子ども時代にピアノを習っていた筆者、自宅にはカシオの電子ピアノ「Privia PX-S1000」を置いています。薄型でタッチが本格的、これなら!と2年前に買ったのですが、2022年9月発売の新モデルを見て「待てばよかった……」とちょっとだけ後悔(2年前なのであきらめもつきます……)。
新モデルの「Privia PX-S7000」(以下、PX-S7000)は音もタッチもデザインも一層進化していました。今回、カシオにおじゃましてPX-S7000を詳しく聞いてきました。対応いただいたのは、カシオ計算機の福原大穀さんです。
電子ピアノでは珍しいマスタードカラー
PX-S7000は9月29日に発売されており、カラーはハーモニアスマスタード、ブラック、ホワイトの3色。実勢価格はブラックとホワイトが253,000円、ハーモニアスマスタードが275,000円です。ハーモニアスマスタードは、グランドピアノのようなポリッシュ仕上げでひと手間かけているため、価格がアップします。
それにしてもマスタードカラーは珍しいですよね。ビビッドな色合いではなく落ち着いたカラーなので空間に溶け込みます。
「EU圏で調査したところ、黄色系のカラーはインテリアに溶け込む色としてトレンドになっています。調和する色という意味で『ハーモニアス』と名付けたんですよ」(福原さん)
電子ピアノは部屋の壁際に置くことがほとんどだと思いますが、PX-S7000はインテリアとして部屋の真ん中に置いて欲しいという思いがあるそう。その思いが表れている点のひとつが譜面台です。
一般的に、電子ピアノの譜面台は黒の板や黒のパイプを組み合わせたものが主流。しっかり譜面を支えて頼りになりますが、インテリアとして考えるとけっこう目立ちます。対してPX-S7000のクリアな譜面台は、すっきりした印象。部屋の真ん中に置いても視線が抜けて、圧迫感がありません。
そして使わないときは付属の鍵盤カバーをかけますが、これも新たにデザイン。厚地のフェルトにレザー調のタグがアクセントになっていて、かわいい仕上がりです。
PX-S7000の本体は4つのスピーカーを備えていますが(独立駆動のフルレンジスピーカー)、後ろから見ることも考えています。スピーカー部をファブリック調とすることで、部屋の中になじむ感覚です。
「スピーカーはそれぞれ音の要素を調整して、4つのスピーカーから別々に音を出し、空間で合成しています。ピアノの前で聞いても、少し離れた位置で聞いてもそれぞれの場所でベストな音を楽しめます」(福原さん)
例えばグランドピアノで弾いた音は、空間全体に広がります。そのため、ピアノの前で聞いても、同じ部屋でピアノと少し離れた位置で聞いても、音の響きが溶け合って聞こえるそうです。グランドピアノ自体から出ている音も、壁などに当たって(短い時間的に)遅れてくる音も、合わさって聞こえています。
対して、電子ピアノは音を合成して響きを再現します。スピーカーが2つの場合、基本的にはピアノの前で聞いたときを想定して音を作っていくため、ピアノから離れた位置で聞くと、厳密には理想的な音の響きとずれてしまいます。
今回のPX-S7000は4つのスピーカーを使って、楽器から出ている音、反響して来る音などを調整して空間で合成。ピアノの前に座って弾くときも、少し離れた場所で演奏を聞くときも、ベストな音を楽しめるわけです。これなら、スタジオなどでほかの楽器とセッションしたり、ボーカルが入ったりするときも、自然な音の響きを感じられそうですね。
「さらに、これを応用したのが『ピアノポジション機能』です。PX-S7000を部屋の中心に置いたとき、壁際に置いたとき、テーブルの上に置いたときなど、それぞれの場所で音の響きは変わります。ピアノポジション機能なら、置いた場所に合わせた音響設定を選べます」(福原さん)
ペダルはハーフペダル対応、鍵盤にもこだわり
ペダルは3つ。グランドピアノなどと同じペダルの長さ、大きさなので安定感があります。ハーフペダルにも対応。残響音を残しつつ、1つ1つの音がしっかり聞こえるハーフペダルは、ショパンの『幻想即興曲』やドビュッシーの『喜びの島』といった曲を弾くときに使う人も多いのではないでしょうか。
豊かな表現のため鍵盤と音作りにもこだわっています。
「PX-S7000には新たな鍵盤を採用しました。白鍵は木材と樹脂を組み合わせたハイブリッド構造なのですが、この木材はグランドピアノにも使われるスプルース材。鍵盤の仕上げと質感にも力を入れています」(福原さん)
グランドピアノの鍵盤は指に吸い付くような質感がありますが、PX-S7000もしっとりとした鍵盤で滑らず、気持ち良く弾けます。鍵盤の上を指で滑らせるように弾く奏法「グリッサンド」を試してみても、プラスチック鍵盤のようにカチカチと鳴りません。
「カウンターウェイトという方法を採用しています。簡単にいうと、鍵盤に重りを入れているんです。鍵盤を弾いたときのハンマーの動きと鍵盤のバランスを取り、弱く弾いたときにも安定して音を鳴らせます。軽く弾いたときは鍵盤は軽く、強く弾いたときはアタック感が出て鍵盤が重く感じるように、デジタル処理しているんですよ。弾いたとき鍵盤の重さと軽さの幅が大きいほど、表現力の幅も広がります」(福原さん)
鍵盤の手応えだけでなく、音作りもタッチに合わせて調整しています。
「弱く弾いたときは丸い音、強く弾いたときは硬質な音で表現できると思いますが、一般的にエントリークラスの電子ピアノは、丸い音から硬質な音まで3~4段階ほど。少しのタッチで音の印象がガラリと変わってしまうので、アコースティックピアノを使っている人ほど違和感を覚えると思います。PX-S7000では、この音の表現を無段階にしているため、グランドピアノと同じような音の変化を楽しめます」(福原さん)
また、同じ鍵盤を弾いていても、ダンパーペダルを踏んでいるか踏んでいないか、ほかの鍵盤との倍音なども調整しているそうです。
「グランドピアノなどは、弾いてない鍵盤でもピアノ線が共鳴して、音の響きが複雑になります。電子ピアノでそういった音の表現を再現していない音源だと、不協和音を弾くとうねった響きになったり、混ざり合わないバラバラの音が出ているだけになったりして、気持ち悪く感じるんですよ。アコースティックピアノのような溶け合う響きを再現できるよう細部までチューニングしました」(福原さん)
ピアノ再開組には特にオススメ
「電子ピアノは電子機器なので、音作りなどの進歩が著しいものです。5年前の電子ピアノと比較してもはるかに進んでいます。強く弾いたときと軽く弾いたとき指に感じる重さ、手応え、音色の変化、弾き方による音の切れ方、そういうものを表現できるよう鍵盤も音源も調整しています」と福原さんがいうように、タッチや音作りがアコースティックピアノに近づいていると思います。
PX-S7000はデザインも音作りも鍵盤のタッチもとてもバランスがよく、昔はアコースティックピアノを弾いていたという再開組でも満足できるのではないしょうか。本体の奥行きが短く、脚部分がイスのように4本なので、ほかの家具とも調和するのもいいところ。クラシックピアノ以外にも、バンドでセッションしたくなるようなエレピ(エレクトリックピアノ)の音も楽しめるので、幅広い曲を弾いて楽しめます。
全体的に褒めすぎてしまっているような気がしますが、見た目、本格的な音、タッチ、スペースなどを考慮すると、画期的な楽器といってもよいのではないでしょうか。「欲しい!」と本気で思った製品でした。
あえていえば、木目の色が選べるとよかったです。スタンド部分の木目をカスタムできたら、部屋や家具との一体感をより演出できそう。とはいえ、見た目や省スペース性、音、弾き心地など、個人的に本気で欲しい!と思った製品です。