インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)は5月31日、宮城県登米(とめ)総合産業高等学校にて『スマート農業』に関する特別授業を実施しました。農家の高齢化が進み、人手不足、後継者不足が深刻な社会課題となりつつある昨今。通信事業者が展開する、省人化、省力化に貢献するスマート農業の取り組みに、未来を託される生徒たちも興味津々の様子でした。

  • 宮城県登米総合産業高等学校で行われたスマート農業の授業

    宮城県登米総合産業高等学校で行われたスマート農業の授業

IIJが目指すスマート農業とは

登米総合産業高等学校は、2015年に開校した宮城県立の高等学校。IIJでは同校の農業科に在籍する生徒に向けて、5月と7月の2回にわたり特別授業を実施する予定です。その第1回目となる5月31日の授業には2~3年生(49名)が参加しました。

  • 宮城県登米総合産業高等学校

    宮城県登米総合産業高等学校

  • 授業中の様子

    授業中の様子

教壇に立ったのは、IIJの花屋誠氏。IT企業の社員でありながら、ときにはコンバインを操縦して田植えを手伝うこともあるという人物で、自ら「IIJ社員の中でも、田んぼで作業をした回数は私がダントツに多いことでしょう」とアピールします。

  • 花屋誠氏

    インターネットイニシアティブ IoTビジネス事業部 アグリ事業推進室 室長の花屋誠氏

その冒頭、花屋氏はスマート農業について「ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化、精密化や高品質生産を実現する農業のことです」と説明します。具体例として、農収穫ロボットで重労働を省力化する、自動走行トラクタで省人化する、IoT機器でビッグデータを集めて作物の状態を見える化する、ドローンを使って効率的に農薬や肥料を散布する、といった事例を紹介。

  • スマート農業でできること

    スマート農業でできること

そしてIIJが目指すスマート農業は、上記の要素に加えて「簡単」「安価」「後付できる」「失敗を少なくする」ものであると強調。これまで経験や感覚に頼っていた農業のアナログな部分をデジタルの力で補うことで、たとえ農業経験が浅い人でも立派に就農できるというメリットを生徒たちに伝えました。

  • IIJが目指すスマート農業

    IIJが目指すスマート農業

  • 真剣な表情で授業を聞く生徒たち

    真剣な表情で授業を聞く生徒たち

水田センサーを披露

IIJでは、LPWA技術(LoRaWAN)を利用したスマート農業システム『MITSUHA』を展開しています。通信方式LPWA(Low Power Wide Area)とは、低消費電力で低ビットレート(100kbps以下)ながら、長距離のデータ通信を可能にする(広域をカバーできる)特徴を持った規格。登米市ではJAの協力の下、市内にあるカントリーエレベーター(大型倉庫)の屋上にLoRaWANゲートウェイを設置しており、半径5~10kmの広範囲をエリア化しています。

  • スマート農業で利用する通信技術

    スマート農業で利用する通信技術

  • 登米市内にある2箇所の大型倉庫の屋上にLoRaWANゲートウェイを設置している

    登米市内にある2箇所の大型倉庫の屋上にLoRaWANゲートウェイを設置している

ここで花屋氏は生徒たちに、水田センサー『MITSUHA LP-01』を披露。これは水位・水温を30分ごとに測定できる機器で、単三電池2本で1シーズン稼働できる省エネ設計です。水位は0~60cmまで測定できる仕様。すでに、登米総合産業高等学校が所有する水田に2本を設置したことも明かします。

  • 水田センサー『MITSUHA LP-01』

    水田センサー『MITSUHA LP-01』。センサーボックス(オレンジ色の部分)で田んぼの水位などを計測する

  • 機器の仕様

    『MITSUHA LP-01』の仕様

ここで生徒たちはiPadで専用アプリ「MITSUHA」を開き、水位、水温などのデータを確認。圃場まで出かけなくても、手元のデバイスで田んぼの様子をチェックできる利便性の良さを実体験します。

  • 専用アプリ「MITSUHA」

    専用アプリ「MITSUHA」では水位、水温などの状態を確認できる

  • 水位、水温はグラフ表示にも対応

    水位、水温はグラフ表示にも対応

  • センサーの設置場所を地図から確認する

    センサーの設置場所を地図から確認する

ちなみにIIJでは、静岡県 磐田市および袋井市においてIIJ製 水田センサー300台と他社製 自動給水装置100台を用いた実証実験を実施しており、水管理時間が約7~8割も削減できたことを確認しています。

  • 静岡県磐田市/袋井市でのプロジェクト

    スマート農業システムが大幅な省力化に貢献している

課題について話し合う

このあと、生徒たちはグループに分かれて「スマート農業を利用するうえで問題になりそうなことは?その解決策は?」というテーマで話し合いました。

  • ディスカッション風景1

    仲間と話し合うことで、スマート農業を“自分ごと”にしてもらう狙い

  • ディスカッション風景2

    メリットだけでなく、デメリットについても熟考する

ある男子生徒は、高齢者がスマートフォンの操作に慣れていない点を指摘。「高齢者にも使いやすいよう、アプリ専用のデバイスを作ってみてはどうか」「iPadのように画面が大きい機器なら高齢者も見やすいはず」という意見を出します。また、アプリの使い方を紹介する説明書もほしい、紙で伝わらない部分はIIJの担当者が家庭訪問して説明してもらえたら……という要望も。これには花屋氏も大きくうなずいていました。「ガラケーでも使えるようにしたら」という生徒には、「とても良いアイデアなんですが、ガラケーでできることは限られてしまうため、悩みどころなんです」。

  • 女子生徒のノート

    市にも費用を負担してもらえないか、という女子生徒

  • 意見を発表する生徒

    生徒たちから鋭い意見が出た

このほか、機器が故障したときに修理してくれるショップがあると助かる、という生徒には「素晴らしい提案です。実際に、北海道の美唄市で展開しているスマート農業の取り組みでは、街の人が気軽に立ち寄って相談できる販売店を置いています。機器が故障したとき、メーカーの担当者が修理に行くと相応のコストもかかってしまう。でも、ショップに相談したら原因が分かって自分たちでも修理できた、なんてこともあります。コストの削減が期待できそうですね」と花屋氏。

  • ディスカッション風景3

    どうやったらスマート農業の取り組みが広がっていくか?

  • ディスカッション風景4

    お互いの意見を交換することで理解も深まる

「IoT機器を導入したいけれど設備投資の負担が大きくて踏み切れない農家もいるのでは」「メーカーの努力も必要だけれど自治体の補助金で安く買える仕組みも作れたら」という発表には、花屋氏も「その通りですね。農家さんが機器を購入しやすくなれば、スマート農業の普及にもつながっていきます」と表情を明るくしました。

このあと数人の生徒は、高校が所有する実習田まで移動。稼働する水田センサー『MITSUHA LP-01』を初めて目にして驚いていました。

  • 実習田でセンサーを見学

    この小さなセンサーでデータを計測し、手元のスマートフォンでリアルタイムに確認できる――。そんな技術に驚く生徒たち

  • 実習田の圃場1

    実習田の圃場は約3ヘクタールの広さがあり、ひとめぼれ、ササニシキをいくつかの方法で栽培している

  • 実習田の圃場2

    見渡す限りの田園風景。現在、IIJの水田センサー『MITSUHA LP-01』は2箇所に設置されている