Appleオリジナルの映像作品が楽しめるストリーミングサービス「Apple TV+」で、新作映画『テトリス』(TETRIS)の配信が3月31日から始まりました。まばたきをする暇もないほどにスリリングな展開が続くサスペンス・スリラーの大作です。1980年代後半に一世を風靡したゲームタイトルであるテトリスを巡る、実話をもとにしたドラマは見応え満点です。

  • Apple TV+のオリジナルムービー『テトリス』の主人公、ヘンク・ロジャース氏の妻であるアケミ・ロジャースさん(左)と、物語の中でアケミさんを演じた俳優の文音さん(右)

本作の主人公であるビデオゲームセールスマン、ヘンク・ロジャースをやさしく包み込むように支える妻アケミ・ロジャース役を演じた俳優の文音さんと、アケミ・ロジャースさん本人による豪華・独占インタビューが実現しました。「映画・テトリス」の魅力と、いま明かされる「ゲーム・テトリス」が大ブームを巻き起こした当時の舞台裏を語り尽くしてもらいました。

『テトリス』(2023年/1時間57分)

1988年にゲーム「テトリス」と出会ったアメリカのビデオゲームセールスマン、ヘンク・ロジャース(タロン・エガートン)が危険を冒してソ連に渡り、テトリスの生みの親であるエンジニアのアレクセイ・パジトノフ(ニキータ・エフレモフ)とともにこのゲームを世界に発信する…。東西冷戦の時代を舞台に、テトリスを巡る実話を描いた壮大なエンターテインメント。

出演:タロン・エガートン/ニキータ・エフレモフ/文音/ソフィア・レヴェデヴァ/トビー・ジョーンズ/アンソニー・ボイル 他
脚本:ノア・ピンク
プロデューサー:マシュー・ヴォーン/ジリアン・ベリー/クローディア・ヴォーン/レン・ブラヴァトニック/グレゴール・キャメロン
監督:ジョン・S・ベアード

日本にテトリスを紹介した立役者:ヘンク・ロジャースはどんな人?

物語の主人公であるヘンク・ロジャースさんは、アメリカで開催されたエレクトロニクスの展示会で初めてゲーム「テトリス」と出会い、たちまち魅了されました。ヘンクさんは、当時日本の横浜市に構えていたゲームスタジオ「Bullet-Proof Software」(BPS)の創設者としてゲームの開発に携わりながら、ゲームを愛するファンのために世界中を飛び回り、魅力的な作品を紹介する仕事に情熱を注いでいました。

  • ヘンク・ロジャースさんは、ゲームスタジオBPSの社長としてゲームの開発販売に携わる傍らで、世界中の魅力的なゲームを日本に紹介する事業も精力的にこなしていました

ヘンクさんは、ひと目ぼれしたテトリスを日本のゲームファンにも届けたいという思いから、販売権利の獲得に向けて奔走します。ところが、その道のりには数多くの危険と困難が横たわっていました。日本とアメリカ、そして当時のソビエト連邦(ソ連)とヨーロッパを往来するヘンクさんの熱意はやがて大きな実を結び、世界中にテトリスブームが巻き起こります。

妻であるアケミ・ロジャースさんは、4人のお子さんを育てながら、ゲームスタジオBPSの経理部長としてヘンクさんとともにテトリスの普及に貢献してきました。現在は、ご家族とともにハワイに暮らしているそうです。映画テトリスの中では、凜としていながら温かみあふれるアケミさんを、俳優の文音さんが見事に演じています。

  • 文音(Ayane) 1988年生まれ。明治学院大学国際学部国際学科、ニューヨークフィルムアカデミースクール(acting for filmコース)を卒業。映画・テレビ・舞台に幅広く活躍する文音さんの最新情報はオフィシャル・ウェブサイトをご覧ください

  • アケミ・ロジャースさんは、ゲームスタジオ「BPS」(Bullet-Proof Software)の経理部長として会社を運営しながら、たくさんのゲームを世に送り出してきました

夫をしなやかに、たくましく支えた妻アケミ・ロジャース

――映画『テトリス』が公開されました。アケミ・ロジャースさんを演じた文音さんのもとには、周りからどんな声が届いていますか。

文音さん:「息もつかせないほど、ドキドキする展開に引き込まれた」「テトリスについて深く知ることができてまた遊びたくなった」といったような、たくさんの温かい感想をいただいてとても嬉しいです。

――文音さんは作品の中で、アケミ・ロジャースさんの役柄をどのように演じようと心がけたのでしょうか?

文音さん:映画の撮影が始まる前に、アケミさんとオンラインでお話できる機会を設けていただけたことが、私のとても大切な時間になりました。当時のエピソードや感じられていたお気持ちなど、さまざまなお話をいただきながら、アケミさんのお人柄に触れることができたからです。

アケミさんはヘンクさんのお仕事を支えながら、当時はまだ小さなお子さんのいる家庭を大切に守ってきました。いわゆる“大和撫子”と呼ぶべき素敵な女性です。アケミさんのすべてを私が演じる役の中に反映させて、上品な日本女性の姿を世界の方々に伝えたいと思いました。

  • アケミさんを演じることで、強くしなやかな日本の女性像を伝えたかったと話す文音さん

アケミさん:当時、主人は仕事で世界を飛び回っていました。海外に長く滞在することも多かったので、私は子どもたちと過ごしながら、心の中ではさまざまな不安や心配事を抱えていたように思います。文音さんは、当時の私の気持ちも含めて見事に演じ切ってくださいました。わが家の子どもたちも、完成した映画を観て「文音さんいいね!」と絶賛していましたよ。

文音さん:ありがとうございます! ご本人にそうおっしゃっていただけて、とても光栄です。

――ヘンク・ロジャース氏を演じた俳優のタロン・エガートンさんとの共演はいかがでしたか。

文音さん:タロンがヘンク・ロジャースという人物を見事に演じ切ってくれることを信じていました。私は、今年の3月にアメリカのテキサス州オースティンで開催された「SXSW Film & TV Festival」で映画『テトリス』のプレミア上映イベントが開催された時に、初めてヘンクさんにお会いできました。映画の中でタロンが演じたヘンク・ロジャースと、本物のヘンクさんは表情や仕草が似ているだけでなく、「魂が重なり合っている」ような印象を受けて、とても驚きました。

タロンと私の共演は最初のシーンを除いて、家族の“すれ違い”が描かれるシリアスな場面が多くありました。そのため、監督や撮影クルーの方々が集まる現場の空気も常に張り詰めていました。タロンは撮影のたびに精神状態を切り替えなければならないので、すごくもがいていたように思います。でも、彼は都度乗り越えながら自分の役になりきり、素晴らしい演技をやり遂げました。決して簡単なことではありません。タロンのような素晴らしい俳優と共演し、私も多くのことを学ぶことができました。

  • ヘンク・ロジャースを演じるタロン・エガートンさんと文音さんの共演シーンは要注目です

テトリスが多くの人々をゲーマーに変えた

――アケミさんに、映画「テトリス」をご覧になった感想をお聞きしたいと思います。

アケミさん:最後までハラハラ、ドキドキしながら楽しみました。私は、この作品の軸になるテーマは「愛」だと思います。主人公をめぐる状況は場面ごとに変化しますが、そこに描かれている友情やビジネスパートナーとの信頼関係、そして家族愛に引き込まれました。物語のクライマックスでは、主人公がなぜ、どのようにしてテトリスを獲得できたのか、その場面にも一貫して描かれている「愛」に注目しながら観てほしいですね。

  • 映画『テトリス』の一番の見どころは「愛」である、と語るアケミさん

――ヘンクさんの身の回りに起きた出来事もリアルに描かれているのでしょうか。

アケミさん:そう思います。当時、主人がソ連に出張すると、常に当局の監視を受けていたようです。実は、アレクシー(テトリスを開発したアレクセイ・パジトノフ氏)の住まいには最初入ることができず、マンションの玄関下で見張られながら会うしかなかったようです。また、ELORG(ソ連外国貿易協会)はその場所すら判明しなかったため、訪問するのにとても苦労したそうです。このような厳しい状況の中でも、本当にたくさんの方々に助けてもらったと主人が話していました。

――ヘンクさんは、もともとゲームの開発もされていたんですか?

アケミさん:はい。自身が立ち上げたBPSから最初に商品化したゲーム『ザ・ブラックオニキス』は、当時日本ではロールプレイングゲームの先駆けとしてたくさんの賞をいただいたヒット作になりました。その後もゲームの開発を続けながら、主人は海外の面白いゲームタイトルを紹介することにも力を入れていました。その時に出会ったタイトルがテトリスでした。

  • ヘンクさんは、当時の任天堂の社長だった山内溥氏とも、得意だった「囲碁」を通じてとても親しい間柄だったそうです。映画『テトリス』の中で、当時の任天堂の様子がどのように描かれているか、要注目です

――テトリスは日本でも爆発的なブームを巻き起こしました。テトリスがヒットしたころのロジャース家の周辺はどんな様子でしたか。

アケミさん:あの時は、BPSの開発メンバーからパートタイムの従業員まで、みんながテトリスに夢中になっていました。お昼休みはもちろん、終業後も帰らずにテトリスを遊んでいる方までいるほどでした。老若男女を問わず、誰でもシンプルに遊べるゲームは、当時も数少なかったからだと思います。

アレクシーに聞いたら、テトリスを作ったばかりのころは、ロシアの研究員もみなテトリスにはまっていたそうです。わが家の子どもたちは、一番下の子が当時2歳でしたが、3歳になるころにはテトリスがとても上手になっていて、私に勝ってしまうほどでした。家の中に四角いものがあったら「みんなテトリスに見える」ぐらいにのめり込んでいました(笑)。

1980年代後半のリアルを見事に再現した

――映画の中では、入念な時代考証を踏まえた1980年代後半の街の様子や空気感がとてもリアルに描かれていると思いました。ロジャース家が暮らしたお部屋の様子などはいかがでしたか。

アケミさん:すごくリアルに再現されていました。タロンさんの洋服も、当時主人が着ていたものにとても近いと思います。

――衣装といえば、文音さんの衣装もすごく洗練されていて素敵でしたね。

文音さん:ありがとうございます。衣装を担当しているスタッフの方々の高いプロフェッショナル意識に私も刺激を受けました。最初の打ち合わせに足を運ぶと、現場には物語の時代や地域設定に合わせた衣装が何着も揃っていました。驚いたのは、もしそこにふさわしいものがなかったとしても、その場で役者の体型を採寸して撮影が始まるまでに衣装を作ってしまうんです。衣装スタッフの方々とはフランクにコミュニケーションができたので、役者の好みの色なども反映していただきました。

  • 撮影に臨む文音さん。多くのシーンがスコットランドとイギリスで制作されたそうです

テトリスはみんなの人生を変えたゲームだった

――ヘンクさんが「テトリスは自分にとって人生のターニングポイントだ」とおっしゃっているそうですね。

アケミさん:テトリスは、私たちがゲームを楽しむことの価値を大きく変えたと思います。娯楽性に富んでいるだけでなく、メンタルエクササイズや脳のトレーニングにも役に立つゲームとして、テトリスは世代を超えて愛され続けています。テトリスをプレイしている最中は、人間が集中力を高めている時に表れる脳波が計測されたことから、スポーツ選手が試合前にテトリスをプレイするようになったというエピソードを聞いたことがあります。

テトリスは、私たち家族の人生も大きく変えたように思います。映画のプレビュー版が完成した2022年の12月ごろに、ロジャース家一同30人以上が集まってホームシアターで上映会を開く機会がありました。魅力的な作品に感動したこともありますが、当時のことを思い出して家族たちが涙していました。主人は、毎回映画を見るたびに「3度泣く」と言っています。私はと言えば、その時にちょうどハワイまで遊びに来ていたアレクシーの奥さんと、各場面の品定めをしながら盛り上がっていたので、ウルウル来る暇もなかったように思います(笑)。

――おふたりは、映画テトリスをどんな方に観てほしいですか。

アケミさん:当時のゲーム史を振り返れるとても貴重な映画だと思います。ぜひ多くの方々に楽しみながら観てほしいですね。

文音さん:おそらく、現在20代後半以上の方々はテトリスをプレイしたことがあったり、またはゲームの名前をご存じかと思います。みんなが知っているテトリスがどのように作られ、世界に普及するまでの間、日本の企業や日本に暮らす人々がどのように関わってきたのか、ぜひ多くの方々にその物語に触れてほしいと思います。若いゲーマーの皆さんは、映画テトリスを観ないことにはゲームを語れないですよ!(笑) もちろん、エンターテインメントとしても完成度の高い作品なので、家族揃って楽しむ映画としても最適です。

――私は、テトリスのストーリーをしっかりと理解したいので、これからApple TV+で繰り返し観てみたいと思います。

文音さん:Apple TV+は、丁寧に制作された内容の濃いオリジナル作品が揃っているところが、他のストリーミングサービスとの大きな違いだと私は思います。多くの方にとって身近なデバイスであるiPhoneやiPadを使って、いつでも手軽に視聴できるところもすごく良いですよね。欲を言えば、Appleにはぜひ映画館でテトリスを上映する機会を作ってもらいたいです。

――本日はありがとうございました。