ソフトバンクは8月4日、東京都港区の「障害者タブレット・スマートフォン体験事業」を受託し、視覚その他の障がいを抱える港区在住者を対象にスマートフォン/タブレットの貸し出しを開始しました。

最大80人に6カ月間の無償貸与を行うと同時に、それぞれの障がいの特性に合わせた講習会も実施。スマートフォンを使っていけるかどうか、そして生活の中でどんな風に役立つのか、半年の貸与期間を通じてじっくりと試せる取り組みとなっています。今回は、初日に行われた第一回の講習会の模様を取材しました。

  • 東京都港区とソフトバンクによる、視覚障がい者向けのスマートフォン/タブレット講習会を見学

    東京都港区とソフトバンクによる、視覚障がい者向けのスマートフォン/タブレット講習会を見学

デジタルデバイド解消に向けた自治体連携の取り組みを強化

同社は従来、各自治体とも協力しながら主に高齢者向けの「スマホ教室」を開催してきました。今回の港区との取り組みでも、並行して「高齢者スマートフォン普及体験事業」を受託しているほか、手書きで行われてきた町会・自治会の会計処理のデジタル化などに貢献する「港区町会・自治会まるごとデジタル支援事業」も受託しています。デジタルデバイドの解消を目指す上では、より様々な人の立場に寄り添った支援をしていく必要があるというわけです。

今回の講習会も従来のスマホ教室の延長線上にありますが、よりきめ細かな対応が行われています。参加者それぞれで抱えている障がいの度合いも異なりますし、障がいの種類が違えばスマートフォンの操作の教え方だけでなく、実生活でスマートフォンを使ってどんなことが出来たら便利か、どんな機能が必要かも変わってきます。

筆者が見学した講座は視覚障がいのある方向けのクラスで、7名の方と支援者が参加。講師陣は、通常のスマホ教室に携わるソフトバンクの講師に港区内の障がい者支援施設のスタッフを加えた体制でした。

  • 参加者の希望に合わせてスマートフォン(iPhone)またはタブレット(iPad)を6カ月間無償で貸し出す

    参加者の希望に合わせてスマートフォン(iPhone)またはタブレット(iPad)を6カ月間無償で貸し出す

普段のスマホ教室とも異なるきめ細かな工夫

ソフトバンクとしても初めての取り組みということですが、講師陣の話し方は視覚を前提にしないコミュニケーションの取り方のポイントをおさえたものでした。たとえば、「『これ』『それ』などの指示語を使わない」「話しかける時は誰に言っているのか明確にするために、まず必ず名前を呼ぶ」などです。無意識に出てしまう部分もあり意外と難しいことですが、回を重ねてノウハウが蓄積されていけば、より精度も上がっていくでしょう。

ソフト面だけでなく、ハード面でも普段のスマホ教室とは違った工夫が見られました。参加者に貸し出されるiPhoneとiPadには、市販品を加工した凹凸のある保護フィルムが貼られています。これは指先の感覚でアイコンの位置が分かるようにするための処置です。

  • 貸出機のフィルムにはわざと等間隔にキズを付けてあり、ホーム画面に並ぶアイコンの位置を手探りで把握できるようになっている。なお、アイコンがある場所さえわかれば、それぞれが何のアプリかはVoiceOverが教えてくれる

    貸出機のフィルムにはわざと等間隔にキズを付けてあり、ホーム画面に並ぶアイコンの位置を手探りで把握できるようになっている。なお、アイコンがある場所さえわかれば、それぞれが何のアプリかはVoiceOverが教えてくれる

また、参加者は全盲の方から弱視の方までいるということで、必要に応じて使えるように紙の資料も用意されていました。配布資料の右下を見ると、QRコードのようでもっと細かい、何やら見慣れない二次元コードが付いています。

これは「Uni-Voice」というもので、専用のアプリで読み取ることで音声案内を聞けます。視覚障がい者向けの用途でUni-Voiceを使う際にはコードの位置を位置を示す切り欠きを所定の位置に入れるルールがあり、この資料にも仕様に沿った加工が施されています。

  • 参加者に配布されたテキスト。右下の二次元コードと切り欠きに注目

    参加者に配布されたテキスト。右下の二次元コードと切り欠きに注目

役立つアプリの存在を知ると、スマホに挑戦する価値あり

全4回の講義を予定しており、初回はスマートフォンの持ち方やボタンの位置などの確認に始まり、まずはパスコードを打たずに画面ロックを解除できるようにTouch IDの指紋登録を行った後、VoiceOver(読み上げ機能)を設定。操作方法を説明しつつ、各自で気になったアプリを開いてみるという内容でした。

手探りでもある程度操作しやすいフィーチャーフォンを使い慣れていてスマートフォンには初挑戦という方、すでにスマートフォンを持っていてタブレットを使ってみようと参加された方など習熟度は人それぞれ。従来の携帯電話と比べて音声操作やユーザー補助機能も充実しているスマートフォンに触れ、「この機械は賢いね!」と新鮮に驚かれる方も多いようでした。

  • Touch IDを設定中。セキュリティの観点よりも、難易度が高く回数制限もあるパスコードの入力を回避できるという利便性のメリットが大きい。貸出機はiPhone/iPadともにホームボタンがある世代の機種が選ばれていた

    Touch IDを設定中。セキュリティの観点よりも、難易度が高く回数制限もあるパスコードの入力を回避できるという利便性のメリットが大きい。貸出機はiPhone/iPadともにホームボタンがある世代の機種が選ばれていた

貸出機は音声ベースでも読み上げ機能を使って楽しめるニュースアプリや画像認識を活用した視覚支援アプリなどがインストールされた状態で手渡されています。利用者自身によるアプリの追加は不可(Apple ID未設定)とした理由としては、音声情報のみで正規のアプリと危険なアプリを見分ける難しさなどを考え、まずは安全な環境で体験してもらうべきと判断されたとのことです。

2回目以降では電話やSiriなどの基本機能の説明に加え、視覚障がいのある方の生活に役立つアプリの紹介も行われます。たとえば「言う吉くん」というアプリは、紙幣をカメラにかざすと額面を音声で知らせてくれるそう。実は、紙幣を製造している国立印刷局が直々に出している公式アプリです。

このほかにも、目の前にあるものを画像認識して何か教えてくれる「TapTapSee」、飲食チェーン店のメニューを読み上げてくれる「きけるおしながきユーメニュー」など、生活の一助になりそうなアプリを多数体験できます。

漠然としたイメージでは「ボタンのない平らな板で触覚に頼りにくいスマートフォンは、視覚障がいをお持ちの方には不便なのでは?」と想像していましたが、最近のユーザー補助機能の進化で操作のハードルが多少は下がっていること、フィーチャーフォンにはない多様なアプリが実生活に少なからず役立つことを考えると、活用の幅は広いと感じました。

  • 貸出機のホーム画面。純正アプリとともに、音声読み上げや画像認識関係のおすすめアプリが並ぶ

    貸出機のホーム画面。純正アプリとともに、音声読み上げや画像認識関係のおすすめアプリが並ぶ