「ヒラギノがWindowsでも使える!」
そんな声がSNSで飛び交った4月10日「フォントの日」。Adobe Fontsのラインアップに「ヒラギノフォント」が加わったことを歓迎するコメントが多くみられました。
フォント感度の高い人々を中心に話題となっていますが、その一方で「ヒラギノって名前は聞いたことはあるけど、どんなフォントなんだっけ?」なんて思った方もいるのではないでしょうか。
そこで、今回はヒラギノフォントの歴史を振り返りながら、Adobe Fontsで提供するヒラギノフォントの詳細や今後の展望などを、アドビのデザイン製品担当・岩本崇さんとヒラギノフォント販売元であるSCREENグラフィックソリューションズ(以下、SCREEN)の三橋洋一さん&三宅竜太さんに聞きました。
何がすごい? Adobe Fontsの“ヒラギノ加入”
Adobe Fontsの“ヒラギノ加入”以前、ヒラギノフォントを使いたいと思った場合、「Mac(あるいはiPhone/iPad)を買う」のが一番の近道でした。
2001年にMacの標準フォント(Mac OS X 10.0~)として採用されて以来、ヒラギノ角ゴ/ヒラギノ明朝/ヒラギノ丸ゴがmacOS/iOS/iPadOSの標準フォントとして搭載されています。簡単に言ってしまうと、「Appleのデバイスを買えばヒラギノフォントがついてくる」状態です。
「ダウンロード版のフォントを買う」「プロ向けのフォントサブスク『Morisawa Fonts(旧MORISAWA PASSPORT)』に加入する」という手段もありますが、フォントを手に入れるためだけに1万円~6万円ほどかかるので、ハードルが高いと感じる方も多いと思います。
それが今回、Mac/Win両方に対応したフォントライブラリであるAdobe Fontsに加入したことで、Windowsユーザーにとってぐっと身近になったんです。
「Adobe Fontsのヒラギノ」はサブスク加入が条件
Adobe FontsにはAdobe Creative Cloudの無料会員になれば使えるフォントもありますが、ヒラギノ4書体に関してはサブスク加入ユーザーが対象。そのため、ユーザー目線では「アドビのソフトにヒラギノフォントがついてくる」形になります。商用利用可なので、ビジネスでも趣味でも使えます。
アドビが提供しているCreative CloudアプリのサブスクならどれでもOK。Photoshopやillustratorといったクリエイター御用達ソフトだけでなく、PDF編集作成ソフトのAcrobat Pro(月額1,980円)や非クリエイター向けの画像編集アプリであるAdobe Express(月額1,028円)なども対象。
ちなみに、対象サブスクの中で最も安いのは、文書作成ソフトのInCopy(月額638円)。InDesignで印刷物のデザインを行うデザイナーと、中身のコンテンツを作るライター・編集者の仲立ちをしてくれるソフトです。
アドビ岩本さんのイチオシポイントは、「Adobe Fontsのフォントは、MS OfficeのWordやExcel、PowerPointでも使えること」。これはAdobe FontsがOSのフォントフォルダに書体を入れて使うしくみのため実現する使い勝手です。
「たとえばAcrobat Proのユーザーさんが、それ以外の文書の作成にも一貫してAdobe Fonts収録の書体を使っていただくことができるので、そういった使い方がおススメですね」(岩本さん)
Adobe Fontsに加わるのはヒラギノ角ゴ&明朝
4月10日からAdobe Fontsに加わったのは「ヒラギノ角ゴ」と「ヒラギノ明朝」で、合計4書体です。
- ヒラギノ角ゴ ProN W3
- ヒラギノ角ゴ ProN W6
- ヒラギノ明朝 ProN W3
- ヒラギノ明朝 ProN W6
「W」は「ウエイト」の略で、フォントの太さを表していて、数字が大きいほど太い文字になります。ヒラギノ角ゴとヒラギノ明朝、それぞれ2種類の太さのフォントが使えます。
「ProN」というのはその書体に収録されている文字の数や、どんな種類の文字が含まれているかを表す表記。ヒラギノ公式noteの解説が大変詳しいので、気になる方は読んでみてください。
ちなみに、SCREEN三橋さんによると、上記の4書体が最も多く使われていることからセレクトされたとのこと。SCREENがヒラギノ基本6書体とセット販売しているもの(Mac搭載フォントとも共通)のうち、Adobe Fontsでは4書体をカバーしています。
Adobe Fontsとの連携、ねらいは?
Appleに標準フォントとして採用されて以来、ヒラギノフォントは「Macを持ってる人が使える読みやすいフォント」として地位を確立しました。今回、WindowsユーザーにもアクセスしやすいAdobe Fontsへの搭載を決めた理由は何だったのでしょうか?
そんな疑問に対して、「幅広く使われているプラットフォームにヒラギノフォントを提供していこう、というのが我々の方針なんです」と答えたのは、ヒラギノフォントと共に30年歩んできたベテランであるSCREEN三橋さん。
「ヒラギノフォントはおよそ10年ごとに大きなトピックがあるんです。2001年のMac OS Xへの搭載、2010年のMORISAWA PASSPORT(現Morisawa Fonts)への収録、そして2023年、Adobe Fontsのラインアップにヒラギノフォントが加わりました。
Adobe Fontsは全世界で一番多く使われているであろうフォント配信プラットフォームですので、そこにヒラギノフォントを搭載することが、当社の方針にしっかりと一致したんです」(三橋さん)
もちろん、「10年おきのトピック」にしたくて2023年に発表したわけではなく、企業同士の交渉に時間がかかった結果なのだとか。両社の長年の努力が実った結果といえそうです。
裏話として、SCREEN三橋さんは「当初、アドビさんからのお話では、100種類以上あるヒラギノフォントのうち、『Mac搭載の一番人気の書体でなくてもいいから出してくれませんか』という内容もありました」と打ち明けました。
アドビ岩本さんは、それを受けて「まずはSCREENさんに『門を開けてもらう』目的でのご提案でしたが、結果としてヒラギノ角ゴ・明朝の提供が実ったのは嬉しいサプライズでした」と笑顔を浮かべました。
Win/Macの互換性は担保、Mac版とは細部に違い
過去にMacユーザーと文書をやりとりしたとき、ヒラギノフォントが表示できなかった……と苦い思いをしたWinユーザーもいるかもしれません。筆者もそのうちのひとりです。
Win/Mac間の互換性に関して、Adobe Fonts版ヒラギノフォントでも、既存の提供体系(ダウンロード製品/Morisawa Fonts)と同様に担保されています。Win・Macユーザー間でやりとりするときも安心して使えそうです。
実は、Mac版のヒラギノフォントは特別なカスタムが施され、濁点・半濁点が大きくなっています。iPhoneなどのスクリーン上で、より視認性を高めるための変更とのこと。他の提供体系のヒラギノフォントと競合して文字化けするわけではないのでご安心を。
そういえば、ヒラギノのヒラギノって何だっけ?
ここまで何度も書いてきた「ヒラギノ」という単語。フォント名としては普及していますが、その由来は知らない人もいるのではないでしょうか。
ヒラギノは、京都の地名「柊野(ひらぎの)」からとった名前。初のオリジナルフォントで、50年、100年使われる書体になってほしいとの思いが込められています。
SCREENの本社は京都にあり、文字文化の起源も多くが京都にあることから、自社のフォントを「千都フォントライブラリー」と名付けたことが背景にあります。知る前と後では、ヒラギノの文字がちょっと変わって見えてくるかも?
これからヒラギノフォントは増える?
今後、ヒラギノフォントが角ゴ・明朝以外にも広がったり、ウェイトが増えたりする可能性はあるのか聞いてみました。
すると、SCREEN三橋さんは「アドビさん次第なので、ぜひアドビさんにご要望を寄せください!」と満面の笑み。
それを受け、アドビ岩本さんは「我々としてはもちろん(ヒラギノフォントを)増やしたいと思うんですけれども、またお時間をいただくかもしれません」と前置きし、「まずは提供開始されたばかりのこの4書体を、広い形で使っていただければと思います」とコメントしました。
最後に、今回の提携に対するSNSでの反響について、SCREENのおふたりに思うところを聞いてみました。
SCREEN三橋さんは、「予想通りでしたね」と一言。普段から「ヒラギノ」をキーワードとしてSNSを“エゴサ”していて、 「なんでWindowsでヒラギノを使えないの」といったユーザーの声を目にしていたので、今回の発表には大きな反響があるだろうなと想定していたそうです。
一方、ヒラギノフォント担当5年目の三宅さんは、三橋さんとは逆に「すごく反響が多いな」と感じたそう。「動画制作などをきっかけに、フォントの裾野が広がっているのを改めて感じました」と笑顔で振り返ります。
ヒラギノフォントが「Macのフォント」から「Windowsでも使えるフォント」に一歩広がったといえる今回の協業。まずはWinユーザーとして、ぐっと身近になったヒラギノ角ゴ・明朝の到来を喜びつつ、今後の展開も楽しみに待ちたいところです。