2023年2月25日から26日にかけて、千葉県千葉市の日本カレット倉庫にて、招待制の学生限定ゲーム機持ち込み型イベント(LANパーティ)「Novice JIGGY」が開催されました。
本イベントは、昨年のeスポーツイベント「AICHI IMPACT! 2022」内で行われた学生主催LANパーティ「Novice」のスピンアウト版。チケットの販売は行わず、招待された学生eスポーツ団体に所属する大学生たちが企画や運営を行い、自ら楽しむクローズドなLANパーティです。
記事の前半では、会場の模様や参加した学生eスポーツ団体をご紹介。記事の後半では、本イベントの開催にリーダーとして携わる中部学生esports協会の久野貴裕さんと、開催をサポートした東海テレビ放送の深谷弘さんのインタビューをお届けします。
学生たちが企画を持ち寄り、楽しみながら経験を積む場に
本イベントは、大型LANパーティ「C4 LAN」のスピンアウト版である「C4 LAN GARAGE」の会場と同じ、日本カレット倉庫にて行われました。土日の2日間にわたるLANパーティでしたが、準備のために到着した前日からすでにゲームを遊び始めていた学生も多く、実質3日間を通して楽しんでいたようです。
参加したのは、学生eスポーツ団体に所属する大学生たちで、普段からeスポーツの大会やイベントの運営を経験している学生ばかり。そのため、各々がBYOC(Bring Your Own Computer)席でゲームなどを楽しむだけでなく、やりたい企画を持ち寄り、幅広いタイトルでさまざまなイベントを開催しました。
ほとんどの企画は自由参加でしたが、より一体感のあるメインイベントとして行われたのは、全員がチームを組んで参加する『VALORANT』のトーナメント。取材に訪れた最終日には決勝戦が行われており、ラウンドの勝負が決まるごとに会場のあちこちから声が響きます。オフラインならではの熱気を感じました。
イベントでは企画や運営に限らず、試合の実況解説なども学生が行います。なかには、公式大会のキャスターになることを目指している学生もいて、イベントを楽しみながら、経験を積んでスキルを磨いていく場になっていました。
また、“LAN”という独自のポイントを付与する、おもしろい仕組みもありました。イベントに参加して勝利したり、スタッフとして稼働したりすると“LAN”を獲得します。その“LAN”は、学生たちが持ち寄った手土産やお菓子などを取り扱う“LANマート”で交換可能。単に「ご自由にどうぞ」と置いておくのではなく、さまざまな要素と絡めてゲーム性を持たせる創意工夫に富んだ取り組みと言えます。
各地から集った、さまざまな特色を持つ学生eスポーツ団体
「Novice JIGGY」には、主に3つの学生eスポーツ団体が参加しました。1つは、中部地域の学生を中心に構成される「中部学生esports協会(C-sea)」。昨年11月、愛知県のAichi Sky Expoで行われたeスポーツイベント「AICHI IMPACT! 2022」内で、学生主催LANパーティ「Novice」を運営した団体です。
彼らは、静岡県で開催された「C4 LAN 2022 SUMMER」に参加したことがきっかけで、LANパーティの魅力を知り、運営にチャレンジしたといいます。昨年11月にこの会場で開催された「C4 LAN GARAGE #2」にも参加しており、「Novice JIGGY」の開催にあたって各団体に声をかける中心的な存在になりました。
2つ目の団体は、全国各地にメンバーを持ち、大学対抗eスポーツリーグ「イーカレ」などを主催する、「学生e-sports連盟(学e連)」です。最近では、社会人eスポーツリーグ「AFTER 6 LEAGUE」と共同で、大学と企業から2名ずつでチームを組む『PUBG MOBILE』の大会を開催。eスポーツを通じて大学生と社会人が交流する新たな取り組みを行っています。
そして、3つ目の団体は、山形県の学生eスポーツコミュニティ「EYEC(アイシー)」。山形県在住の学生だけでなく、山形県出身の学生なども含む、地元を盛り上げるためのコミュニティです。過去には、地元のeスポーツ施設を使い、山形大学のサークルと合同で『VALORANT』の大会「山形ばろ合戦」を行うなど、地域密着型の大会を開催しています。
どの団体の活動内容も本格的で、卒業後は経験を活かして、eスポーツ関連の仕事に就きたいと考えている学生が多いようでした。積極的に活動している学生たちが、今後それぞれの道に羽ばたいていくと考えると、こうしたオフラインの場でできた横のつながりが、将来的にさまざまな可能性につながることも期待できるでしょう。
「Novice JIGGY」の開催に関わる2人にインタビュー
会場にて、「Novice JIGGY」の開催にリーダーとして携わる中部学生esports協会の久野貴裕さんと、開催をサポートした東海テレビ放送の深谷弘さんへのインタビューを行いました。学生主催LANパーティが始まった背景や、LANパーティで生まれる横のつながり、今後の取り組みなどについて聞いています。
学生主催LANパーティ「Novice」が生まれたきっかけ
――最初に、お二人の自己紹介をお願いします。
久野貴裕さん(以下、久野):中部学生esports協会で、「Novice」の代表をしている久野と申します。今回の「Novice JIGGY」ではリーダーとして、全体を見る立場を担っています。今大学4年生で、4月からは就職して社会人になります。
深谷弘さん(以下、深谷):東海テレビでビジネスプロデュースをしている深谷と申します。僕は5年ほど前から、イベントでゲームに携わろうといろいろ取り組んできました。もともとは、2017年に東京流通センターで開催された「C4 LAN」を見て、「これだ!」と思ったのがLANパーティとの出会いです。
その後、2019年に東海テレビで「乱 by Nagoya e-Sports Festival」というLANパーティを主催しました。ただ、それを継続していこうとしていた矢先に、コロナ禍に突入してしまったんですね。そして、昨年やっと「AICHI IMPACT! 2022」内でLANパーティを復活させることができました。それが、中部学生esports協会が運営する「Novice」です。
――学生が運営するLANパーティとして復活させたのには、どのような背景があったのでしょうか?
深谷:今いろいろな企業がDX化を進めようとしていますが、良い学生はみんな東京や大阪に行ってしまって、地元ではなかなか良い人材が見つかりにくいと言われているんですよ。
けれど、eスポーツやLANパーティが好きなゲーマーには、高いリテラシーを持つ人がたくさんいます。それを伝えるために、LANパーティでPCに触れている学生たちの姿を、地元企業の人たちに見せたかったんです。ましてや、運営しているのが学生と聞けば、ずいぶん見え方が変わりますよね。
それから、やはり子どもたちに、より早くPCに触れるきっかけをつくっていく必要があります。そのため、親世代の大人たちにも、子どもにPCを触らせると将来役に立つんだと気づいてもらいたい思いもありました。そういった背景から、中部学生esports協会が運営するLANパーティとして開催しました。
――今回、別名をつけたスピンアウト版の「Novice JIGGY」として開催した理由を教えてください。
久野:「Novice」は一般向けにチケットを販売するLANパーティですが、今回は招待された学生だけが参加するLANパーティなので、それを区別するためにスピンアウト版としています。「Novice」は、初心者や新米といった意味のイベント名なのですが、スピンアウト版で加えた「ZIGGY」は、みんなで騒ぐ、遊び倒す、といったイメージからつけました。
所属団体を超えて、オフラインの場でつくる横のつながり
――「Novice JIGGY」も、中部学生esports協会が中心となって運営しているのでしょうか?
久野:各団体に声をかけて、招待したのは中部学生esports協会です。ただ、「NOVICE JIGGY」はみんなで一緒に運営しながら、楽しんだりスキルを高めたりすることをコンセプトとしているので、中部学生esports協会だけが主導しているわけではなく、すべての団体が横並びの立場で参加しています。
――今の大学生はコロナの影響で、横のつながりを作りづらかったと聞きます。こうしてオフラインに複数の団体で集まってみて、いかがでしたか?
久野:僕は、2~3年生のときにコロナの影響で、オフラインではほとんど何もできない時期が続きました。言葉で表すと単純ですが、やっぱり顔を合わせるオフラインでのコミュニケーションは、オンラインとはまったく別物なんですよね。こうしたオフラインのイベントを楽しむことで、横のつながりは間違いなく増えると思います。
実際に今回のLANパーティでは、イベントでチームを組んだり対戦したりするなかで、みんな団体を超えて仲良くなっていきました。それだけでなく、団体同士で「今度イベントを一緒にやろう」という話も出てきています。参加者の学年も、1年生から4年生まで幅広いので、団体同士のつながりから生まれるイベントは今後増えていくと思います。
深谷:実はもともと、各団体が張り合っているような、ギスギスした空気があったんですよ。でも、こうして2~3日間を同じ空間で過ごすことで打ち解けて、今後オンラインでやり取りすることがあっても、意見が言いやすくなります。
今回参加した団体は、それぞれに得意分野を持っているんです。例えば、中部学生esports協会は配信に強みを持っています。学生e-sports連盟は、運営のほか営業も得意ですし、キャスターができる学生もいます。地域密着型のEYECは、地元企業との連携が強みになるでしょう。
なので、今後何かやりたいイベントがあったときに、得意なところを活かしたり、足りないところを補ったりして、お互いに手伝うこともできます。そういったことも、オフラインで顔を合わせたからこそ、より気兼ねなく提案できるようになりますよね。
百聞は一見にしかず、まずはLANパーティを体験することから
――今後、取り組んでいきたいと考えていることがあれば教えてください。
久野:今はまだ外から見ると、あくまでコミュニティイベントをやっている学生団体でしかないと思います。でも、中部学生esports協会を、もっと外からも認められる団体にしていきたい。そのために、企業とのやり取りも強化して、LANパーティやeスポーツ大会の運営での実績をつくっていきたいと思っています。
深谷:彼も今4年生でまもなく卒業ですが、学生eスポーツ団体に所属する学生たちは、卒業するとみんなバラバラになってしまうんですよね。なので、現役の学生たちをサポートする、OB会のようなものをつくってはどうかと提案しています。
また、僕としては「Novice実行委員会」をつくるのもいいのではないかと考えています。所属する団体に関係なく、全国から同じ志の人たちを集めて「Novice」をやっていくことで、各地方の活性化につながったらいいですよね。なにより、それによって各団体の間にある壁が、なくなっていけばいいなと思います。
――最後に、学生eスポーツ団体やLANパーティに興味がある人に向けて、メッセージをお願いします。
深谷:百聞は一見にしかずなので、まずは4月末の「C4 LAN」に足を運んでみてほしいです。学生の方は、学割もありますから。実は今回、僕が声をかけた学生たちも、当初は「行かない」と言っていたのですが、僕が熱く語っていくうちに、全員来ることになったんです。やっぱり最初の一歩は怖いんですよね。でも、いざ来てみるとみんな楽しんでいます。なので、まずは来てみてほしいですね。
昨年の「AICHI IMPACT! 2022」の開催前にも、愛知県の職員を「C4 LAN」に呼んでいました。イベント直前になってコロナの波が来て、「Novice」を中止にするかという風向きになったときでも、実際に見に来た人は「いや、やりましょう」と言ってくれたんですよ。県の職員の気持ちを動かすぐらいのインパクトがあるわけですから、学生にとってはなおさらだと思います。
久野:本当にその通りだと思います。やはり実際に来てみないと、なかなかLANパーティの楽しさはわからないものなので、まずは体感してみてほしいです。今後も、「Novice」は定期的に開催していく予定ですので、中部学生esports協会や「Novice」のTwitterアカウントで、ぜひ情報をチェックいただければと思います。もし運営に興味がある学生の方がいれば、メッセージをお待ちしています。
――久野さん、深谷さん、ありがとうございました!