いま携帯PCゲーム機が熱い。世界的ヒットとなったSteam Deckをはじめ、ONEXPLAYER 2、GPD WIN 4など多種多様なモデルが登場している。一つのジャンルとして定着しつつあるが、そこにASUSが投入したのが「ROG ALLY」だ。AMD最新世代のCPUとGPUと組み合わせ、AAA級ゲームも楽しめる性能があるという。今回はRyzen Z1 Extremeを搭載する上位モデルを仕様する機会を得た。実際にどこまで快適にゲームが楽しめるか早速試してみたい。

  • ASUS「ROG ALLY」

    ASUSの「ROG Ally」。価格はRyzen Z1 Extremeを搭載した上位モデルが「109,800円」とRyzen Z1を搭載した下位モデルが「89,800円」

ASUSの「ROG Ally」(アールオージー エイライ)は、PC本体、ディスプレイ、コントローラーが一体化した携帯PCゲーム機だ。ディスプレイは7型のフルHD(1,920×1,080ドット)で、本体のサイズは幅280mm×奥行き111.38mm×高さ21.22~32.43mmで重量が約608gだ。Nintendo Switchがディスプレイ6.2型の1,280×720ドットで本体サイズが幅239mm×奥行き102mm×高さ13.9~28.4mmで重量が約398g(いずれもJoy-Con取り付け時)なので、一回り大きいと考えてもらえればサイズ感が伝わるだろうか。

APU(CPUとGPUを統合したもの)にAMDの「Ryzen Z1 Extreme」を搭載した上位モデルは2023年6月2日に予約開始、2023年6月14日に発売開始となる。「Ryzen Z1」搭載の下位モデルは2023年夏に予約、発売開始を予定しているとのこと。

APU以外のスペックは共通でメモリはLPDDR5-6400が16GB、ストレージは512GBのSSD(PCI Express 4.0 x4接続)、ネットワークはWi-Fi 6E対応となっている。

  • Nintendo Switchとの比較。一回り大きいのが分かる

  • ディスプレイは7型のフルHDだ。タッチ操作にも対応する。正面にはアナログスティックや十字キー、ボタン、スピーカー、マイクなどを備える。コントローラー部分のレイアウトはXbox風だ

  • リフレッシュレートは120Hzと高く、なめらかな画面表示を行える(画像右下)

  • 上部には指紋センサー付きの電源ボタン、音量ボタン、外部GPUを接続できるROG XG Mobileインターフェース、USB 3.2 Type-C(DisplayPort出力、電源入力対応)、microSDカードスロット、左右のバンパーおよびトリガーを備える

  • 背面には二つのマクロボタンおよび通気孔が備わっている

スペックで一番のポイントはAPUの「Ryzen Z1 Extreme」だろう。CPUとしてはAMD最新アーキテクチャ「Zen4」をベースにした8コア16スレッドで、最大5.1GHz駆動というかなり強力なもの。GPUには同じくAMD最新世代の「RDNA 3」をベースにした12コアのRadeon Graphics(最大8.6Teraflops)が組み合わされている。

  • CPU-Zでの表示。Ryzen Z1 Extremeは8コア16スレッドなのが分かる

ちなみに下位モデルの「Ryzen Z1」は、使われているアーキテクチャは同じだが6コア12スレッドで最大4.9GHz駆動。Graphicsは4コアで最大2.8Teraflopsと、かなりスペックはダウンする印象だ。

普段使いにも十分いける基本性能

ROG Allyにはコントローラーで操作しやすいようにさまざまな機能が用意されているが、ともあれまずは一番気になる性能をチェックしよう。テストを始める前に、ROG Allyにはオペレーティングモードとして性能が高い順に「Turbo(30W/25W)」、「パフォーマンス(15W)、「サイレント(9W)」の3種類が用意されている。

要は、性能が高いモードほど消費電力とファンの動作音が大きくなる仕組みだ。Turboは筆者が試す限り、付属のACアダプタをType-Cポートに直で接続すると30W動作、USB PD対応のハブなどを経由する場合は25W動作になった。ハブはUSB PD 100W対応のものを使っても25W動作だったので、最大性能を発揮させたいならType-CポートにACアダプタを接続するべきだろう。

ただ、USBポートはType-Cが1基だけなので別途コントローラーやマウス、キーボード、外部ディスプレイなどを接続したい場合はどうしてもハブの導入が必要になる。そこは性能と利便性のトレードオフと言えるだろう。ここではTurboモードの30W動作でテストを実行している。

  • オペレーティングモードは3種類から選べる

PCの基本性能を測定する「PCMark 10」、CGレンダリングでCPUパワーを測定する「CINEBENCH R23」、ストレージのデータ転送速度を測る「CrystalDiskMark」を試そう。

  • PCMark 10の結果

  • CINEBENCH R23の結果

  • CrystalDiskMark 8.0.4cの結果

PCMark 10は、Web会議/Webブラウザ/アプリ起動の“Essentials”で4,100以上、表計算/文書作成の“Productivity”で4,500以上、写真や映像編集“Digital Content Creation”で3,450以上が快適度の目安となっているが、すべて2倍以上のスコアを達成。普段使いのPCとしても十分な性能があると言える。外部ディスプレイに接続して、はOfficeアプリで仕事したり、動画を楽しんだりするのアリだろう。

CPU性能の指標になるCINEBENCH R23の結果では、AMD最新世代のZen 4アーキテクチャを採用した8コア16スレッドのAPUだけあって高いスコアだ。ここまであればクリエイティブ用途にも使えるレベルにある。ストレージはシーケンシャルリードが4,300.82MB/s、シーケンシャルライトが1,815.95MB/sで、特にリード速度が優秀だ。PCI Express 4.0 x4接続としてはライト速度がそれほど高くはないが、ゲーム用途ではロード時間に直結するリード速度が重要なので、このスペックでも十分高速だと言えるだろう。

実ゲームはどこまで快適に動作するか。5タイトルでテスト

ここからはゲーム性能をチェックしよう。実ゲームの前に3D性能を測る定番ベンチマークの「3DMark」をオペレーティングモード別に実行する。

  • 3DMarkにおける各モードの性能

モードごとに明確な差が出ている点に要注目だ。限界まで性能を引き出すなら、Turboモードにするべきだろう。Webサイトを見るなど軽い処理ならサイレントモードにして消費電力を抑えるのもアリではないだろうか。

さて実ゲームに移ろう。今回はフルHDと1,280×720ドットと2種類の解像度に加えて、アップスケーラーの「RSR」(Radeon Super Resolution)を使って、1,280×720ドットをフルHDにアップスケールした場合のフレームレートを測定することにした。なお、RSRを使うには「コマンドセンター」でAMD RSRをオンにして、ゲームを起動し、解像度をフルHDから1,280×720ドットに変更してプレイする。これで自動的に1,280×720ドットにがフルHDにアップスケールされる仕組みだ。また、オペレーティングモードはすべてTurbo 30W設定で実行している。

まずは人気FPSの「Apex Legends」から。トレーニングモードで一定コースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で計測している。画質は中程度に設定した。

  • Apex Legendsにおける各解像度ごとの性能

画質中程度なら平均80.1fpsと、十分快適にプレイできるフレームレートを出している。内蔵するディスプレイの120Hzリフレッシュレートを活かしたいなら、1280×720ドットか1280×720ドットでRSRを使ってフルHDにアップスケールしてのプレイがよいだろう。どちらも平均120fpsを超えており、なめらかなゲームプレイが楽しめる。

続いて、2023年6月2日に発売を控えている格闘ゲーム「ストリートファイター6」のDemo版を試そう。CPU同士の対戦を実行した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定している。画質はNORMALとした。なお、RSRを使うにはゲームをフルスクリーンに設定する必要があるのだが、このゲームはフルスクリーン設定が用意されていないのでRSRでの計測はできなかった。

  • ExcelのSF6参照

このゲームは最大120fpsまで設定できるが、対戦時は最大60fpsまで。フルHDでは平均39.6fpsとややもっさりした動きになってしまうが、1,280×720ドットに落とせば、平均59.9fpsとほぼ60fpsに到達。快適にプレイが可能だ。

続いて、オープンワールドアクションRPGの「エルデンリング」を実行する。“リムグレイブ”周辺の一定コースを移動した際のフレームレートを、「CapFrameX」で測定した。画質は中設定で、レイトレーシングはオフにしている。

  • エルデンリングにおける各解像度ごとの性能

レイトレーシングをオフにしても、なかなか描画負荷は高い。プレイするなら1280×720ドットまたは1280×720ドット+RSRがよいだろう。ちなみに、いまどき1,280×720ドットの解像度では荒さが目立つのではと思うかもしれないが、7型のディスプレイでは筆者としては荒さはあまり気にならなかった。ゲーム体験としてはフルHDと大きくは変わらない印象だ。

描画負荷の高いAAA級ゲームではどうだろう。ここでは「Atomic Heart」と「サイバーパンク2077」を用意した。Atomic Heartは、メインストーリー“新鮮な空気”のスタート地点から一定コースを移動した際のフレームレートをCapFrameXで計測、サイバーパンク2077は内蔵ベンチマーク機能でフレームレートを測定した。どちらも画質プリセットは一番下の「低」にしている。

  • Atomic Heartにおける各解像度ごとの性能

  • サイバーパンクにおける各解像度ごとの性能

Atomic Heartは、画質が低設定ならフルHDでも平均60.1fpsと快適にプレイが可能だ。画質設定をうまく調整すれば、このクラスのゲームがフルHDで楽しめるのはうれしいところ。その一方で、サイバーパンク2077は最大級に描画負荷が重いPCゲームだけあって、レイトレーシングを使っていない画質低設定でもフルHDでの快適なプレイは厳しい。1,280×720ドットまたは1,280×720ドット+RSRでようやく平均50fpsを超えられる。ここまで重いゲームは珍しいとはいえ、Ryzen Z1 Extremeの限界が見える部分だ。

バッテリー駆動時間はヘビーゲームで2時間

携帯PCゲーム機となれば、バッテリー駆動時間も気になるところだ。ASUSではヘビーゲームで約2時間、クラウドゲームで約6.8時間、動画再生で約6.8時間としている。ここではPCMark 10のBatteryテストから、ゲームを実行する「Gaming」と一般的な処理を実行する「Modern Office」を試した。バッテリー駆動時のオペレーティングモードは、「パフォーマンス 15W」だ。

  • PCMark 10 Batteryの「Gaming」の結果

  • PCMark 10 Batteryの「Modern Office」の結果

バッテリーが100%から3%までの実行時間となるが、Gamingでは1時間37分、Modern Officeでは5時間23分となった。PCMark 10のBatteryテストは公称より短めになることが多いとはいえ、バッテリーで長時間ゲームを遊ぶにはちょっと厳しいかもしれない。移動中に楽しむというよりは、ACアダプタに接続して、ベッドなどでゴロゴロしながらゲームを楽しむという用途のほうが向いているだろう。

独自の「Armoury Crate SE」が使いやすい!

コントローラーで操作しやすいように作られた、ASUS独自の「Armoury Crate SE」アプリを用意している。SteamやEpic Gamesなど主要なゲームプラットフォームに対応しており、インストールされたゲームは自動的に「Game Library」に登録され、一覧表示されるのでコントローラーでも手軽に起動できる。

  • インストールされたゲームはGame Libraryに自動で登録される

  • 主要なゲームプラットフォームに対応

またArmoury Crate SEでは、コントローラの各ボタンに好きな機能を割り当てたり、トリガーボタンやアナログスティックの調整も可能だ。コントローラでFPSやTPS、アクションゲームをプレイするときはアナログスティックの感度が重要になるだけに微調整が可能なのはナイスだ。

  • アナログスティックの反応しない範囲、反応する範囲を微調整できる

十字キーやボタンの反応も上々と感じた。『ストリートファイター6』でもスムーズに必殺技を出すことができ、音ゲーの『初音ミク Project DIVA MEGA39's+』も快適にプレイできた。十字キーとA/B/X/Yボタンは1,000万回押下、ジョイスティックは200万回転の耐久性テストをクリアしているということで、長期間の使用でも不安はないと言える。

多彩な周辺機器も用意

Type-Cポートが1基しかない難点を解消してくれる周辺機器として、ACアダプタの「ROG Gaming Charger Dock」が発売される。65W出力のUSB PDのType-Cポート、USB Type-A、HDMI 2.0出力を備えており、ROG ALLYを充電しながらUSB機器の利用と外部ディスプレイへの接続を可能できる便利なアイテムだ。

  • USBとHDMI出力を備えるACアダプタの「ROG Gaming Charger Dock」

  • 充電をしつつUSBデバイスと外部ディスプレイの出力が行えるのが便利

このほか、すでにPCI Express接続の外付けGPU「ROG XG Mobile」にも対応しており、GPU性能を大幅に向上も可能だ。ROG XG MobileはGeForce RTX 4090など内蔵されるGPU別に複数のモデルが存在している。

ここまでがROG ALLYのレビューとなる。高性能なAPU、高品質なディスプレイとコントローラーを備えて10万円台を実現しているのは携帯PCゲーム機のシャンルに大きなインパクトを与えるのは間違いない。筆者としても、買うだけで積まれていく一方のSteamのゲームを手軽にプレイできるデバイスとして大きな魅力を感じるところだ。外部ディスプレイに接続すれば、普通のPCとして快適に使える性能があるのもよい。これからのPCを購入している人の新たな選択肢にもなりそう。発売が楽しみだ。