角度が定まらないと、さまざまな量、特に非平衡現象に付随して発生するエントロピーなどを独立な(直交な)要素に分解して調べることが不可能となるため、ヘッセ幾何における一般化されたピタゴラスの定理などを用いることで、角度が定義できなくても化学反応システムの非平衡な動作に伴って発生するエントロピーを腑分けして特徴付ける新たな方法を提案することにしたという。
非平衡な化学反応システムの理論が未完成であるのに対し、平衡な化学反応の熱力学は、約1世紀前に確固たる理論が成立している。新しい非平衡な理論は、この平衡熱力学と整合的であることが必須となるが、今回の研究により、ルジャンドル変換とそれに付随するヘッセ幾何学構造が、平衡の理論においても本質的な役割を果たすことが明らかにされた。
非平衡におけるヘッセ幾何構造は構成方程式と結びついているのに対し、平衡では分子の濃度と化学ポテンシャルとの間の熱力学的関係にヘッセ幾何構造が現れるとする。そしてそれら2つのヘッセ幾何学構造が整合的に結ばれることにより、平衡・非平衡における統一的な理論が構築されることが示されたとする。
既存の物理理論は、ニュートン方程式のような微分方程式による法則の表現から始まり、解析力学や相対性理論のように現象の幾何学的構造を抽出することで歴史的に発展・深化してきたという。化学反応システムの理論は、反応速度論による微分方程式にいまだ留まっている点で、ニュートン方程式に類する段階にあるというが、今回の研究成果により、化学反応システムの幾何学構造が明らかになり、化学反応理論の飛躍的な発展が期待されると研究チームでは説明する。
なお、研究チームでは、その発展をもとにすることで、生体システムは本当に工学システムに比べて効率的なのか、効率的であればそれを決定する本質的な要因や原理は何なのかという問いを扱うことが可能になるとしており、そうした結果として、生体システムの理解や人工的な生体反応システムの設計や応用のみならず、新しい工学システムの開発にも寄与することが期待されるとしている。