アクアの冷凍冷蔵庫には多くのラインナップがあり、たとえば海外ドラマに出てくるようなスタイリッシュなデザインのモデルも注目されてきました。家電に詳しい人なら「おいシールド冷凍」という機能も思い浮かぶかもしれません。食品を長期間おいしく冷凍できるおいシールド冷凍について、埼玉県熊谷市のアクア研究所「ハイアールアジアR&D 熊谷」を取材してきました。
そもそも冷凍食品はなぜ劣化する?
冷凍庫は「食材を凍らせて保存」します。冷凍庫内は基本的に約-18℃前後の低温で維持されますが、実は食材を安定して-18℃に保つことができれば、食材は何十年たってもほとんど劣化しません。
ただし実際の生活では、冷凍した食材も数カ月で色が変わったり、乾燥したり、解凍すると嫌な臭いがしたりすることもありますよね。これは、冷凍庫内の温度が定期的に上がってしまうために起きる現象です。
冷凍庫内の温度が一時的に上がると、冷凍食材の一部が溶けます。この水分が再凍結すると、食材の表面につく白い「霜」に変化。霜が発生したぶんだけ食材から水分が抜け、つまり乾燥につながるのです。さらに、水分が抜けた隙間に酵素が入ることで、タンパク質や脂肪の酸化が進んで嫌な臭いを発することもあります。
冷蔵庫・冷凍庫から食材を取り出すとき、ドアを開け閉めすると庫内の温度が上がります。しかし、これは庫内温度が上がる一番の理由ではありません。もっとも大きな要因は、冷凍冷蔵庫内のヒーターが稼働するためです。「冷やすための冷蔵庫にヒーター?」と不思議に思うかもしれませんが、冷凍冷蔵庫が冷える仕組みに関係します。
冷凍冷蔵庫は庫外にあるエバポレーターと呼ばれる複雑なヒダ状パーツを冷やし、ヒダの間に風を通すことで冷気を発生。この冷気を庫内に送り込むことで庫内を冷やす仕組みです。
エバポレーターは非常に冷たく、徐々に霜が付着します。霜が大きくなると、エバポレーターの隙間が狭くなって風が通りにくくなるため、定期的に霜を溶かす必要が生じます。「霜取り運転(デフロスト)」の方法は複数ありますが、家庭用の冷凍冷蔵庫で多く採用されているのは、ラジエントヒーターでエバポレーターを直接加熱して霜を溶かす方法です。このヒーターは表面温度が300℃以上にもなるため、どうしても庫内温度が上がってしまいます。
食材を保存する庫内とエバポレーターのある空間は仕切られており、仕切り部分にはファンを配置。通常時はファンがエバポレーターで冷やされた空気を引き込んで庫内を冷やします。霜取り運転時はファンが停止し、熱くなった空気を庫内に侵入させないようにしています。
しかし、止まったファン(羽根)の隙間から暖気が庫内に侵入するため、庫内温度は霜取り運転によって10℃近く上昇するのです。霜取り運転のたびに起きる温度の上昇によって、冷凍食材は「少し溶けては再冷凍される」ことを繰り返してダメージを受けます。
冷凍食品をおいしく冷凍するアクアの技術とは?
冷凍冷蔵庫の高機能モデルによっては、「霜取り運転前に冷凍庫の温度を通常より下げ、温度の上昇を抑える」といった対策をとっているものもあります。しかしそれでも、ヒーターを利用する限り冷凍庫の温度上昇は避けられません。
そこでアクアの冷凍冷蔵庫(高機能モデル)が搭載したのが、「おいシールド冷凍」という技術です。おいシールド冷凍は、霜取り運転時にエバポレーターエリアと庫内を仕切るファンにカバーをかける技術。単純な仕組みですが、暖気がファンの間から漏れるのを防げるのです。
実際に、おいシールド冷凍で保存した食材の試食体験もできました。試食したのは冷凍した小松菜で作ったおひたし、牛肉(サーロイン/バラ)、茹でガニ、ホタテの刺身の5種類です。
ちなみに、冷凍性能の違いが顕著に出たのは、生で提供された刺身用のホタテ。おいシールド冷凍以外のホタテはスジっぽく感じましたが、おいシールド冷凍したホタテはスジっぽさがなく、プリッとした弾力と濃い旨みがありました。冷凍方法でここまで味が変わることに驚きです。
冷蔵庫の性能チェックも行うハイアールアジアR&D 熊谷
ところで、おいシールド冷凍技術が生まれたという「ハイアールアジアR&D 熊谷」とはどのような場所でしょう? アクアは、グローバル家電メーカーのハイアール傘下の子会社ですが、ハイアールは世界5地域に10カ所のR&Dセンターを設立。日本には埼玉の熊谷と京都の2拠点があり、ハイアールとアクアの冷蔵庫や洗濯機の技術開発をしています。
今回、ハイアールアジアR&D 熊谷の内部を見学することもできました。たとえば、見学施設の一部「鮮度保持分析室」では、冷蔵庫で保存した食材の栄養残存率や味の劣化などを測定。冷蔵・冷凍方法によって食材がどのように変化するかをチェックし、今後の開発に生かしています。
おいシールド冷凍がここR&D 熊谷で生まれたことは前述しましたが、おいシールド冷凍はもともと省エネ目的で開発された「ファン遮蔽装置」という技術でした。しかし、開発研究が進むとともに「省エネより保存メリットのほうが大きいのではないか?」となり、現在のような「食材に霜がつきにくく、おいしさを長持ちさせる技術」として誕生。名称も「おいシールド冷凍」に決まりました。
ハイアールアジアR&D 熊谷では製品開発以外にも、さまざまな製品性能試験が行われています。今回の見学は広大な敷地のほんの一部。ほか、冷蔵庫の扉を数万回も開閉して壊れないか確認する「扉開閉試験室」、冷蔵庫の素材が洗剤などで劣化しないか確認する「環境負荷物質測定」室、冷蔵庫の動作音が静音性能内か検証する「騒音試験棟」、高温下や低温下で不具合が起きないかチェックする「恒温室」など、製品をさまざまな方面からテストし、品質維持に努めています。
現在は各メーカーが多機能な冷凍冷蔵庫を発売していますが、なかでも冷凍に関しては、メーカーによって「ピンポイントで強風を当ててすばやく冷凍」や「包丁でカットできる柔らかさに微凍結」など、あると便利な機能を多く搭載しています。とはいえ、冷凍庫の基本的な役割は食材を長く、おいしく保存すること。
そう考えると、アクアのおいシールド冷凍は、少々わかりにくく地味ではありますが、冷凍庫としてもっとも重要な機能とも言えます。これから冷凍冷蔵庫の買い換えや買い増しを検討するときは、冷凍技術にも注目してみてください。