くても、自然な声が部屋中に拡声されます

“マイク不要”で声が拡声される不思議な会議室

今回公開された会議室は、約13.835m×6.708m(92.81平方メートル)の広さで、40名~60名程度を収容できるスペースがあります。新青山ビルを所有する三菱地所が運営するもので、オンライン会議需要が増えた関係で6月12日にリニューアルオープンしていましたが、ゼンハイザーの製品体験ルーム「Experience Room」としても活用されることから、今回改めてのお披露目となりました。

“マイク不要”で声が拡声される会議室の秘密は、天井に設置されたゼンハイザーの天井設置型高性能シーリングマイク「TeamConnect Ceiling 2」(以下、TCC2)と「TeamConnect Ceiling Medium」(以下、TCCM)、そしてネットワークカメラやスピーカーなど周辺機器を連携させるQ-SYSのシステムによるもの。

具体的には、天井に設置したTCC2/TCCMで話し手の声を拾い、場所に応じた強弱――話者に近い場所では小さく、遠い場所では大きく――で、天井のスピーカーから拡声。加えて、カメラも連動し、話し手を自動で追尾して撮影。オンライン会議にも対応できます。

  • 天井に設置されたTeamConnect Ceiling 2の1つ。計4つ配置されている。TeamConnect Ceiling 2は2019年に販売済み

  • TeamConnect Ceiling Mediumは1基のみ設置。こちらは日本未発売だが、2023年9月頃に国内でも販売する予定という

「Experience Room」の天井には、大会議室向けのTCC2が4基、中会議室向けのTCCMが1基備えられています。

TCC2は28個のエレクトレットコンデンサーマイクを内蔵し、半径5m(約80平方メートル)の範囲で人の声を集音。少し小さいTCCMは15個のエレクレットコンデンサーマイクを内蔵し、半径3.5m(約40平方メートル)の範囲の声を集音できます。

加えて、Q-SYSのネットワークカメラが3基(可動型が2つ、定点型が1つ)を配置し、スピーカーも8個埋め込まれています。これらの機器を、オーディオや動画などをまとめて制御するQ-SYSのプロセッサー「Core 110f」および、Core 110fと連動したタッチスクリーンデバイスで操作。

基本的には、音声と連動して自動で動き、例えば話し手が変わった場合、自動で新しい話し手を映し出す、といった稼働ができますが、シーリングマイクの感度調整や、話者追尾のオンオフなどが、専用のタッチスクリーン(操作パネル)から行えます。

これらデバイスの配置は、会議室の大きさや目的によって変更できます。今回のExperience Roomで言えば、広さだけならシーリングマイク3基で済むものの、空調やプロジェクターなど天井の配置スペースに制限があるため、計5基での配置となりました。

  • Q-SYSのスピーカーは計8個を設置

  • Q-SYSネットワークカメラの可動型タイプ

  • Q-SYSの定点カメラ

  • 各デバイスを操作できる専用のタッチスクリーン(操作パネル)は演台に置かれていた

  • 演台の下にはネットワーク分配器などを配置

  • Experience Roomのデバイス配置図。シーリングマイク(青い四角)が5基、スピーカー(黄色い丸)が8個、可動型カメラ2個+定点カメラ1個(図の左上・右下)、プロセッサー+タッチスクリーン(図の左上にある黒い四角)という構成だ

3つの弱点を克服した「新時代の会議システム」とは

「新時代の会議システム」と銘打たれた「Experience Room」は、従来型の会議室/Web会議システムにおける3つの弱点の克服を目指しました。

3つの弱点とは、「参加者の収音にばらつきある」、「誰が話をしているのかわからない」、「設定が難しい」こと。

  • Experience Roomは現状の会議システムの弱点を解決する工夫がなされている

オンライン会議でありがちな、発言者による音量のばらつきは、高性能ショートガンマイク(MKH416)の技術を応用した、TCC2/TCCM内蔵コンデンサーマイクでカバー。また、最も音圧が高い位置から集中的に音声を拾う「ダイナミックビームフォーミング機能」で発話者の位置情報を高精度で検知し、約30度の狭い指向角ビームで口元だけを収音することで、余計なノイズを拾いにくい仕様になっています。

  • TCC2は正方形で、最大80平方メートルの範囲を収音できる。設置は天井に直接取り付けるほか、吊り下げ設置や埋め込み設置も可能

  • TCC2の裏側。天井に設置された姿を見ていると小さく感じるが、近くで見ると意外と大きい

  • 高性能コンデンサーマイクを28個内蔵。「X」の隙間からマイクの丸い穴が見える

発言者がわからない問題は、マイクで取得した位置情報をカメラに送ることで、カメラが発言者を自動追尾するQ-SYSのシステム(TCC2公式プラグイン)で解決しました。音圧感度や収音範囲の設定も、Q-SYSのタッチスクリーンで調整できます。

また、各デバイスの設定が「ほぼ不要」という便利さも売りの1つ。ノートPCをExperience Roomに持ち込み、プロセッサーとUSBケーブル接続することで、PCのオーディオ/ビデオを送受信でき、タッチスクリーンから室内の連携デバイスを一元的にコントロールできるようになります。なお、TCC2/TCCMはTeams認証/Zoom認証を取得しているほか、Google meetやWebexなどにも対応するとのこと。

  • 音圧が高い場所を検知し、位置を特定。位置情報を送られたカメラが自動で話者を撮影・追尾する

  • Experience Roomに組み込まれた会議システムの構成

  • 持ち込んだノートPCを、USBケーブルでCore 110fプロセッサーと接続すると、Experience Roomの会議システムにつなげられる

  • 会議システムを制御するタッチスクリーン。アイコンが大きく、わかりやすいインタフェースだ

  • 展示されていたCore 110fプロセッサー

普通の音量で話しても、自然に拡声されるのが面白い

実際に「Experience Room」を体験して興味深かった点が、「登壇者が普通の声で話しているのに、離れた場所でも声が自然と耳に届く」ことでした。マイクも持たず、隣の人に話しかけるくらいの音量でも部屋中に声が響き、話し手が部屋を歩き回ると、位置に応じてスピーカーから出される音量も変化。ほぼどこにいても、ほぼ一定の音量で声が聞こえました。

話し手の実際の声と、スピーカーから流れる声に遅延がなく、地声がそのまま大きくなったような聞き取りやすさも印象的。また、実際のオンライン会議を試すため、Zoomでつないだ別室へ行った際に、収音範囲内にいる人の声が、雑談までクリアに聞こえたのも面白い体験でした。

会議室などで、話し手の声が遠くに座る参加者にも十分届くようサポートするシステムを「ボイスリフト」と言いますが、TCC2/TCCMとQ-SYSのシステムで実現するゼンハイザーのボイスリフト機能「TruVoicelift」は、話者の生声を適切な音量で拡声できるもの。

自動周波数シフター搭載でハウリングしにくい、ハウリングが起きたとき自動でミュートする、ハウリングしても(音声回線が別のため)オンライン会議が続けられるといった特徴があり、ゼンハイザーでは「現状のボイスリフト製品の中では一番明瞭、かつ音が大きい」とアピールします。

さて、今回のExperience Roomに導入された会議システムの価格は、おおよそ300万円弱。やや高価にも感じますが、参加者用にワイヤレスマイクを何本も用意するコストや、デバイスを接続・設定する手間を考えれば、例えば高級ホテルにある大型会議室など、場所や用途によっては高すぎる価格というわけではないかもしれません。

各デバイス(シーリングマイクやカメラ、プロセッサー、タッチスクリーンなど)の電源はPoE(Power over Ethernet)給電が採用され、LANケーブルのみで電源を取れるため、別途電源用ケーブルをつなぐ必要がありません。室内がスッキリ見え、会議に集中できそうな点もよかったです。こんな会議室でオンライン会議したり、製品発表会に参加してみたいと思わせる、新感覚の会議室でした。