ある日編集長から、「象印マホービンがクラフトビールを発売するから取材に行ってきてよ」と言われ、何をどう聞き間違えたのだろうと困惑してつい聞き返してしまいました。しかし聞き間違いではありません。
言葉通り、高級炊飯器「炎舞炊き」シリーズで知られる象印マホービンから、クラフトビール「ハレと穂」が6月20日に登場しました。
このクラフトビールは、炊飯器開発の際に試験で炊いたごはんを原料の一部に用いて作ったというもの。330mLの瓶で販売・提供し、価格は660円です。象印が運営するごはんレストラン「象印食堂」や、伊勢角屋麦酒のECサイト「伊勢角屋オンラインストア」などで6月21日から販売開始します。さっそくメディア向け体験会で試飲してきました。
炊飯試験では年間30tのごはんが発生?
開発背景には、象印マホービンの主力商品である炊飯器が大きく関わってきます。炊飯器は、開発過程において、ごはんのおいしさを追求するために炊飯と試食を繰り返し行います。そのため、どうしても食べきれないごはんが発生。その量はなんと年間約30tといいます。
象印マホービンは、「おいしく炊いたごはんを一粒でも無駄にしたくない」という想いから、これまで、試食で食べきれなかったごはんを年間数十万円ほどかけて、農産物の肥料としてリサイクルしていました。
これを何か別の方法で有効活用できないかと考え、2021年3月にはファーメンステーションと協業して、炊飯試験で炊いたごはんが原料となった発酵アルコール(エタノール)を精製。このアルコールを使い「ごはんで作った除菌ウエットティッシュ」を商品開発しました(発売は2021年9月)。
3社の協力でハレと穂誕生!
ウエットティッシュの発売後、ごはんのアップサイクルの可能性を模索していたときに、フードロスに取り組むシンガポール発のスタートアップ企業であるCRUST JAPANと出会いました。ビールへアップサイクルすることの提案と、二軒茶屋餅角屋本店でクラフトビールなどの製造を手掛ける伊勢角屋麦酒の紹介を受けたことで、今回の商品化を決めたといいます。
伊勢角屋麦酒が製造を手掛けたハレと穂は、麦芽の約15%をごはんに置き換えたラガービール。ごはんを原料に使うことでさっぱりとドライな後味にしつつ、白ブドウ果汁を加えることで爽やかな味わいにして、和食にも合うよう仕上げました。アルコール度数は5.0%、賞味期限は要冷蔵で約6カ月です。
象印マホービン 新事業開発室の栗栖氏によると、「今回、試験的に5,000本ほどのビールを提供します(一部は飲食店に樽で提供)。このビール製造によって肥料へ変わるごはんの内、減らせる量は数%ほどとまだ少ないですが、反応を見て今後の展開を考えていくほか、今後ごはんを使った別の商品化も予定しています」とのこと。
いざ試飲! スッキリ味わいで乾杯の1杯目にしたい味
さて、気になる味はどうでしょうか。発売に先駆け、さっそくハレと穂を試飲。象印食堂にてテイクアウトで提供している「豆皿6種ちょこっと盛り」(平日限定/価格:1,280円)と一緒にいただきました。
試飲してみると、まず感じたのはブドウのフルーティーな香りと味わい。その後、爽やかながらしっかりとしたビールの味わいに変化していきました。筆者は当初ブドウの香りが和食と合うのか疑っていましたが、組み合わせてみると、どちらも良さを引き出しあっているのを感じます。
後味はかなりすっきりとした印象。爽やかな後味は、ごはんを原料にすることで実現しました。伊勢角屋麦酒の品質管理責任者 山本氏によると「ごはんは大麦と比較してタンパク質や脂質などがほとんど含まれないため、置き換えることでさっぱりとした味わいになります」とのこと。
ハレと穂は、6月21日から象印食堂(大阪本店/東京店)で提供されるほか、伊勢角屋オンラインストア、イオンリカー(首都圏の一部店舗)などで販売します。和食に合う上品な味わいのビールが気になる人は、象印食堂へ足を運んだり、ECサイトでチェックしてみたりしてはいかがでしょうか。