NTTソノリティは、NTTが開発した音響技術を用いたデバイスやサービスを提供する、NTTグループ初のコンシューマー音響ブランド「nwm」(ヌーム)の立ち上げを発表した。第1弾商品として、「耳元だけに音を閉じ込める」技術を投入したイヤホン2機種を順次発売する。

  • 11月9日に行われた記者発表会には、NTT 代表取締役副社長の川添雄彦氏(左)とNTTソノリティ 代表取締役の坂井博氏が出席。新ブランド立ち上げの意図と展望、コア技術となる“PSZ技術”の説明やデモンストレーションを行った

11月9日、東京・渋谷で開催中のイベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2022」において、同社は記者発表会と新製品の体験会を実施。その模様をお伝えする。

  • PSZ技術を搭載した有線イヤホン「nwm MWE001」。Amazonで販売しており、価格は8,250円

  • PSZ技術を搭載したワイヤレスイヤホンル「nwm MBE001」(オープンプライス)。今冬クラウドファンディングで先行販売予定

耳元に音を閉じ込める「PSZ技術」とは何か

NTTソノリティは、NTTコンピュータ&データサイエンス研究所が開発した最先端の音響信号処理技術、「パーソナライズドサウンドゾーン」(以下PSZ)技術を核にした音響関連事業を行うNTTグループの1社として、2021年9月1日に設立。

ブランド名の「nwm」は、“the New Wave Maker”の略で、「音で叶える、あなたと叶える。」というブランドタグラインの元、ユーザーやパートナー企業の声を反映しながら、新たな音響体験や働き方・暮らし方を共創することを目指す。

  • 音響業界に新たに参入した「NTTソノリティ」のロゴ

PSZ技術は耳元だけに音を閉じ込め、小さなカプセルのような音の空間を作り出すことで、耳をふさがなくても周囲への音漏れを最小限に抑えられる、究極のプライベート音響空間(=パーソナライズドサウンドゾーン)の構築を目指した技術だ。

通常の音響デバイスのスピーカーは音をより遠くに届けるために、スピーカーユニットを収納するエンクロージャーの中に逆相の音波も閉じ込めて、正相との干渉を防いでいる。いっぽうPSZ技術では、ある音波(正相)に対し、逆相である180度反対の音波を当てることで音波どうしが打ち消し合い、音が聞こえなくなる原理に着目。アクティブノイズキャンセリング技術でも応用されているもので、「本来閉じ込められていた逆相の音波を活用する」という逆転の発想で、“耳元に音を閉じ込める”ことを実現した。

  • PSZ技術のイメージ。音を耳元から数cmの空間に閉じ込める技術で、耳穴をふさがないオープンイヤー型のイヤホンでありながら周囲への音漏れを防ぐとともに、周囲の音を聞けるようにした

ハードウェア上でこの技術を実用化するために、設計上はスピーカーエンクロージャーの側面に複数の穴を装備しているのが特徴。スピーカーの前面から放射した正相の音波が耳に届いた際に発生する、耳で反射した音漏れに繋がる音波を、側面の穴から逆相の音波を放射して抑圧することで、耳元から離れた場所での音漏れを抑えている。

  • 通常のスピーカーとPSZ技術の音の出し方の違い。通常のスピーカーではエンクロージャーに閉じ込められていた逆相の音波を、PSZ技術では外側に放出することで打ち消し、耳元から離れた場所での音漏れを抑える

  • 従来のイヤホンと、PSZ技術を搭載したイヤホンの音漏れの差異をあらわしたイメージ

耳をふさがず音漏れ抑えた有線イヤホンをチェック。無線モデルも

PSZ技術を搭載したパーソナルイヤースピーカーは、数cm程度の耳元だけに音を閉じ込めることができ、オープンイヤー型にもかかわらず、音が周囲に漏れにくい点が特長。既存の音響デバイスのような没入感の追求から脱却し、周囲の音も聞き取ることができ、耳をふさがず、装着によるストレスから解放されるのが利点として挙げられる。

nwmブランド初の製品として今回発表されたのは、有線モデルの「nwm MWE001」とワイヤレスモデルの「nwm MBE001」の2機種。有線モデルは、11月9日にまずAmazonで販売を開始し、価格は8,250円。ワイヤレスモデルは今冬「GREEN FUNDING」、「Indiegogo」の日米クラウドファンディングサイトで予約販売を行い、来春一般発売を予定しているとのこと。

  • 有線モデルの「MWE001」。主な仕様は、ドライバーユニット径12mm、出力音圧レベル84dB、再生周波数帯域100Hz~20kHz、最大入力40mW、インピーダンス32Ω。ケーブルの長さは1.2m、重さはケーブルを含まず9g

  • 無指向性EMCマイクを搭載し、音声通話に対応。ケーブルには3.5mm 4極ステレオミニプラグを備える

  • 耳の裏側から引っかけるように装着する。耳をふさがないため、周囲の音がしっかりと聞こえて圧迫感のなさは快適。音漏れは音量によっては方向や半径50cm以内ではわずかに感じることもあり、騒がしい場所であれば気にならないが、静かな場所では音量調整が必要かもしれない

  • ワイヤレスモデルの「MBE001」。主な仕様は、ドライバーユニット径12mm、バッテリー駆動時間最大6時間、充電時間約2.5時間、重さは片側9.5g。無指向性EMCマイクを備え、音声通話もできる

  • 写真では見えにくいが、耳の後ろに来るパーツ下端にボタンを左右各1基装備。音楽再生や音量調整、着信応答などの各種操作が行えるとのこと

  • ワイヤレスモデルに付属するキャリングケース

  • USBケーブルを接続でき、ケースと充電器の役割を兼ねている。ちなみにバッテリーは搭載していない

  • イヤホン本体にバッテリーを搭載していながら、有線タイプと変わらない重量感で、ケーブルを気にせず着けられて快適。ただし、イヤーカフ型に比べると違和感はないものの、動きながらの使用は外れやすそうでもあり、少々不安を感じた

「開放型ワイヤレスイヤホンの潜在市場で、シェア10%目指す」

記者発表会に登壇した、NTTソノリティ 代表取締役の坂井博氏は、売上目標として、2025年にグローバルで400億円を目指すことを表明。「現在のワイヤレスイヤホン市場は4兆円で成長率5.8%。その中でもオープンイヤー型の潜在市場は4,000億円とされており、そのうちのシェア10%を目指したい」と説明した。

グローバル市場では、2022年4月に業務提携した伊藤忠商事とともに順次展開していく予定。今後は、PSZ技術搭載チェアなど音響製品にしばられない新しいプロダクトの開発をはじめ、美術館や歌舞伎、国際会議、公共交通機関などさまざまな場所での活用や、音のARサービスなどエンターテイメントコンテンツへの進出も計画している。

  • 今後は、“音のインフラ企業”として、PSZ技術を核にした、音響製品にしばられない新しいプロダクトの開発や、公共機関等での利活用、音のARサービスなどエンターテイメント分野での利活用なども展開していく。ファッションブランドの「ANREALAGE」がパリで発表した2023年春夏コレクションでは、来場者にヘッドホンを配布し、ショーサウンドの演出をサポートする試みも行われている

  • PSZ技術を搭載したチェアの体験用デモ機。耳元を覆うように3面のスピーカーユニットで構成されている。外からは音が聞こえないが、座って頭を後ろに付けると音が聞こえる

  • マイクを用いた実験。マイクをスピーカーユニットから離すと音が検知されないが、至近距離まで近づけると音をしっかりと検知していることが示された