ヤマハは、2023年6月9日、東京・恵比寿 ザ・ガーデンルームにて「ヤマハプロオーディオ新商品発表会2023」を開催した。このイベントは、プレスや業界関係者以外の一般ユーザーも参加可能で、最新のデジタルミキシングコンソール「DM7」シリーズと「DM3」シリーズ、シグナルプロセッサー「DME7」に、サウンドシステムの設計、制御、管理が行えるWindows/iPad用アプリケーション「ProVisionaire」、ポータブルPAシステム「STAGEPAS 100」シリーズなどに触れることができた。

  • デジタルミキシングコンソール「DM7」

  • 「DM7 Compact」(左)と「DM7 Control」に拡張カード群

発表されたばかりの「DM7」シリーズは、「DM7」と「DM7 Compact」という2モデルの展開で、エクスパンションコントローラー「DM7 Control」も用意されている。「DM7」は32入力/16出力と120入力チャンネルのミキシングキャパシティを、「DM7 Compact」は16入力/16出力と72入力チャンネルのミキシングキャパシティを備える。ともにオーディオネットワーク規格「Dante」に対応し、サンプリングレート最大96kHzのオーディオが扱える。

透明で色づけのない音質を目指して電源やアース、入力端子、回路レイアウトなどで従来パーツから改良を施し、チャンネルストリップには、フラッグシップモデルの「RIVAGE PM」シリーズと同じ4種類の「チャンネルEQ」に加え、「FET Limiter」と「Diode Bridge Compressor」を新搭載。ダイナミクス調整の幅を広げている。原音と圧縮音をミックスしパラレルコンプレッションが可能な「Mix Balance」も新たに搭載。加えて、最大64チャンネルのオートミキシングが可能な「Dan Duganオートマチックミキサー」を標準装備し、EQラックのリソースを消費することなくチャンネルストリップからアクセスできる。さらに、Rupert Neve Designsとの共同開発によるイコライザー「Portico 5033」やコンプレッサー/リミッター「Portico 5043」、ダイナミックノイズサプレッサー「DaNSe」や「ダイナミックEQ」など、ヤマハ独自の「VCM(Virtual Circuitry Modeling)」プラグインを多数収録。「FX RACK」には、新搭載の「REV HD」「REV R3」をはじめ、43種類のエフェクトが利用できるマルチエフェクトプロセッサーを用意している。

デジタルミキシングコンソールでは主流となりつつあるタッチスクリーン操作を導入し、12.1インチのマルチタッチスクリーンを「DM7 Compact」で1枚、「DM7」では2枚を装備。物理的な画面エンコーダーと「タッチ&ターン」ノブを使って操作が行える。また、7インチ×1枚のユーティリティスクリーンを搭載し、シーンリスト、User Defined Key、メーターなど、必要な情報や機能に素早くアクセスできる。チャンネルストリップの情報を一覧表示し操作したいパラメーターへ瞬時にアクセスできる「Selected Channel View」を新搭載。入力メーターにはヘッドアンプのレベル管理に役立つヒストグラム表示機能が追加されている。

目を惹く機能として1台の「DM7」または「DM7 Compact」を2台の別々のミキサーのように機能させる「Split Mode」がある。「Split Mode」を使うと、本来2台のミキサーが必要なFOH(メイン卓)とモニター、FOHと配信といった用途に際し、スペースの関係でミキサーが1台しか置けない場合にも、2台のミキサーがある環境と変わらないミキシングが行える。

セットアップの迅速化、効率化のために採用された3つの「Assist」機能にも注目したい。「HA Assist」は、入力信号レベルに応じて適切なHA(ヘッドアンプ)レベルを、「Naming Assist」は入力信号情報から各チャンネルのアイコン/チャンネル名を、「Fader Assist」は割り当てられたチャンネルのフェーダーバランスを提案してくれる。これらの補助機能により、サウンドエンジニアがよりクリエイティブな作業やコミュニケーションに時間を割けるよう、セットアップや準備の時間を短縮できる。これらはあくまで「提案」という形で機能し、その「提案」が気に入ればそのままを設定すれば良いし、そうでなければ、自身で変更できるようになっている。

また、リアパネルに用意されている18入力/出力のUSB-CポートとPCとを接続することで、ストリーミング配信・会議システムとの連携はもちろん、DAWリモートによる本体フェーダーやキーからのソフトウェアの操作も行える。劇場や放送局以外の現場でも有用な機能だと言えよう。リアパネルにはコンソールの機能や接続性をカスタマイズできるPYカードスロットも装備し、「PY64-MD」(MADI 64入力/出力)、「PY8-AE」(AES/EBU D-sub 25ピン8入力/出力)、「PY-MIDI-GPI」(MID/GPIコントロール端子拡張用のDIN 5ピンおよびD-sub 15ピン端子)の3種のカードが利用できる(これら拡張カードは2023年9月の発売を予定、価格はオープンプライス)。

バンドルソフトも充実しており、サウンドエンジニアが好みのエフェクトラックを作成できるプラグインホストソフトウェア「VST Rack Elements」と、ライブレコーディングに最適な独SteinbergのDAWソフトウェア「Nuendo Live」、専用アプリケーション「DM7 Editor」と「DM7 StageMix」に、汎用アプリケーション「MonitorMix」「ProVisionaire Contol」「ProVisionaire Touch」を用意。オフラインでの準備やワイヤレスミキシング、モニターミキシング、コントロール(周辺機器含む)が行える。また、OSC(Open Sound Control)サーバー機能を搭載しており、OSC対応機器から本機の操作ができる。

デザイン面では、ヤマハミキサー独特の滑らかなラインを継承。ボタンやツマミのレイアウト、機能、グラフィックなどサウンドエンジニアがミキシングする際の見た目の美しさや親しみやすい操作性も追求している。また、ストリップライトとフェーダー面をつなぐサイドパッドを曲線でデザインし、一体感を持たせている。サイドパッドは、ストリップライトからの光漏れを防ぐとともに、USBメモリーやツマミなどへの誤接触を回避する形状を採用。さらに、ディスプレイの角度、フェーダーやボタンのピッチ、ストリップライトの位置などを工夫し、高い操作性と視認性を維持しながらコンパクトな筐体を実現している。「DM7 Compact」においては、サイドパッドを取り外すことでラックマウントによる設置も行える。

サイズ/質量は「DM7」がW793×H324×D564mm/23.5kgで、「DM7 Compact」はW468×H324×D564mm/16.5kg。ともに2023年9月発売予定で価格はオープンプライス(市場想定価格は本稿執筆時点で不明)。

同時に発表された「DM7 Control」は、「DM7」または「DM7 Compact」と接続することでフェーダー2本、User Defined Key、DAWコントロール用ジョグホイール、シーンメモリー、パンナー、モニターコントロールを追加できるエクスパンションコントローラー。ミュージカルなど総合的なトリガーやシーンチェンジが必要な作品や、モニターやDAWのハンズオンコントロールが重要な放送局などに適した操作環境を提供する。また本製品には、5.1chサラウンド対応、ミックスマイナス、ラウドネスメーターなど、放送用途に必要な機能を備えた専用ソフトウェア「Broadcast Package」とミュージカルなどの劇場用途に有効な機能として、Actor Library、DCA Scene Grid、AFC Imageコントロールなどを搭載した「Theatre Package」をバンドルする。これらのソフトウェアは「DM7 Control」を必要としない「DM7」「DM7 Compact」のユーザーも個別購入でき、一台のハードウェアに両方のソフトウェアをインストールできる。インストールはアクセス認証をした上でユーザー自身で行える。

  • 今年4月に発売された「DM3」とDanteネットワーク用I/Oラック「Tio1608-D2」(下)

今年4月に発売された「DM3」「DM3 Standard」に、Danteネットワーク用I/Oラック「Tio1608-D2」も展示された。これらについての詳細はこちらの記事を参照いただきたい。

  • シグナルプロセッサーのフラッグシップモデル「DME7」

  • 「ProVisionaireシリーズ」

シグナルプロセッサーのフラッグシップモデル「DME7」も展示され、実機に触れることができた。「DME7」は96kHzに対応し、標準で64chのDante入出力を備え、64ch単位の拡張キット「DEK-DME7-DX64」を利用することで、最大256chまで拡張可能となっており、プロセッサー内部のコンフィグレーションのデザインや設置環境・運用方法にあわせたコントロールパネルの作成や機器のリモートコントロール、およびモニタリングが可能なアプリケーションソフトウェア「ProVisionaireシリーズ」によるシステム全体の制御にも対応する。「ProVisionaireシリーズ」は「ProVisionaire Design」「ProVisionaire Control」「ProVisionaire Cloud」の3種類へ再編されており、「ProVisionaire Design」は、幅広いヤマハプロオーディオ製品に対応したWindowsベースのシステム設計アプリケーションとなっている。「ProVisionaire Control」を使用すると、パソコンやタブレット経由でシステムのリモートコントロールとモニタリングが行え、「ProVisionaire Cloud」では、システムの管理や、拡張ライセンスの有効化・無効化などが実行できる。

  • ポータブルPAシステム「STAGEPAS 100」シリーズ

さらに、ポータブルPAシステム「STAGEPAS 100BTR」と「STAGEPAS 100」も披露された。両製品は、持ち運びのできる筐体にスピーカー、アンプ、ミキサーが一体となったイベント・ライブ用のPAセットとして提供されている「STAGEPAS」シリーズの新モデルだ。「STAGEPAS 100BTR」はリチウムイオンバッテリーを内蔵し、最大6時間駆動するので、電源のない場所でも使用できる。価格はオープンプライスで、市場想定価格は「STAGEPAS 100BTR」が69,300円、「STAGEPAS 100」は59,400円。

ともに6.5インチウーファーと高域コンプレッションドライバーの同軸バイアンプ方式を採用し、デジタルプロセッシングのクロスオーバーには、リニアな位相特性を持つFIR(Finite Impulse Response)フィルターを装備。位相特性や高域/低域間のタイムアラインメント(時間軸)の最適化を図っている。本体にはスピーカーユニットとアンプに加え2系統のマイクプリアンプを含む3系統4ch(モノラル2、ステレオ1)のミキサーを内蔵。操作部は全てフロントパネルに集約しシンプルなオペレーション環境も実現している。Bluetooth接続にも対応し、スマートフォンやタブレットなどに格納したオーディオをワイヤレスで再生できる。マルチポイント接続も行えるので、2台の機器を同時に接続し、再生操作だけで場面ごとのBGMの切り替えが行える。

本体は、ハンドルのゴム足を床に接するように置いて使用する床置きが設置の基本となるが、左右の固定ネジをゆるめることで角度調節が行え、加えて、市販のマイクスタンドなどに取り付けて、モニタースピーカーや簡易PAに適した高さに設置することも可能。ハンドルは持ち運びの際の取っ手として使うこともできる。

サイズはともにW239xH310xD215mmで、質量は「STAGEPAS 100BTR」が5.5kgで「STAGEPAS 100」が5.2kg(ともにACアダプター含まず)。本体のほか、電源コードx1, ACアダプター「PA-500」x1が付属する。オプションとして専用キャリーバッグ「BAG-STP100」を用意。本体の収納はもちろん、電源アダプターやケーブルなどを格納できる内ポケットを備えており、運搬用にパッド入りのショルダーストラップも付属する。価格はオープンプライスで、市場想定価格は8,800円。

イベント当日は各製品のプレゼンテーションのほか、来場者が実機に触れるようフリータイムが設定された。導入を検討している向きには、実際に触って操作感を確かめられるのは嬉しいところだろう。会場では、こういう使い方はできないのか?といった質問が飛び交い、製品を持ち上げてみて、名前の通りコンパクトかどうか確かめる来場者の姿も見られた。今回展示された製品の多くは、ユーザーからのフィードバックを反映して機能を取り入れたものが多いという。ヤマハはイベントなどを通じて、ユーザーの声を拾っているようなので、今使ってる機材が、こうなったら良いのにななどと思うようなことがあれば、このような機会に伝えてみてはいかがだろうか。