浮遊電子は、捕獲ポテンシャル中でマイクロ波領域の周波数で振動するため、マイクロ波領域の極微のアンテナのように見なすことが可能だという。

今回の研究では、同じくマイクロ波領域で動作する超伝導量子回路が、電子という極微のアンテナとエネルギーを効率的にやり取りできることを用いて、電子のアンテナの状態、すなわち運動状態の量子レベルでの観測と制御が可能であることを見出すことに成功したという。

また、原子イオンと電子はクーロン力により互いに引き合っていることから、これは電子の運動が原子イオンの運動にも影響を強く及ぼすことを意味しているとする。

通常、原子イオンの振動周波数は電子のものと大きく異なるため、エネルギーのやり取りを効率的に行うことはできないが、クーロン力に起因する電子・イオン間の非線形な相互作用により、効率的なエネルギーのやり取りが可能になるとのことで、これにより原子イオンを用いた場合にも、電子の運動状態を量子レベルにおいて冷却・制御が可能であることが示されたことになったとする。

なお、今回の研究成果によって、新たな量子ビットの候補である浮遊電子は、先行研究で示されたような高精度な量子操作の可能性のみならず、残る課題だった運動状態の量子レベルでの冷却と制御および観測の手法についても解決の道筋が示されたことになることから、研究チームでは、今後の浮遊電子系の量子技術応用、特にエラーに耐性のある量子コンピュータの実現に向けた研究開発が進むことが期待されるとしている。

また、今後については、今回の提案手法による単一電子における運動状態の量子制御も含め、ハイブリッド量子系の実証実験など、さらなる浮遊電子系の実験開発に取り組む予定としている。