次に、ガラス製iLiNPを8個並列化(合計40流路)して、LNP大量生産システムを構築。その性能評価として、再びPOPCを用いてLNP作製が行われ、その粒径と各デバイスユニットから回収される粒径分布(粒径のばらつき)が調べられた。

その結果、新デバイスは従来のiLiNPの約50倍の生産量(1年間で26tの計算)を達成したとする。また、大量生産システムのLNP粒径分布は、ほぼ完全に一致することも確認された。このことから、原料溶液が大量に導入されても、流路がガラス製のため破損や変形することなく、均一なLNPを製造できることが確かめられた。

なお、石英ガラスは高い薬品耐性を示すため、従来iLiNPでは使用できないさまざまな有機溶媒なども使用可能だ。また、石英ガラスは極めて高純度なので、不純物の溶出の心配もないという。

さらに、ガラス製iLiNPおよび製造システムのmRNAワクチン(mRNA搭載LNP)作製への応用可能性の検証が行われた。mRNA搭載LNPの作製には、ファイザー社およびモデルナ社のCOVID-19ワクチンのそれぞれと同じ脂質が用いられ、同時にタンパク質を発現するmRNA「ルシフェラーゼ」も搭載された。その結果、回収されたmRNA搭載LNPの粒径は、どちらのワクチンも80~90nmと分布幅が狭く、極めて均一な粒径のLNPの製造に成功したとする。

また、マウスに対してそれぞれのmRNA搭載LNPを静脈投与および筋肉注射し、ルシフェラーゼの発現量によるLNPの薬効比較が行われた。すると、静脈投与では、どちらのLNPも肝臓でルシフェラーゼの発現が確認され、薬効はほぼ同程度だったという。一方、筋肉注射の場合では、モデルナ社製の方がルシフェラーゼの発現量が有意に高くなることが確認されたとした。これらの結果により、ガラス製iLiNPおよびLNP大量生産システムが、核酸搭載LNPの大量生産にも応用できることが実証された。

研究チームでは現在、ガラス製iLiNPのさらなるLNP生産量の向上に取り組んでおり、最新型では1流路あたり200mL/分以上のLNP生産が可能となったという。そこに、今回の研究で確立された積層化・並列化技術を組み合わせることで、数十L/分のLNP生産性能も期待されるとした。また、今回のマイクロ流路技術をもとに、医薬品製造に必要なGMP基準に準拠したLNP製造装置の開発も進めており、2023年内に試作機を完成させる予定としている。