まずは、核融合炉の候補構造材である低放射化フェライト鋼を液体金属スズに浸漬させ、腐食の進行状況が調べられた。その結果、低放射化フェライト鋼がスズと接した場合、腐食し始めるまでのインキュベーションピリオド(腐食が生じない期間)は非常に短く、鋼に含まれる鉄(Fe)成分と高温のスズが反応して、金属間化合物(FeSn2など)をスズ側に向かって急速に成長させながら材料を腐食することが解明された。

金属間化合物が形成される腐食速度は、500℃では10日間で約155μm程。この腐食は、1年間ならミリメートルオーダーに達する可能性があり、とても大きな腐食率であることがわかった。さらに600℃では、腐食に伴う減肉がさらに激しくなることも判明。また、このとき、スズが鋼の微細組織に内方拡散して腐食が進行することも確認されたという。

  • 液体スズに浸漬した核融合炉構造材(低放射化フェライト鋼)の表層断面の走査型電子顕微鏡像。(a)500℃の液体スズに25時間浸漬した場合。(b)500℃の液体スズに250時間浸漬した場合。

    液体スズに浸漬した核融合炉構造材(低放射化フェライト鋼)の表層断面の走査型電子顕微鏡像。(a)500℃の液体スズに25時間浸漬した場合。(b)500℃の液体スズに250時間浸漬した場合。(出所:東工大プレスリリースPDF)

この腐食は、鉄鋼材の主成分の鉄がスズと反応するためであることは上述した通りだ。このことから研究チームは、あらかじめ鉄を酸素と結びつけて酸化鉄としておけば、スズと反応しなくなるのではないかと考察した。

そこで、鉄の酸化物(Fe2O3)とクロムの酸化物(Cr2O3)の焼結体を使用して、500℃のスズとの共存性試験が実施された。鉄の酸化物の焼結材を浸漬した結果では、焼き固める際にできた空孔にスズが部分的に侵入してしまったものの、表面に生じたスズとの反応組織の厚さは約1μmと非常に薄く、低放射フェライト鋼に比べて100分の1以下だったとした。また、クロムの酸化物の焼結材でも、表面のスズとの反応組織が非常に薄いことが確認された。

  • 液体金属スズに浸漬した酸化物焼結体の表層腐食組織断面の走査型電子顕微鏡像。(a)500℃の液体スズに鉄の酸化物(Fe2O3)の焼結体を262時間浸漬した場合。(b)500℃の液体スズにクロムの酸化物(Cr2O3)の焼結体を262時間浸漬した場合。

    液体金属スズに浸漬した酸化物焼結体の表層腐食組織断面の走査型電子顕微鏡像。(a)500℃の液体スズに鉄の酸化物(Fe2O3)の焼結体を262時間浸漬した場合。(b)500℃の液体スズにクロムの酸化物(Cr2O3)の焼結体を262時間浸漬した場合。(出所:東工大プレスリリースPDF)

このように、反応しやすい鉄のような金属でもあらかじめ酸化物としておけば、腐食反応を大きく抑制できることが初めて明らかとなり、液体金属スズと構造材との共存の見通しが立ったとする。共存が可能であれば、核融合炉に限らず、太陽熱発電所や海水淡水化プラントなどでの液体金属スズ利用の促進が期待されるという。

また、核融合炉での液体金属スズダイバータの利用は、同液体金属による腐食と、核融合により生じる中性子(放射線)の照射が重畳する、学術的に新しい物理化学状態になるとする。液体金属スズによる鋼の腐食反応ダイナミクスに対して放射線が与える影響については、日米科学技術協力事業「FRONTIER計画」のTASK3で実施中の、原子炉環境を利用した共存性研究において調査が進められているとした。