テクノロジーで睡眠を可視化して「幻想的な夜」を演出
実際に計画を進めるにあたり、最初の壁となったのが「会場」だ。ここでも、「ZAKONE」に参画する企業に助けられた。
最初は、マックス・リヒターのように、コンサートホールにベッドを並べるという方法も考えたそうだが、新型コロナウイルスが感染拡大していたうえ、「隣に知らない人が寝ている状況はありなのか」?という意見も出て、チーム内でもパートナー間でもかなり意見が分かれたという。
そして議論の結果、今回は適度なプライベートを保ちつつ、気持ちよく聴いてもらうほうが良いという結論になった。そこに適した環境を探すことになったのだが、コの字型の建物で、中庭があって、窓を開ければ生演奏を聴くことができるという条件を満たす、ホテルや旅館を探すのにはかなり苦労したそうだ。
「そんな時、厳選した宿を紹介するサービスを提供しているitomaさんがZAKONEにいらっしゃったので、お声がけをさせていただいたところ、すぐにいくつかの候補を出してくれて。その中で、吉池旅館さんがすごく興味を持っていただけたので、今回の会場として協力していただくことになりました」
「ZZZN - LISTEN AND SLEEP -」では、ただ音楽を聴いて寝るというところに、睡眠情報をトラッキングする睡眠専用デバイス「ブレインスリープコイン」を使うことで、睡眠と照明を連動させるアプローチが取られている。イベント参加者に取り付けられた「ブレインスリープ コイン」によって、睡眠状態が赤色灯と連動し、幻想的な夜が演出される。
「われわれが関わる以上、テクノロジーによる効果を見せたいという意向がありました。今回は特に夜のライブになるので、照明を演出として取り入れようという話になりました」と尾形氏。
そこで、「睡眠を可視化できたら面白いのではないか」という視点を得たそうだ。睡眠と照明のIoT化という点では、「現在のところ、寝たら照明が消えるといったゼロイチの物はたくさんありますが、今回は深い眠りに入るまでのゆらぎなど、個々の動きも可視化させているのが大きな特徴です」と尾形氏は話す。
そのために、どのデータをどのような演出に結びつけるかが大きな課題であり、「眠りに落ちていく段階を明度で表現するのか」「点滅させるのか」など、睡眠の可視化を演出として成立させるために試行錯誤を重ねてきた。
「IoTと聞くと、機械的で冷たいイメージを持たれがちですが、今回の照明は何か生きている感じがして、見ているとちょっと愛おしくなります。睡眠のデータがこういった感情につながるというのも一つの気付きでした」と、尾形氏は振り返る。
「ZZZN - LISTEN AND SLEEP -」、そして睡眠産業の展望
さまざまな課題を乗り越えて、ようやくたどり着いた「ZZZN - LISTEN AND SLEEP -」だが、尾形氏はさらなる展望についても語ってくれた。
「2回目、3回目と続けていくことが重要だと思っています。さらに、今回はコーポレートPRとして、当社がお金を出しているのですが、今後は協賛企業を募り、さらに規模を広げていけたらと考えています。当社は地域の会社なので、もっと地域に絡めていきたい。例えば、札幌のNoMaps。日本のサウス・バイ・サウスウエストと言われていて、街とテクノロジーを絡めて、体験や展示を行うイベントですが、そうしたところでも見せられるアレンジを考えていきたいです。また、健康都市づくりを行っているような自治体と組んで、睡眠と絡めたイベントなどができれば面白いですね」
「ZZZN - LISTEN AND SLEEP-」に限らず、今後もさまざまな企画、コラボレーションを通して、日本の睡眠産業を盛り上げていきたいと語る尾形氏だが、その展望はさらに広がっていく。
「睡眠との掛け算をもっとやっていかなければいけないと思っています。今回は音楽ですが、他のものとの連動にも取り組んでいきたい。例えば、書店がかなり厳しい状況にある中、本を売るためのキッカケづくりとして、睡眠と掛け合わせられないかと考えています。『眠れる本』のようなものを作るのもありですし、単純に眠れそうな本をセレクトするだけでなく、本の概念から再定義することで、例えば文字がない本もありかもしれない。全部白いページで、めくることが睡眠に効くといったものです」
尾形氏は、音楽にとどまることなく、「書籍×睡眠」によるコラボレーションなども視野に入れているようだ。さらに、睡眠ビジネスの可能性について次のようにも語る。
「いろいろなものを掛け合わせることで、市場をもっと発展させて、“睡眠のカルチャー”、そして“睡眠のエンタメ”を作っていきたいですし、みんなが楽しんで寝られる掛け合わせをもっと探していきたい。人生の三分の一は睡眠なので、いかにライフスタイルに寄り添えるかが重要。皆さんが睡眠を楽しめるように、今後もさまざまな展開を提案していければと思っています」(尾形氏)