ピクセラから、4G/LTE回線に対応したSIMフリーホームルーター「PIX-RT100」が登場した。モバイルルーターと異なりバッテリーを内蔵せず、基本的に屋内での利用を想定したルーターだ。すでに発売中で、実売価格は15,800円前後。
IEEE802.11ac(Wi-Fi 5)準拠の無線LANと、1000BASE-T有線LANポートを装備
現在市販されている4G/LTE回線対応のSIMフリールーターは、バッテリー内蔵で携帯性に優れる小型軽量ボディの、いわゆるモバイルルーターと呼ばれる製品が多数を占めている。それに対しPIX-RT100は、バッテリーは搭載せず、4G/LTE回線を自宅などでのインターネット回線として利用する製品だ。
これまでも同様の製品はいくつか登場しており、大手通信キャリアでは自社通信サービスとセットで販売している例もある。しかし、SIMフリー仕様の単体ルーターとしての登場は、近年では久々と言っていいだろう。
本体サイズは約幅50×奥行き175×高さ165mmと、一般的な無線LANルーターと似たようなサイズ感だ。重さは約320gと、見た目以上に軽い。
PIX-RT100の主な仕様は以下にまとめたとおり。通信機能は4G/LTE対応で、対応バンドはB1、B3、B8、B18、B19。LTEカテゴリ4対応となり、データ通信速度は下り最大150Mbps、上り最大50Mbpsだ。キャリアアグリゲーションはサポートしていない。SIMロックフリー仕様ということで、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイルの4キャリアはもちろん、MVNOのSIMなど通信事業者を問わず利用可能だ。
- PIX-RT100の主な仕様
- モバイル通信:4G/TLE対応
- 対応バンド:B1、B3、B8、B18、B19(2.1GHz、1.8GHz、900MHz、800MHz)
- モバイル回線通信速度:LTE Cat4対応、下り最大150Mbps、上り最大50Mbps
- 対応キャリア:NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイル、およびそれら回線を使用するMVNO
- 対応SIMカード:標準SIM、SIMロックフリー
- 無線LAN:IEEE802.11a/b/g/n/ac準拠
- 無線LAN通信速度:2.5GHz帯域で最大300Mbps、5GHz帯域で最大867Mbps
- 有線LANポート:1000BASE-T対応、4ポート
- 最大同時接続数:16台
- 本体サイズ・重さ:約W50×D175×H165mm・約320g
モバイル通信の設定は簡単だが、標準SIMのみの対応は残念
モバイル通信部分の仕様は、先述のようにSIMロックフリー仕様であるため、通信キャリアを問わずSIMを装着して使える。対応バンドはB1、B3、B8、B18、B19と少ないものの、国内4キャリアすべてカバーしており、利用するうえで大きな問題はない。
しかも、接続バンドを指定できることがポイントのひとつ。例えば、楽天モバイルはB3、B18、B26の3バンド対応だが、B18とB26はau回線を利用するいわゆるパートナー回線であり、高速データ通信は月間5GBまでだ。対してB3の楽天回線は、高速データ通信容量に制限がない。PIX-RT100なら、楽天モバイルのSIMを利用する場合に接続バンドをB3に固定しておけば、パートナー回線(au)につながることがなくなるため、制限なく高速データ通信が行えるわけだ。これは特に、楽天モバイルのSIMを利用する場合に有効な機能と言える。
設定も簡単だ。まずはPIX-RT100の側面にあるSIMカードスロットにSIMを装着し、続いてPIX-RT100にネットワーク接続したPCやスマホから設定メニュー内の「モデム設定」にアクセス。
モデム設定には、国内主要キャリアやMVNOの接続設定が多数プリセットされている。使いたいSIMのプリセット設定がない場合には、手動でAPNなどを登録する必要があるが、多くの場合はプリセットの中から利用するSIMに適合する設定を選ぶだけよい。これで接続設定が完了して、インターネットアクセスが可能となる。簡単に利用できるという意味でも、非常にありがたい仕様だ。
ただし気になる点もある。それは対応SIMが標準SIMである点だ。現在、スマホなどほとんどの通信機器がnano SIM対応となっていることを考えると、やや使いづらい。
一般的に、キャリアから貸与されるSIMは、標準SIM、micro SIM、nano SIMといういずれの形状にも対応可能な「マルチSIM」だ。PIX-RT100の導入に合わせて、新規契約してSIMを入手する場合には大きな問題ないだろう。
しかし、すでにnano SIMサイズなどでカットした手持ちのSIMを利用したい場合には、標準SIMに変換するアダプタが必要だ。変換アダプタはSIMスロットを痛める可能性がなくもないので、積極的にはおすすめしにくい。利便性を考えると、PIX-RT100もnano SIMに対応してもらいたかったように思う。
ルーターとしての機能はエントリークラス
無線LANはIEEE802.11ac(Wi-Fi 5)準拠。2×2通信に対応しており、通信速度は2.4GHz帯域が最大300Mbps、5GHz帯域が最大867Mbpsだ。最新のIEEE802.11ax(Wi-Fi6)準拠ではないものの、インターネット側が4G/LTE回線で通信速度が下り最大150Mbpsとなっていることを考えれば、十分とも言える。
有線LANは背面に4ポート用意している。いずれもギガビットイーサネット(1000BASE-T)対応で、速度は申し分ない。有線LANで接続したPCと、NASなどのネットワークストレージとの間でも高速なアクセスを確保できるだろう。
そのほかルーター機能としては、指定した機器以外のアクセスを制限するMACアドレスフィルタリングやIPアドレスフィルタリング、ファイアウォールといったセキュリティ機能、接続機器への固定IPアドレス割り当て機能(最大16台)、ポートフォワード、VPNパススルーなどを用意。機能としては特別充実しているわけではないが、通常必要となる機能はほぼ備わっており、エントリークラスの無線LANルーターと同等レベルと考えていいだろう。
ただ、無線LANの暗号化はWPA2対応にとどまっており、WPA3には非対応だ。個人利用では大きな問題はないものの、できればWPA3もサポートしてもらいたかった。また、同時接続数が16台というのはやや少なく、小型のモバイルルーターと同じくらいだ。最近はWi-Fiでインターネット接続するスマート家電なども増えているため、据え置き型のルーター、かつ有線LANポートも用意していることを考えると、接続台数は最大32台は確保してもらいたかった。
なお、標準では無線LANの5GHz帯域が無効化されており、設定メニューで有効にしないと利用できない。屋外での利用を想定した措置だろう。5GHz帯域を使うにはひと手間かかるため、少々面倒に感じるかもしれない。PIX-RT100は屋内利用を想定していることを考えると、ユーザーの利便性も考慮し、標準で5GHz帯域を有効にして出荷してもらいたいと感じた。
モバイルの通信速度は利用環境に大きく左右されそう
今回は複数キャリアのSIMを用意して、実際にどの程度の速度でつながるかチェックしてみた。以下のSIMをPIX-RT100に装着し、5GHz帯の無線LAN(IEEE802.11ac)で接続したノートPCからインターネットアクセス速度を検証した。
- NTTドコモ「5Gギガホプレミア」
- 楽天モバイル「Rakuten UN-LIMIT VII」
- ソフトバンク「LINEMO」
楽天モバイルでは下り約34Mbps・上り約41Mbpsと、まずまずのスピード。手持ちのスマホでもほぼ同等の速度を確認しているので、PIX-RT100でも十分なスピードに引き出せていると言っていいだろう。
対してNTTドコモでは下り約18Mbps・上り約21Mbps、ソフトバンクのLINEMOでは下り約20Mbps・上り約14Mbpsと、思ったほどの速度が出なかった。同じSIMをスマホに装着し、4G/LTE接続した場合、NTTドコモでは同じ場所で下りが100Mbps超の速度を確認しているので、ちょっと遅すぎるという印象もある。
スマホではキャリアアグリゲーションを利用した高速化が可能なのに対し、PIX-RT100はキャリアアグリゲーション非対応なので、その点が速度に影響している可能性は高い。ただ、ピクセラ本社のテスト環境や開発担当者の自宅での検証では、auのSIMを利用した場合に下り約50Mbps・上り約20Mbpsの速度が確認されているという。NTTドコモやLINEMOで思うような速度が出なかったのは、筆者自宅の電波状況を含めた環境とも言える。
今回の検証やピクセラのテスト結果などから、PIX-RT100のモバイル通信の実効速度は下りが50Mbps程度、上りが20~40Mbps程度がほぼ上限になると考えて良さそうだ。これくらいのスピードが出れば、ストリーミング動画の視聴やWeb会議などで速度不足となることはない。日常で快適に利用でき、家族など複数の人が同時接続する場合でも大丈夫だろう。ちなみに、Netflixが公開している推奨スループットは4K/UHD 4K(UHD)動画で15Mbps、Web会議のZoomは小規模ライブ配信で下り・上りとも約10Mbps(大規模配信は下り・上りとも約30Mbps)、Microsoft Teamsは最高パフォーマンスで4Mbpsとなっている。
ただ筆者宅のように、利用するキャリアによっては導入してみたら速度が出なかった――となると残念だ。利用場所でどのキャリアが十分な速度を発揮するのか、事前に確認したうえでPIX-RT100を導入したいところだが、スマホでの速度があまり参考にならいことを考えると、それも難しい。
そういった中、楽天モバイルでバンドB3に接続できる場合には、筆者宅だけでなくピクセラの検証でも下り50Mbps、上り10Mbps程度と比較的安定したスピードを引き出せている。もちろんその場合でも、楽天モバイルの電波状況がいい場所という環境条件はあるが、PIX-RT100と楽天モバイルの組み合わせは比較的相性が良さそうだ。
モバイル通信を有線LAN機器でも使いたいなら選択肢としてアリ
PIX-RT100は、無線LANルーターとしての機能はエントリークラスで必要十分、モバイル通信もSIMロックフリーでキャリアを問わず利用できるとはいっても、速度はそこそこといったレベル。価格を考えると相応とも言えるが、できることならもう少し機能が充実し、スピードも速ければ良かったと思う。
ただ、モバイルルーターとは異なり、ギガビットイーサネット対応の有線LANポートが4ポート用意されているところがポイントだ。有線接続のネットワーク対応機器を簡単に利用できるという点が、大きな魅力となるのは間違いない。
モバイルルーターやスマホでもやろうと思えば有線LANのネットワーク機器を接続することは可能だが、有線LANを無線化するアダプタなどが必要となって面倒だ。PIX-RT100なら、有線LANのみの機器をアダプタ不要でつなげられる。すでに自宅や事務所などで有線LANのネットワーク設備が整っている環境であれば、そこにPIX-RT100を追加することで、ネットワークに接続しているすべて機器が4G/LTE経由でインターネットアクセス可能となる。
また、比較的古い賃貸マンションや建築現場の事務所などは、固定のインターネット回線を敷設できないという場合も少なくない。そういう環境でも、PIX-RT100なら容易にインターネット接続環境を構築できるため、重宝する場面は多そうだ。
PIX-RT100はSIMロックフリーなので、利用するSIMについてはキャリアを選ばない。大手キャリアやMVNOのSIMを選択してもいいし、ピクセラが提供するMVNOサービス「ピクセラモバイル 20GB・30GB・100GB・IoT」を利用するのもいいだろう。ただ今回の検証結果から、通信速度の面やデータ通信を無制限で利用でき、月額料金も安価という理由で楽天モバイルと相性が良く、組み合わせとしておすすめしたい。