アップルの音楽配信サービス「Apple Music」では、AirPodsやHomePodを含むアップルのデバイスなどで立体音楽体験が楽しめる「ドルビーアトモスによる空間オーディオ」(以下:空間オーディオ)に対応するコンテンツを配信しています。

Apple Musicで配信されている日本のアーティストによる音楽作品もいま、空間オーディオのタイトルが伸び盛りです。今年の2月17日にリリースされたアニメーション映画「BLUE GIANT」(原作:石塚真一氏)のサウンドトラックが、3月に入ってから空間オーディオで聴ける国内ジャズアルバムとして、Apple Musicにおける再生回数の最高記録を打ち立てました。話題沸騰の映画とともに、その勢いは加速しています。

今回は「BLUE GIANT」の主人公である宮本大の演奏を担当したサックス奏者の馬場智章さんに、アルバムに収録された楽曲の聴きどころや、空間オーディオによるクリエーションの醍醐味などを語っていただきました。

  • ジャズの未来を担う若手ミュージシャンの注目株、サキソフォン奏者の馬場智章さんに、サントラ「BLUE GIANT」や空間オーディオの魅力をうかがいました

「BLUE GIANT」のサントラは全29曲が空間オーディオで楽しめる

映画「BLUE GIANT」のオリジナルサウンドトラックには、世界的なジャズピアニストである上原ひろみさんがプロデュースする劇中音楽全29曲が収録されています。Apple Musicでは、アルバムの全曲が空間オーディオとステレオのロスレス音質で配信されています。

アップルの空間オーディオは、大きな高級オーディオシステムやホームシアターシステムを揃えなくても、iPhoneとAirPodsシリーズの組み合わせ、またはMacBookの内蔵スピーカー、最新の第2世代のHomePodやApple TV 4Kに代表されるAppleのデバイスなどでシンプルに聴けます。

映画のシーンが目に浮かぶような音づくりを目指した

1992年生まれの馬場智章(ばばともあき)さんは、いま日本で最も注目すべき若手ジャズミュージシャンのひとり。サキソフォンの演奏以外にも、作曲や編曲もマルチにこなすタレントの持ち主です。2011年に米国バークリー音楽大学に全額奨学生として入学後、グラミーを受賞した全米のトップミュージシャンと数多くの共演を成功させてきました。2020年には、初のリーダーアルバム「Story Teller」をリリース。2022年の2ndアルバム「Gathering」で立て続けにヒットを飛ばし、波に乗っています。

映画「BLUE GIANT」の劇中では、主人公によるサキソフォンの演奏を馬場さんが担当しています。サキソフォンとピアノ、ドラムスによるジャズトリオ“JASS(ジャス)”が演奏する『N.E.W.』『WE WILL』『FIRST NOTE』と、エンドロールで流れる『BLUE GIANT』は、アルバムの中でも特に繰り返し聴きたく“胸熱な名曲”たちです。

  • 映画「BLUE GIANT」で主人公の宮本大がサキソフォンを奏でているシーン。演奏は馬場さんが担当した ©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館

馬場さんは、演奏したすべての楽曲のレコーディングで「音楽作品としてのクオリティはもちろんのこと、映画のサウンドトラックとして場面とリンクする音づくりにも思いを込めた」と振り返ります。

「劇中では、JASSのトリオがホールやジャズクラブなどさまざまな場所で演奏します。音楽の聞こえ方は、演奏する場所によって大きく変わります。『BLUE GIANT』は、音楽の演奏がとりわけ大事な作品なので、それぞれの場面にふさわしいリアルな音を追求しました。ぜひ映画のシーンを思い浮かべながら聴いてみてください」(馬場さん)

馬場さんがJASSのメンバーとして演奏しているのは上記の4曲ですが、ほかにも劇中のあるシーンで登場するサキソフォン奏者として、サウンドトラック収録の楽曲『Another autumn』を演奏しています。JASSでのエネルギッシュな音楽とはひと味違う、ダンディなメロディを見事に吹き分けた馬場さんの“名演”も必聴です。

  • 馬場さんも、新しいHomePodで「BLUE GIANT」の収録曲を空間オーディオで聴かれたそう

  • 「僕が場面ごとに描き分けたサウンドが、空間オーディオによって忠実に再現されました。楽曲を聴いたリスナーの方々が、音質にこだわることの楽しさを知ってほしい」と期待を寄せます

空間オーディオには音楽と他のアートを結び付ける力がある

空間オーディオの魅力は、豊かな音場の広がりが楽しめるだけでなく、ほかにも楽器やボーカルの音像が立体感を増すところにも現れます。歌をうたい、楽器を演奏するミュージシャンの姿がまるで目の前に迫ってくるような臨場感を味わえるはずです。

従来のステレオ録音による音楽制作のほかに、空間オーディオという表現手法が増えることについて、馬場さんが抱いている期待感をうかがいました。

「空間オーディオによって、音楽とほかの形態によるアートとのコラボレーションがさらに広がると思います。僕の最初のアルバム『Story Teller』では、友人であるサウンドアーティストの國本怜さんと組んで、サキソフォンによるサウンド・インスタレーションのような楽曲も制作しています。機会があれば次はより『空間』を意識した楽曲も、空間オーディオのツールを使って制作してみたいですね。」(馬場さん)

プロのミュージシャンはどのように「音楽を聴く」のか

音楽を「作り・演奏する」プロミュージシャンである馬場さんが、ふだん音楽を「聴く」時にはどのように過ごしているのでしょうか。

「街を散歩する時は、それぞれ場所の雰囲気に合う音楽を意識しながら聴いています。電車でゆったりと移動する時間などには、ストーリー性の豊かな楽曲構成のアルバムをよく選びます」(馬場さん)

馬場さんはアメリカで生活していたころ、バークリー音楽大学に近いボストン美術館にもよく足を運んでいたといいます。

「絵画のイメージに刺激をもらって、“勝手にDJ”をしながら美術館の展示を楽しんでいました(笑)。作曲をする時は、街を歩いて風景を見ながら浮かんでくる音のイメージも大切にしています。空間オーディオは音楽を通して時間と場所を超えた空気感、温度感のようなものの感覚をリスナーと共有する手段に成り得るかもしれません」(馬場さん)

  • 自身の曲を作る時にも「この音楽を聴きたい場所の風景などビジュアルのイメージを思い浮かべることがよくある」という馬場さん

若い音楽ファンにもジャズの魅力に触れてもらいたい

「BLUE GIANT」の上映開始後から、馬場さんのもとには「初めてジャズを聴いて感動した」といった声が数多く届いているそうです。

「映画をご覧になった方から、次はジャズのライブにも足を運んでみたい、というメッセージをいただいたことが嬉かったです。ドルビーシネマで立体音響体験を味わったり、原作のコミックに魅了されたり、きっかけはさまざまであっても、“難解なもの”として捉えられがちなジャズの魅力に多くの方々が惹き付けられたことは僕にも大きな励みになりました」(馬場さん)

馬場さんは、若い音楽ファンにもぜひジャズを聴いてみてほしいと呼びかけます。

「最近ではジャズとヒップホップ、ロックなどが融合して新しい音楽が生まれつつあります。元来、ジャズはとても幅の広い音楽です。『BLUE GIANT』の音楽に触れた若い音楽ファンが、身の回りにある音楽のジャズ的な要素を発見して、もっとジャズを好きになってくれたら嬉しいですね。」(馬場さん)

Apple Musicでは空間オーディオで制作されているジャズの名作を集めたプレイリストを公開しています。「BLUE GIANT」の劇中に登場するアート・ブレイキーの作品も空間オーディオで揃っているので、ぜひチェックしてみてください。

MacBook Proは音楽制作の頼もしいパートナー

馬場さんは、音楽の創作活動などに16インチのMacBook Proを活用されています。

「MacとmacOSに対応する音楽制作のためのクリエイティブツールが充実しています。MIDIキーボードやパッドコントローラーなど制作に欠かせない周辺機器も揃っていて、なおかつ動作が安定しているので、音楽をつくることに集中できます。MacBook Proは、モバイルワークステーションとしてパフォーマンスと可搬性能の両方がとても高いと実感しています。Macで制作した音源をリハーサルの際にはスタジオに持ち出して、一緒に演奏するミュージシャンに聴いてもらうといった使い方もしています」(馬場さん)

コロナ禍の期間中は、自宅で楽曲を制作する機会が増えたそうです。この時期には、MacBook Proが馬場さんの頼もしい相棒として、多くのリモート録音により参加した作品制作を支えました。

次に馬場さんが購入を検討しているのはiPadなのだとか。「楽譜としてiPadを使っているミュージシャン仲間が増えているからです。ライブ中に必要な譜面灯が省略できたり、紙の楽譜のように風で飛ばされる心配がないことは、とても良いと思います。リハーサルの時に音源を仲間のミュージシャンに聴いてもらう時にも、iPadはMacBookよりもさらに可搬性が高くて良さそうですね。僕は、作曲する時には楽譜を手で書くことにこだわりたいと思っていますが、iPadを手に入れたら場面に応じてどんなふうに上手に使い分けようかと、今いろんな構想を練っているところです(笑)」

  • ふだんの創作活動にMacBook Proが欠かせない、と語る馬場さん

馬場智章の生のサキソフォンを聴きに行こう!

馬場さんのサキソフォンによる熱い生の演奏も、ぜひ聴きに出かけてみてはいかがでしょうか。

馬場さんは5月13日(土)と14日(日)の両日、秩父ミューズパーク(埼玉県秩父郡小鹿野町)で開催する「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023」に出演を予定しています。馬場さんのバンドは14日に登壇を予定していますが、ほかにも13日には映画「BLUE GIANT」でもJASSのメンバーとして共演されたドラマーの石若駿さんが率いるバンド、Answer to Rememberのステージにも出演します。

「Love Supremeは、屋外でとても気持ちよく過ごせる季節に開かれる、開放感あふれる音楽フェスです。フードやお酒を楽しみながらゆったりとジャズを楽しみに来てください」(馬場さん)

馬場さんは、他にもさまざまな一流アーティストのバンドによるライブや、ジャズクラブでの演奏にも数多く参加しています。オフィシャルホームページには最新のスケジュールが公開されているので、ぜひチェックしてみてください。

◆馬場智章さんイベント出演情報
新世代ジャズフェスティバル「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023
5月13日(土)、14日(日)@秩父ミューズパーク(埼玉県秩父郡小鹿野町)