NTTドコモから2023年2月10日に発売された「arrows N F-51C」。個人向けのarrowsスマートフォンとしては久しぶりの新機種を、実際にお借りして使ってみました。

  • arrows N F-51C

    FCNT製のNTTドコモ向けAndroidスマートフォン「arrows N F-51C」。2023年2月10日に発売され、ドコモオンラインショップでの価格は98,780円。「いつでもカエドキプログラム」を使って2年で返却する場合の実質負担額は49,940円となる

サステナブル・エシカルを前面に押し出した新生arrows

これまでのarrowsシリーズといえば、かつてのハイエンドモデルではクアッドコアCPUをいち早く搭載するなど性能面で果敢にチャレンジし続けていたり、世界初の虹彩認証搭載スマートフォンを市販化したりと、ハイスペック志向で先進性を重んじるブランドという印象でした。

今回のarrows Nではテーマが大きく変わり、「日本で最もサステナブルなスマートフォンを目指す」「身近なもの・毎日使うものにこそエシカル(倫理的・道徳的)な選択肢を」といったサステナビリティや環境に配慮した現代的なメッセージが込められています。

製造拠点での再生可能エネルギーの利用、日々の暮らしを記録してゲーム感覚で環境への貢献度を知れるアプリのプリインストールなど取り組みは多岐にわたりますが、その象徴といえるのがリサイクル素材を多用したボディです。

バッテリーやディスプレイなどの電気電子部品を除く、ボディそのものを構成する部品の総重量でみると、リサイクル素材の使用率は約67%にも及びます。

  • arrows N F-51C

    ボディの分解見本(製品説明会にて撮影)。アルミフレームやリアパネルは特にリサイクル素材の使用率が高く、ボディ全体では重量比で約67%をリサイクル素材が占める

コストの問題を抜きにすればバージンマテリアル(未加工原料)をリサイクル素材に置き換えること自体はさほど難しい話ではないのでは?と素人考えでは思ってしまいますが、耐衝撃性や防水等級を満たすための気密性など、スマートフォンとしての機能性を損ねない素材の選定・検証は開発時に苦労した部分だそう。

ましてや、テレビCM「割れない刑事(デカ)」などで丈夫なスマートフォンというイメージがすでに定着しているarrowsシリーズだけに、環境配慮のために性能を犠牲にするわけにもいかないでしょう。最終的には見事、arrows Nは米国国防総省のMIL規格準拠の耐衝撃性能をキープすることに成功しています。IP68の防水防塵に加え、「泡ハンドソープで洗える」「アルコール除菌をしてもOK」という特徴もそのままです。

「リサイクル素材だから」を言い訳にしていないことは、強度や耐久性だけでなく、デザイン面でも感じられます。実機を手にしてみて、とてもボディの2/3をリサイクル素材で作ったスマートフォンには見えない質感に驚きました。

  • arrows N F-51C

    リサイクル素材を多用しながらも、歴代arrowsシリーズで定評のある丈夫さは犠牲にしていない。また質感も十分に高く、何も言われずに手に取ったら良い意味で「普通のスマホ」と感じそうだ

再生プラスチックを用いた製品では、素材特有のランダムな模様をあえて残してリサイクル素材らしさを演出したデザインをしばしば見かけます。arrows Nでもドコモオンラインショップ限定カラーの「ブラッシュネイビー」のみそのようなデザインになっているのですが、他の2色(フォグホワイト、フォレストブラック)は柄なしのプレーンな外観です。

この機種を選ぶ人すべてがエコを理由に選ぶわけではないでしょうし、仮に環境意識から選んだとしても周囲に知られたい・積極的にアピールしたいかどうかはまた別の話。購買層を狭めない、嫌味のないニュートラルなデザインであることは美点だと思います。飽きのこないシンプルさは、長く大切に使おうという提案ともマッチしているでしょう。

  • カラーバリエーションはフォグホワイト、フォレストブラック、ブラッシュネイビーの3色

    カラーバリエーションはフォグホワイト、フォレストブラック、ブラッシュネイビーの3色。画像では見えにくいが、ドコモオンラインショップ限定色のブラッシュネイビーのみ、リアパネルにリサイクル素材らしいランダムな模様が入る

「環境に優しい」だけじゃない、arrowsらしい機能も変わらない魅力

ここ数年で発売されたFCNT製の携帯端末を振り返ると、らくらくスマートフォンシリーズやフィーチャーフォン、法人向け端末を除く個人向けのarrowsスマートフォンの投入ペースはやや落ちています。

今回のarrows Nは、2021年冬モデルとしてキャリア各社から発売されたローエンドの「arrows We」以来の新機種。さらに言えば、ある程度スマートフォンを使いこなしているユーザーの利用にも耐えうるミドルレンジ以上の機種に絞ると2020年冬モデルの「arrows NX9」以来となり、独自機能の便利さなどに惚れ込んで歴代モデルを愛用してきた人々は新機種を待ち望んでいたはずです。

  • 画像左から「arrows We F-51B」(2021年12月発売)と「arrows NX9 F-52A」(2020年12月発売)

    画像左から「arrows We F-51B」(2021年12月発売)と「arrows NX9 F-52A」(2020年12月発売)

arrows Nはサステナブル・エシカルなスマートフォンとして新たな層に訴えかける機種であると同時に、もちろん従来のarrowsユーザーの買い替え需要に応える機種でもあります。

性能的にはarrows NX9(Snapdragon 765 5G)やarrows 5G F-51A(Snapdragon 865 5G)からの買い替え先としては物足りないところですが、機能的にはまぎれもなくこれまでの流れを汲んだarrowsスマートフォンであり、4G時代の機種を長年愛用していて「さすがにそろそろ……」という方なら買い替え時ではないでしょうか。

  • OS:Android 12
  • SoC:Qualcomm Snapdragon 695 5G(2.2GHz+1.8GHz オクタコアCPU)
  • メモリ(RAM):8GB
  • 内部ストレージ(ROM):128GB
  • 外部ストレージ:microSDXC(最大1TB)
  • ディスプレイ:6.24インチ 有機EL フルHD+(2,400×1,080)120Hz DCI-P3 100%
  • アウトカメラ:約5,030万画素 1/1.5インチ F1.88(広角)+約810万画素 1/4インチ F2.2(超広角)
  • インカメラ:約1,240万画素 1/3インチ F2.24
  • 通信方式:5G/4G(海外では3G/GSMにも対応)
  • SIM:nanoSIM/eSIM
  • Wi-Fi:IEEE 802.11a/b/g/n/ac
  • Bluetooth:5.1
  • バッテリー:4,600mAh
  • 外部端子:USB Type-C
  • 防水/防塵:IPX5、IPX8/IP6X
  • 生体認証:指紋認証/顔認証
  • その他の機能:FeliCa(おサイフケータイ)、NFC、FMラジオ対応
  • サイズ:約155×72×8.6mm(最厚部10.8mm)
  • 重量:約171g

arrowsならではの便利な機能の例を挙げると、やはりフィーチャーフォン時代から強力なプライバシー保護機能に定評のあったメーカーだけに、指紋認証や顔認証が当たり前になった今でも一歩進んだ工夫が凝らされています。

arrows Nの生体認証機能は、ごく普通の指紋認証(センサーは側面の電源ボタンに内蔵)とインカメラによる顔認証のみで、虹彩認証(Iris Passport)や3D計測を伴う高度な顔認証には対応していません。

ハードウェアとしては平凡ですがソフトウェアが面白く、一部の場面では「顔認証と指紋認証の両方をクリアしないと開かない」ようにしたり、画面ロックの解除とは別に特定のアプリの起動時にだけもう一段階ロックをかけたりと一歩踏み込んだ設定ができます。

  • ホーム画面

    ホーム画面

  • 顔と指紋のダブル認証

    顔と指紋のダブル認証

それから、arrowsのプライバシー保護機能といえば、これまたフィーチャーフォン時代から存在した「プライバシーモード」を抜きには語れません。人に見られたくないアプリや通知、特定の相手からの着信、壁紙、果ては“何かを隠していることそのもの”までも徹底して隠せる非常に凝ったものです。

Fのケータイといえばこれ、というぐらいの代表的な機能ですが、意外にも2016年モデルから数年間途絶えており、2021年のarrows Weで復活したばかり。いくらプライバシーモード目当てでも、ローエンドのarrows Weではスペックが厳しいというユーザーもやはりいたはずで、実用性の高いミドルレンジでプライバシーモードを備えるarrows Nの登場は、買い替え先を失っていた旧機種ユーザーにとっては朗報だったのではないかと思います。

また、指紋センサーはセキュリティだけでなく利便性の向上にも活用されており、指ごとにあらかじめ指定したアプリをロック解除と同時に起動できる「FASTフィンガーランチャー」という機能が便利でした。先述のプライバシーモードの設定にもFASTフィンガーランチャーの派生形のような機能が加わっており、たとえば「親指でロック解除した時は普通だけど、人差し指でロック解除するとプライバシーモードに入る」という具合に、ますますさりげなく使えるように進化しています。

  • プライバシーモードの設定画面

    プライバシーモードの設定画面

  • FASTフィンガーランチャーの設定画面

    FASTフィンガーランチャーの設定画面

2014年夏モデルから長く採用されているジャストシステムとの共同開発による文字入力システム「Super ATOK ULTIAS」、2020年夏モデルのarrows 5G F-51Aから続く「Photoshop Express」(Adobe)のカメラアプリへの統合など、すべての機能を自分たちで作ることに固執しすぎず、各分野のプロといえる強力なパートナー企業と組みながらarrowsだけの特別な機能として取り込んでいるのも魅力的です。

特にATOKは一般のAndroidスマートフォン向けではすでに買い切り型の販売およびサポートが終了しており、サブスクリプション型のみの提供となってしまっただけに、Super ATOK ULTIASの取り組みがスタートした頃よりも「月々いくらの支払いをしなくても、あのATOKをスマホで使える」ということの価値が増しています。さらに言えば、変換エンジンの性能などはプレミアム会員向けの上位版「ATOK for Android[Professional]」に近い部分もあり、ATOKユーザーには刺さるポイントでしょう。

  • Super ATOK ULTIAS

    Super ATOK ULTIAS

  • ロック画面からすぐに写真/音声/テキストでの記録を始められる「FASTメモ」機能も便利だった

    ロック画面からすぐに写真/音声/テキストでの記録を始められる「FASTメモ」機能も便利だった

外装と同様に、中身もやはり長く使ってもらうことを想定して考えられています。日々充電を繰り返すうちに進む電池の劣化を軽減すべくQnovo社と共同開発した充電技術を導入したほか、ソフトウェアアップデートもミドルスペックの機種としては非常に手厚い内容。発売時期から起算して、OSバージョンアップは3回、セキュリティアップデートは4年間の実施が予定されています。

SoCはQualcommのミドルレンジ向け「Snapdragon 695 5G」を採用。発売から間もない現時点ではゲームをしない人なら及第点といえますが、3年後、4年後を見越して買うにはやや心もとないスペックです。8GBメモリやeSIM対応など十分先を見据えることができている部分もあり、あとはワンランク上のミドルハイのSoC、あるいは同じミドルでも設計の新しいSoCを載せられていれば「長く使える」というコンセプトにも説得力が増したように思います。

ただし、arrows Nの開発時期は世界的にSoCの供給不足があった時期とも重なっていました。そのような市場環境にありながら、コンセプト的に短期間で矢継ぎ早にモデルチェンジしていくよりはある程度継続的に売っていくことを考え、供給安定性も考慮してSnapdragon 695 5Gが選定されたそうです。

たしかに同時期の他社の状況を見ても、別のSoCの調達難を理由に端末をマイナーチェンジしてまでSnapdragon 695 5Gに切り替えた事例さえあったほどで、「長めに売るならこのSoCだった」という裏話には納得できる部分もあります。今後同じコンセプトで2代目が登場するときには、市場環境による制約を受けずにベストな選択ができるのかもしれません。

  • Geekbench 6のベンチマークスコア

    Geekbench 6のベンチマークスコア

  • 3DMark(Wild Life)のベンチマークスコア

    3DMark(Wild Life)のベンチマークスコア

「ミドルレンジ相当なのに約10万円」は高い?割引制度の見直しも必要か

私見ですが、arrows N発表時のSNSなどでの反応は必ずしも“待望の新作”を歓迎するムードではなかったように思います。アピールポイントの多くが環境配慮に終始していたことに対する元々のファン層の困惑もあったでしょうし、「スペックの割に高い」といった声も散見されました。

たしかに、搭載SoCなどの基本性能だけを見るとミドルレンジど真ん中の内容であることから、98,780円という価格が割高に見えてしまうことは否めません。

  • じっくり見れば単なるミドルレンジモデルでないことには納得がいくが、キャリア側の売り方には疑問も残る

    じっくり見れば単なるミドルレンジモデルでないことには納得がいくが、キャリア側の売り方には疑問も残る

背景としては、再生素材の多用やハイグレードな有機ELパネルの採用、各種独自機能の搭載など、一般的なミドルレンジスマートフォンよりもコストがかかっていると推察できる部分は多々見受けられます。しかしそれ以上に、キャリア端末の性質上、残価型割引プログラムの存在が価格設定に少なからず影響することが大きな原因でしょう。

MNO各社の割引システムとして近年一般的になっている残価型割引(ドコモの場合「いつでもカエドキプログラム」と呼称)は、「スマートフォンを2年使って返却すれば、残りの分割支払金の支払いは免除します」という仕組みです。

ユーザーに長く使ってもらうことを念頭に置いて練られた製品でありながら、実際には他機種と同様に2年で返却する前提で売られており、残価を付けることを見越した値段が付けられているため、返却せず本体代金をすべて払い切って長く使うと割高になってしまうというミスマッチは非常にもったいないと感じました。

世界的潮流を汲んで企業姿勢としてサステナビリティへの配慮を主軸に考えた端末を作るメーカーはFCNT以外にも現れる可能性が高いですし、キャリア側もそういった製品の存在と矛盾しない販売・割引制度の整備が必要になってくるのではないでしょうか。

  • 最後に、本文中で紹介しきれなかったカメラ性能に触れておく。約5,030万画素 1/1.5インチ F1.88(広角)+約810万画素 1/4インチ F2.2(超広角)のデュアルカメラを搭載する

    最後に、本文中で紹介しきれなかったカメラ性能に触れておく。約5,030万画素 1/1.5インチ F1.88(広角)+約810万画素 1/4インチ F2.2(超広角)のデュアルカメラを搭載する

  • メインの広角カメラで撮影。解像・色味ともに申し分ないクオリティだ

    メインの広角カメラで撮影。解像・色味ともに申し分ないクオリティだ

  • 超広角カメラではタッチフォーカスが使えない。センサーサイズも小さいので、おそらくパンフォーカスのため不要ということだろう

    超広角カメラではタッチフォーカスが使えない。センサーサイズも小さいので、おそらくパンフォーカスのため不要ということだろう。余談だが、メインの大型センサー“以外”のセンサーサイズまで律儀にスペックに記載しているメーカーは少なく、好感が持てる

  • 再び広角カメラに戻し、料理を撮影。色味や明るさは問題ないが、比較的センサーが大きいため、1倍で寄ると周辺がだいぶボケてしまう。デジタルズームで構わないからカメラアプリにワンタップで2倍に切り替えられるボタンが欲しい

    再び広角カメラに戻し、料理を撮影。色味や明るさは問題ないが、比較的センサーが大きいため、1倍で寄ると周辺がだいぶボケてしまう。デジタルズームで構わないからカメラアプリにワンタップで2倍に切り替えられるボタンが欲しい