6月に行われたWWDC23の基調講演にて、Apple Watchに搭載されるOSの最新版「watchOS 10」の概要が発表されました。アプリのデザインが全体的に一新され、操作性にも大きな変化が見られます。総合的にはより“時計である”ことの価値を高めるアップデートと言えそうです。ポイントをまとめました。

アプリ画面を全体的に再設計、watchOS“らしさ”確立へ

今回のアップデートでもっとも注目したいのは、アプリを設計する上でのデザインの基本要素が新しくなることです。言葉ではピンとこないと思いますので、見た目で比べてみましょう。

  • 「天気」watchOS 10ではビジュアルがよりリッチに。指定した場所の天気の状況がリアルタイムに反映された表示になります

  • 「アクティビティ」watchOS 10ではリングの周囲に「バッジ」「競争」「週の概要」を表示するボタンが。ムーブやエクササイズの詳細表示もかなり変わっているようです

  • 「世界時計」watchOS 10では登録した地点が昼か夜か、一目で識別できるリッチな表示に。世界地図表示ではデジタルクラウンを回すと同じ地点で時間帯を前後に移動できます

  • 「ミュージック」watchOS 10ではカバーアートとコントロール、またBluetooth接続のボタンが表示されます。iPhoneの「ミュージック」に近いレイアウトです

表現がリッチになったこと以上に、画面の構造の変化に注目してみましょう。一つは、全体的にベーシックな文字盤のレイアウト「中央に時計+四隅にコンプリケーション」のスタイルを踏襲した構成になっている点です。これまで確立してきたApple Watchの“時計らしさ”を活かしながら、そのスタイルをアプリに応用し、使い勝手を再構築している印象です。

もう一つは、操作感に関わる部分です。アクティビティでは四隅のボタンから(画面の切り替えず)レイヤーを重ねて情報を表示させます。また、前の画面に戻るアクションには共通で左上の「×」や「<」ボタンが用いられています。このように、限られた面積で複数の情報を扱うための、並べる・重ねる・スクロールさせるといった表現のバリエーションとその使い方(=デザイン言語)がかなり整理されたように見えます。

  • これらの要素がアプリ開発キットに組み込まれ、サードパーティ製アプリにも用いられるようになります

これまでApple Watchは画面が小さいから操作しにくいのだと思われてきました。しかし、その原因の何割かはアプリごとの細かい操作感が不揃いだったことに起因していたのではないでしょうか。デザイン言語が整理されたことで、watchOS 10では直感的な使用感が向上する可能性が考えられます。

情報の見方を変える? スマートスタック

Apple Watchの物理UI、デジタルクラウンとサイドボタンの操作性にも大きな変化が見られます。

まず、デジタルクラウンを回すと表示される「スマートスタック」です。アプリのウィジェットが並べられていて、機械学習によってそのユーザーがその時に必要な情報を表示するという機能です。これは文字盤からでも、アプリ使用中でも表示することができます。

  • 機械学習によって、必要な情報をタイムリーに表示する画面「スマートスタック」。お好みのウィジェットを手動で並べることもでき、よく使うコンプリケーションをセットできるウィジェットもあります

また、デジタルクラウンを1回押すと開くアプリアイコンの画面が、現在の放射状でなく上下方向に整列する形になるようでうす。そして、デジタルクラウン2回押にはDock、サイドボタンにはコントロールセンターが割り当てられます。

現状、コントロールセンターを開く(下から上にスワイプ)には一度文字盤に戻る必要がありますが、サイドボタンに割り当てることによって文字盤に戻る手間なく開けるようになります。ただ、すでにかなり習慣づいている操作ですから、当初は前違いが頻発するかもしれません。

各アプリの強化、深掘り、専門化が進行

他にも「メッセージ」「コンパス」「マップ」などにさまざまなアップデートが追加されます。

  • 「メッセージ」はスレッド一覧をアイコンで表示。よく会話する相手は上部に固定表示できるように。また、送信済みメッセージの編集や未読メッセージのフィルタリングも可能に

  • 「コンパス」では、「モバイル通信に接続できる最後の地点」「緊急電話に発信できる最後の地点」を自動的にウェイポイントへ追加。「マップ」は等高線、山の陰影、標高の詳細情報などが含まれる地形図表示に対応(米国のみ)

「ヘルスケア」には新たに「メンタルヘルス」と「視覚の健康」が追加されます。これはiPhone、iPadからも使用できます。

「メンタルヘルス」では、その時どきの「感情(State of mind)」やその日の「気分(Mood)」を入力し、その原因と気持ちを言葉でタグづけして保存。過去の記録で気分の変化を見たり、エクササイズや睡眠時間など他のデータとの関連を確認したりできます

「視覚の健康」は1日のうち日光に当たった時間を記録する機能です。医学的には、主に成長期にある子どもを対象に、1日80〜120分以上日光に当たることが近視のリスク低減につながるとされています。

さらに、「ワークアウト」の「サイクリング」では自転車に取り付けるパワーメーター等とのBluetooth接続が可能になります。取得したデータと心拍数等の計測値から「FTP」(機能的作業閾値パワー)を推定し、これを元に論理的な強化トレーニングに用いられる「パワーゾーン」を算出。ワークアウト中に現在のパワーゾーンをリアルタイム表示できるようになります。

  • 面倒な計算をする必要なく、トレーニング中のパワーゾーンをリアルタイムで視覚的に表示

また、サイクリング中のワークアウト表示がiPhoneにも自動的に表示されるようになるので(ライブアクティビティ機能)、ホルダーを使って車体にiPhoneを取り付けておけば、自転車に跨ってる間にも確認しやすくなります。

  • ワークアウトでサイクリングを開始すると、自動的にiPhoneにも計測画面を表示。自転車に跨ってる間にも確認しやすくなります

いずれも、よりディープにApple Watchを使い込む人に対応する機能強化が進んでいる印象です。特にワークアウトは昨年に続いてよりニッチな部分が充実しました。プロアスリートに利用され、ブランドのプレゼンス向上にも資するポイントとなっていくのでしょうか。

組織的導入に対応、福利厚生にも

基調講演では触れらませんでしたが、プレスリリースによるとwatchOS 10で新たにモバイルデバイス管理(MDM)のサポートが導入されます。これはすでにiPhone、iPadなどで行われているように、企業などが組織的にデバイスを導入するための仕組みで、アカウント管理、アプリのインストールやWi-Fi・VPNの設定などが可能です。

ミーティングの予定を通知したり、トランシーバーを内線代わりに使ったり、作業しながら情報の閲覧・入力が必要な職場など、iPhoneとはまた違った場面で仕事のサポートに活用できる可能性があります。もちろん、従業員の健康管理にも有用でしょう。

Apple WatchはSeries6、7、8と、ハードウェア的にはわずかな画面サイズ拡大のみで特筆すべきアップデートはありませんでした(別軸としてApple Watch Ultraが発売されましたが)。一方でwatchOSの方は細かな部分の充実を着々と進め、watchOS 10でひとつ次のフェーズへ入ったような印象を受けます。最終的にどのような形でリリースされるのか、また同時にハードウェアがどう進化するのかにも注目したいと思います。