KDDIは3月7日、新しいメタバースサービス「αU」を開始すると発表した。メタバース空間の「αU metaverse」、自由視点で音楽ライブなどが楽しめる「αU live」、デジタルアート作品などがNFTとして購入できる「αU wallet」、実店舗とバーチャル店舗を連携させた「αU place」といった複数のサービスを展開。さらに、今後サービスを拡充する。
αU metaverseは3月7日からスタート。その後順次サービスを展開していく。見た目は似ているが、auの色をなるべく出さないため名称は「αU」(アルファユー)として回線契約の有無は無関係にサービスは提供される。
メタバースとWeb3でリアルとバーチャルを融合
KDDIは、これまでも「バーチャル渋谷」などのイベント型のメタバースサービスを提供してきたが、αU metaverseでは常設型のサービスとして提供する。バーチャル渋谷、バーチャル大阪の2つの都市を移動して、アバター同士のコミュニケーションやライブへの参加などが可能。
渋谷の路上や居酒屋などでは、音声によるコミュニケーションが基本。自然な会話ができるようにこだわったということで、遅延をできるだけ減らしたという。基本的に周辺のアバターの声はすべて聞こえるが、遠くのアバターの声は小さく、近くの声は大きくと、自然に聞こえるようにしているそうだ。秘密の会話などはできず、特定のアバターに話しかけたとしても、声は周囲に筒抜けとなる。このあたりは注意が必要だろう。
代わりとして、すべてのユーザーには「マイルーム」が用意されている。マイルームでは家具などを置き換えてカスタマイズができるほか、マイルーム内の人だけでコミュニケーションができる。現時点では別のユーザーを招待する機能は提供されていないが、近く提供するという。
周辺にいるアバター全員とコミュニケーションができるということで、例えば「路上ライブ」のようなイベントに向いている。Vtuberなど、動画配信サイトでライブを披露している場合、観客はテキストチャットで参加するが、これをより現場に近い形で、音声で応援を伝えられる。通常の配信でも、テキストではなく音声で対話ができる。
同社は、同じ場所にいる人たちでコミュニティが拡大することで新たなエンターテインメントやクリエイティブが生まれる、としている。なお、一人のユーザーが同時にコミュニケーションできるのは20人で、同じ空間(例えば渋谷の109前)に多くのユーザーがいても、システム上は20人ずつで分割されているので、20人以外のユーザーとは遭遇できないそうだ。
20人以下であれば、友人同士で居酒屋に移動して音声を使っての飲み会が遠隔にいてもできる。日常的にメタバースを楽しめる、と同社では説明する。バーチャル渋谷などはイベントごとに利用する用途だったが、αU metaverseでは日常利用を促したい考えだ。
現時点では、日常利用するための機能が足りているようには見えず、いかにサービスの利用につながる施策を打ち出せるかにかかっている。インフルエンサーなどの取り込みによる利用の促進なども図っていく方針。例えば3月10日には、Vtuberの獅子神レオナによる音楽ライブが開催され、ライブ終了後に本人と1対1で会話できる特典も用意する。
αU metaverseの利用には、スマートフォンアプリをダウンロードする。iOSとAndroidに対応する。
ライブ関連の「αU live」は、360度の自由視点で映像を視聴できるライブ体験サービスとされている。アーティストと会場をバーチャル空間上に再現。アーティストのライブを自由な位置から鑑賞できるため、従来とは異なる楽しみ方ができる。
Google Cloudとの協業により、クラウドレンダリングを活用して高精細な映像をスマートフォンでも気軽に楽しめるようにした。視点を移動する場合も、その都度クラウドアクセスが発生するため、5Gに適したサービスであり、今後エッジやSAが普及すればさらに快適になると見込まれる。
現時点では、収録済みのライブ映像を楽しむという方向性だが、リアルタイムのライブの実現も検討していくという。また、音楽ライブ以外にも、演劇やお笑いなど、さまざまなコンテンツに拡大していきたい考えだ。
スマートフォンやPCのブラウザーで視聴できるほか、スマートフォン接続のARグラスを使った視聴も可能。正式提供は2023年夏ごろの予定。
「αU market」は、NFTのデジタルアート作品などが購入できるマーケットプレイス。クレジットカードやauかんたん決済でNFTの購入ができる。Polygonブロックチェーンに対応するため、他の人に再販することも可能。デジタル会員証(NFT)も扱い、渋谷区の店舗で利用できるサービスを提供する。
2002年にスタートしたau Design projectのNFTストア「αU dotadp」も開設。INFOBARの3Dデータなどを販売。アーティスト雪下まゆ氏、ヨシフクホノカ氏、バウエルジゼル愛華氏のNFTも販売する。
このαU marketで購入したNFTを管理、暗号資産Polygon(MATIC)の送金・入金も可能なウォレットアプリ「αU wallet」も提供。今後、イーサリアムにも対応するという。
いずれも3月7日からサービスを提供している。
「αU place」は、バーチャル空間内の店舗とリアル店舗が連携したECサービス。実際の店舗内を、独自開発のスマホスキャナアプリで3DスキャンしてCG化。ディスプレイされた商品もそのままバーチャル化されているため、実際の店舗を見渡すように商品を探し、気に入ったものがあれば選択してそのままオンラインで購入もできる。
リアル店舗のショップスタッフにビデオチャットを行って、実際のアイテムをカメラ越しに見せてもらったり、着こなしアイテムを紹介してもらったり、リアルと同様の接客を受けることもできる。
リアル店舗側が手軽にスキャンできるように工夫することで、バーチャル店舗の作成は比較的容易だが、アバターがアイテムを手に取って試着するといったことはできない。今後、そうした方向性も検討するという。
提供は2023年夏ごろの予定。商品が見やすいように、よりリアルで精細な3Dとなっているため、データ容量が大きく、αU metaverseとは位置づけが異なるとして、αU metaverseから直接バーチャル店舗にアクセスすることはできず、別アプリとして供給される。
povoのトッピングでSNS使い放題に
若者世代をターゲットにしていることもあって、同社の低容量ブランドのpovoに新機能も追加。新たなトッピングとして、Instagram、Facebook、TikTok、Twitterという4つのSNSのデータを使い放題にする「SNSデータ使い放題(7日間)」を3月下旬から追加する。
動画やライブ配信サービス向けの取り組みも実施予定としており、αUのサービスにも対応したトッピングも検討していく。また、クリエイターを応援する取り組みとして、「povo presents ライバーカップ」を開催。povoに加入して活動すると特典が入手できるという。
povoは、「povo2.0」としてサービスが提供されているが、「Web3の時代に合わせて3.0になれるようにしたい」と同社。NFTとデータのセット販売をしたり、トークンがデータ消費と連動したり、といった方向を検討しているという。
3年間で1,000億円規模の投資をして、1,000億円以上の売上規模を目指す
KDDIの髙橋誠社長は、同社のビジョンとしてデジタルツインに注力している点を説明。リアルの情報をデータ化してバーチャルでシミュレーションして、それをリアルにフィードバックしてより良い世界を目指す、という方針だが、現在の若者世代は、常に位置情報を友人たちと共有する、常時接続によるリモート同棲をする、といった具合にリモートとリアルが接近している。そうした現状を踏まえ、髙橋社長は「リアルとバーチャルの世界の線引きはもうないのではないか」と話す。
そうして誕生したのが「αU」ブランドで、コンセプトは「もう、ひとつの世界」だとしている。KDDIの本業であるモバイル通信の世界では、1Gから始まり、3Gにはiモードなどのモバイルインターネットが誕生。4Gではスマートフォンが全盛となり、Web2.0の世界となった。現在の5G時代においては、鍵となるのがメタバースとWeb3だと髙橋社長は指摘する。
中心となるサービスであるαU metaverseは「オープンメタバースを目指す」という考えで、ほかのメタバースサービスとも接続できるようにする。「メタバースはボーダーレスの世界になる」と髙橋社長。
同社の事業創造本部副本部長・中馬和彦氏は、「メタバースではGAFAのように誰かが総取りするのではと聞かれるが、まったくそうは考えていない」と強調。複数のメタバースが共存し、自分のアバターが自由に移動するようになるという考えで、ClusterやREALITYといった複数のメタバースサービスと連携する意向を示す。
αU metaverseの総合プロデュースはカヤックが担当。カヤックアキバスタジオのCXOである天野清之氏は、「アバター時代の新しいコミュニケーションとして音声コミュニケーション」を取り入れたと話し、オープンメタバースやブロックチェーン、NFT、クラウドによるリアルタイムレンダリングなどの挑戦を盛り込んだという。
オープンという観点から、バーチャル渋谷でも協業し、自身もメタバースプラットフォームを提供するクラスターの代表取締役CEO・加藤直人氏は、「メタバースの根幹にはデフォルメのカルチャーがある。ゲームやマンガといった日本が誇るカルチャー、コンテンツとの相性が抜群」と指摘し、メタバースへの流れは重要だという。
それを作り上げるのは1社ではできないので、加藤氏はさまざまな事業者とコラボレーションしながら日本の一大産業にしていきたい、と意気込みを語る。
中馬氏は「3年で1,000億円規模の投資をし、3年間で(1,000億円規模の投資額と)同等以上の売上規模を目指す」との目標を掲げ、今後長期にわたって投資していきたい考えを示した。