ソフトバンクグループは11月11日、2023年3月期 第2四半期の決算説明会を開催しました。冒頭に挨拶した孫正義会長は、今後は決算発表会のプレゼンテーションを専務執行役員CFOの後藤芳光氏に任せる方針を明らかにしています。

  • 孫正義氏

    ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏

プレゼン登壇は今日が最後という孫正義会長、その理由とは?

「決算発表会でプレゼンを行うのは(当面は)今日が最後。この場に立ち、会社の四半期ごとの決算を説明する、あるいは戦略の近況を報告するのは、今日の挨拶をもって当分の間は最後にしたいと思っております」と語り出した孫会長。周囲から、病気でもしたのか、引退するのか、といった声が寄せられたことを明かしつつ「決してそんなことはありません。健康そのものですし、気力、ますます充実ということです。やりがいも気合も充分」と笑顔を見せます。

そして起業家としての原点を振り返りました。話は、アメリカで学生時代を過ごした19歳の秋にまで遡ります。たまたま手に取ったサイエンスマガジンで目にしたのは、未来都市のような幾何学模様のような、マイクロコンピュータのチップの写真だったそう。それを見て「まさかコンピュータが1cm四方にも満たない、人差し指の先に乗るようなものになるとは」「人類は自らの知的活動を超えてしまうものを作り出したのでは」と感動し、涙が出て止まらなくなったという孫会長。

あれから46年が経ち、情報革命は成熟するどころか、ますます進化して広がり続けている、そしてここ10数年間でコンピューティングの中心はPCからスマホに移り、CPUの中心はIntelからArmに移った、と続けます。ArmのCPUは低消費電力ゆえに、今後も主役の座を揺るぎないものにしていく――と説明。

ところでArmをめぐっては、かつてNVIDIAに売却する案もありました。新型コロナウイルスが蔓延し、世界に混乱が広がっていた2020年5月に開催した決算説明会では「ユニコーン企業が、次々とコロナの谷に落馬している」と危機感を露わにしましたが、同時期にArmも手放すことを決意。

その後、Armの株式の1/3を売って現金化し、残りの2/3でNVIDIAの株を買うことで2社合併後の企業の筆頭株主になる計画を進めますが、今度は独占禁止法などの観点からアメリカ、イギリス、EUの各国政府の猛反対にあい、計画は頓挫。Armはソフトバンクグループの手元に残りました。

「あれからしばらく時間が経ちました。パンデミックは過ぎましたが、その後でウクライナロシアの問題があり、また世界中ではインフラが収まらない状況。世界中の株式市場が一気にやられてしまいました。我々、SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)も情報革命の資本家になるんだ、ということで勢い込んでどんどん投資してきましたが、今の情勢は上場株であれ未上場株であれ、投資していた会社はほとんど全滅に近い成績です」。

  • 今回を最後とする孫正義氏

    孫氏がプレゼンテーションを担当するのは今回が最後とのこと

こうした状況を受けて、「ソフトバンクとして今とるべき道についてもずいぶん悩みました」と孫会長。このままSVFに投資を続けるべきなのか、それとも負債の比率を下げ、手元のキャッシュを厚くしてより安全運転するべきか。「出した結論ですが、ここしばらくインフレは収まらない。ここしばらく上場株ですら大変、まして未上場株はもっと大変。そこで新たな投資についてはより慎重にし、投資をマネジメントする社員の規模も縮小する。聖域なきコスト削減をしていくということに決めました」。

そして以下のように続けます。「そこで事業家として経営者として力を持て余す私は、幸いなことに手元に戻ってきたArmの成長に集中していきたい。私の神経を注いでみたい。特に最近、Armの技術革新、成長機会は爆発的なものがあるということを再発見しました。少なくともこれから数年間、私はArmの爆発的な成長のために没頭したい。グループの経営については守りに徹する。私はもともと攻めの男ですから、守りに徹するために後藤くんを中心にして、ほかの経営幹部にもどんどんと権限を移譲して、オペレーションを継続してもらいます」。

  • 直近のArmのマーケットシェア

    直近のArmのマーケットシェア

いまでは毎日、朝から晩までArm事業に没頭しているという孫会長。「これが私の興奮であり幸せです。ソフトバンクの今後の成長にも貢献できることであり、ひいてはソフトバンクの株主にとっても、そして情報革命のためにも、未来の人々のためにも役に立てる。そんなことを、心の底から思うようになりました」と説明。プレゼンの最後にありがとうございました、と頭を下げ、後藤氏の肩に手を軽く触れると壇上を後にしました。

グループの財務はいまが最も安全

続いて壇上に立った後藤氏は「彼(孫会長)が攻めの姿勢で仕事を続けていくことが、結果的にソフトバンクグループのステークホルダーの皆さんに最大の貢献になる、そういうことだと考えています。我々も頑張っていきますので、引き続きご支援をよろしくお願いいたします」と挨拶し、2023年3月期 第2四半期の決算について説明しました。

  • 後藤芳光氏

    専務執行役員CFOの後藤芳光氏

「私も23年目になりますが、いまのソフトバンクグループの財務状態は最も安全で安定している最高レベルの状態にあると自信をもって申し上げられます」と後藤氏。NAV(時価純資産)は16.7兆円となり、LTV(純負債÷保有株式価値)は15%という水準。手元流動性は、社債の償還として4年分の資金に相当する「圧倒的な預金量」(後藤氏)の4.3兆円に達しています。

  • NAV/LTV/手元流動性

    守りの成果として示した、NAV、LTV、手元流動性の状況(2022年9月末時点)

  • 手元流動性の詳細

    手元流動性の詳細。今後4年間で4.1兆円の社債を償還予定

後藤氏は、米中摩擦/ロシア・ウクライナ情勢など、ここ数年で地政学リスクが顕在化していることにも触れつつ「ではソフトバンクグループでは、いつまで守りに徹するのか。いつか必ず潮目が変わるときが来ます。そのときを予測しつつ、でも慌てずに、潮目が変わったのを確認してから攻めに転換します」「明けない夜はないということで、私たちのみならず、世界の投資会社が新規投資のタイミングを見計らっています。そのときを楽しみにして、いまはしっかり守っていきます」と繰り返しました。

上期の連結業績は、売上高が3兆1,825億円(前年同期比+1,990億円)、投資損益が8,496億円の損失(同-4,544億円)、純利益が1,291億円の損失(同-4,927億円)でした。

  • 連結業績の状況

    連結業績の状況

  • 税引前利益(セグメント別)

    税引前利益(セグメント別)

純利益(四半期ベース)では7~9月は3兆336億円の黒字。中国のIT大手であるアリババグループの株式を一部売却するなどして利益を計上したことで3四半期ぶりに黒字に転換しています。

  • 純利益(四半期ベース)

    純利益(四半期ベース)

  • 保有株式価値の推移

    保有株式価値。アリババ株が減ってきた理由については、資金化していることに加え、株価が下がってきたこともある、と後藤氏

SVFの投資損益については「この四半期、環境は依然として厳しいです。99億5,900万ドルのマイナスです。ただ、少しずつ改善してきております。長期の運用ファンドですので、一時的な損益のブレに惑わされず、しっかり足元を固めてビジョンを追及していきます」(後藤氏)。

  • SVFの投資損益

    SVFの投資損益

  • 投資損益(累計)

    投資損益(累計)

新規投資の金額については、今四半期はわずか3億ドルの投資しか行いませんでした。後藤氏は「守りを徹底し、ほとんど投資していない状況です。昨年度は上半期だけで約300億ドル、約4兆円強の投資をしていました。我々の戦略は明確に、この数字にも現れています」と説明しました。

  • 投資額の推移(SVF1+SVF2)

    投資額の推移(SVF1+SVF2)