パナソニック エレクトリックワークス社が取り扱っている一体型LEDベースライト「iDシリーズ」は、オフィスや工場、公共施設などに導入されている、発光部のLEDと制御部が一体化した照明機器です。2012年12月10日の発売から10周年を迎え、2022年11月には累計出荷数が5,000万台を超えています。
今回、発売から10周年を記念して、iDシリーズを生産しているパナソニックの新潟工場において、記者説明会と工場見学会が開催されました。
日本政府が2030年度をメドに、すべての照明器具をLEDに置き換える目標を定めたのは2016年のこと。以降、既に蛍光灯の製造を中止しているメーカーがほとんどです。ここ新潟工場でも、2019年3月末で蛍光灯器具の生産を完全終了しているとのこと。
パナソニックのライティング事業部において、現在の製造拠点は国内が9カ所、海外が2カ所です。その中でも新潟工場は、生産のシステムや技術面でモデルとなるマザー工場と位置づけられ、新潟モデルが国内外の拠点へも展開されています。
1973年11月に旧・分水町(現・燕市)で操業を開始した新潟工場は、甲子園球場にして約4個分の広さに相当する14万4,000平方メートルの面積。敷地内には、第1~第3工場と技術厚生棟が設置され、建屋面積は5万390平方メートル。このうち第2工場でiDシリーズをはじめとする施設・防災照明器具が生産されています。
操業以来、新潟工場では直管型の照明器具を生産してきましたが、2009年に同社初のLED直管ランプ搭載ベースライトの生産をスタート。その後、2012年にiDシリーズの生産が始まりました。
iDシリーズは、ライトバーと呼ぶ光源と、器具本体から構成されます。直管型LEDの新たな規格としてパナソニックが開発した製品群です。蛍光灯から直管型LEDへの置き換えは、2011年の東日本大震災を機に節電ニーズが高まって加速しましたが、さまざまなメーカーが参入したほか、危険な使われ方による事故も相次ぎました。
というのも、iDシリーズが発売される以前、直管型LEDランプとして一般的に普及していたのは「G13」という口金タイプ。LED管の交換だけで済むことから、既設の蛍光灯器具を手軽に置き換えられる反面、組み合わせによっては発煙・発火や感電・落下といった重大事故を招く可能性がありました。
そうした理由でパナソニックは当時から、照明器具ごとの一式交換を推奨。この一式交換を進めるために、安全でより使いやすいLEDベースライトの新たな定番とすべく開発したのがiDシリーズです。
iD(シリーズ)の名称は「いつでも、どこでも、愛されるデザイン。」のキャッチコピーが由来となっています。LEDの自由度を生かして、デザインや施工性にもこだわって設計されました。
特徴的なのは、本体器具+ライトバーという構成。それぞれを場所や用途に合わせて選べて、豊富なバリエーションを提供します。現在は器具本体が約100品番、ライトバーが約440品番をラインナップし、約4万通りの組み合わせが可能です。
蛍光灯と比べて薄く、空間にすっきり収まる形状は、器具表面にネジがないシンプルなデザインも特徴的。器具本体の取り付けも簡単な設計になっており、ライトバーはバネによる着脱。工具なしで取り付けられる仕様です。
施工性については、代を重ねるごとに細かな改良が重ねられていますが、2019年にはリニューアル専用の器具本体を発売。施工をよりスムーズに行うための、器具本体のラインナップです。既設の蛍光灯照明器具の吊りボルトをカットしたり継ぎ足したり、交換も不要な構造で、より簡単に置き換えられます。
LEDといえば、省エネ性に優れているのもメリット。iDシリーズの最新モデルでは、直管型蛍光灯の照明器具と比較して約60%の低消費電力を達成しています。蛍光灯と比較した場合、3年で償却できる計算です。
ちなみに2012年のiDシリーズ発売当時、消費電力の効率は1Wあたり110.6ルーメンでした。その後、2014年に160.4ルーメン/W、2015年に180.2ルーメン/W、2017年に190.2ルーメン/W、2019年以降は193.9ルーメン/Wと、倍近くまで省エネ性能が向上しています。
「オフィスなどではまだ50%ほどが直管型蛍光灯ですが、2030年ごろにはすべてiDシリーズに置き換えたい」(菅谷氏)
照明器具のマザー工場となっている新潟工場では、製品の製造だけでなく、省エネ照明を提案する工場の責務として、生産効率の改善と並行して細かな消費電力削減にも早期から取り組んでいます。その結果、2017年の「Good Factory賞」をはじめ、2018年に「省エネ大賞(資源エネルギー庁長官賞)」、2019年に「スマートファクトリーアワード」を受賞しています。
2021年度からは「CO2ゼロプロジェクト」と称し、さらなる節電の取り組みを開始。2020年に9,200tだった新潟工場のCO2排出量を、2028年にゼロにすることを目指しています。省エネ、創エネ、再生可能エネルギーの購入、カーボンオフセットの活用といった多角的な視点によって、今後も施策を検討していく方針です。
iDシリーズの製造拠点である新潟工場は、照明器具のマザー工場としても、省エネからオフィス照明の在り方を発信する基地としても、幅広く活動しています。
ショールームオフィスを併設
さて、新潟工場では「CO2ゼロプロジェクト」の1つとして、一層の省エネと快適な照明環境を提案するために、工場内のオフィス棟をショールームオフィスとして改装。
棟内は以前から全エリアをLED器具にして省エネ化を図ってきましたが、2階部分を「明るさ×電力比較体感エリア」、「簡単改修タスク・アンビエントエリア」、「iDシリーズ紹介エリア(最新技術体感)」、「ABWオフィス×メリハリ演出エリア」、「オフィス改革エリア」に分け、3階の食堂エリアに「オフィス・カフェエリア」を設置しました。未改修のエリアとの比較も含めて、実際に従業員が業務している現場を訪問し、体感できるようになっています。
改修プランニングを担当した、パナソニック エレクトリックワークス 中央エンジニアリング部 照明ソフト開発課の不破正人氏は、「これからのオフィスに求められるのは、さらなる省エネを追求する環境に配慮した空間省エネと、従業員向けとして人に配慮した空間快適という設計思想。商品の省エネ性比較は簡単でも空間比較が難しく、快適性の面では器具の性能や機能は言語化できても、特徴を表現しにくい点が空間設計の課題です。実際に働く現場で比較・体感できる場所を作り、照明効果を実証したい」と、ショールームを兼ねたオフィス改修を行った経緯を説明しました。
例えば近年、さらなる省エネ策として注目されている「タスク・アンビエント」と呼ばれる照明手法があります。現在、オフィス照明としてJISで推奨されている明るさは750ルクスですが、基本的にはエリア全体の均一な明るさを指します。タスク・アンビエント照明は、作業場所に適した明るさを確保しながらも、周辺環境は安全性や快適性に必要なだけの明るさとする「適所適光」によって、省エネ化を図るというものです。オフィス棟の2階に設けられた「簡単改修タスク・アンビエントエリア」では、実際の空間で明るさや印象を比較、体感できます。