初打ち上げ成功、商業運用開始へ

かくして開発されたヴェガCの1号機は、日本時間7月13日の22時13分、南米仏領ギアナにあるギアナ宇宙センターから打ち上げられた。

ロケットは順調に飛行し、離昇から約2時間15分後に所定の軌道に到達。搭載していた7機の衛星を次々と分離し、打ち上げは成功した。

管制室から打ち上げを見守った、ESAの宇宙輸送担当責任者のダニエル・ノイエンシュワンダー氏は、「今日私たちは、欧州の宇宙輸送の新時代を開きました。ヴェガCに始まり、このあとアリアン6が続きます」と語った。

今回の1号機の打ち上げはESAとアヴィオが担当したが、成功を受け、2号機からはアリアンスペースとアヴィオが担うことになり、商業運用が始まることになる。2号機の打ち上げは今年11月に予定されている。

また、すでにアリアンスペースは、今回の初打ち上げ前の時点で、7機のヴェガCの打ち上げ契約を受注している。これらの打ち上げを含め、今後は年4回以上のヴェガCの打ち上げを計画しているという。

アリアンスペースCEOのステファン・イズラエル氏は、「ヴェガCの高い能力と汎用性によって、アリアンスペースはすでに多くの重要なお客さまを獲得することができています。ヴェガCは、お客さまのニーズに基づき、次期大型ロケットであるアリアン6に適合するように設計されているのが特徴です。これは、弊社の製品群の全面的な刷新に向けた第一歩であり、これにより当社のモットーである『いつでも、あらゆる軌道に、どんな衛星でも打ち上げる』ことを実現することができます」とコメントしている。

  • 発射台を飛び立ったヴェガC

    発射台を飛び立ったヴェガC (C) ESA-CNES-Arianespace/Optique video du CSG - S. Martin

さらなる改良型「ヴェガE」と、戦争の余波

これからのヴェガCは、信頼性を確立するという新たな挑戦に挑むことになる。ヴェガの改良型とはいえ、第1段をはじめ多くの部分に手を加えたロケットであり、ヴェガでつちかった信頼性がそっくりそのまま受け継がれるわけではない。またヴェガは、2019年と2020年に相次いで打ち上げに失敗しており、ロケットの開発、製造、品質管理体制の信頼回復も求められている。

現時点でヴェガは残り2機の打ち上げが計画されており、これらの打ち上げを無事にこなし、ヴェガCにバトンタッチし、そしてヴェガCの安定した打ち上げ運用を実現できるかが大きな課題となる。

ESAとアヴィオはまた、ヴェガCのさらなる改良型となる「ヴェガE」ロケットの開発も行っている。ヴェガEは、ヴェガCの第3段と第4段を、ひとつの新型上段に換装。つまり第1、2段が固体、第3段が液体の3段式ロケットとなる。

この新型上段には、液体酸素と液化メタンを推進剤に使う新開発の「E10」エンジンを搭載する。ヴェガCの第4段AVUM+では、非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)と四酸化二窒素(N2O4)を使用していたが、液体酸素とメタンにすることで性能が向上し、環境にも優しくなる。初期型のヴェガはもちろん、ヴェガCからも大幅な進化を遂げるということは、Eが「Evolution(進化)」を示していることにも現れている。

E10の開発は、最近になって最初の燃焼試験が行われたばかりの段階にある。ヴェガEの初打ち上げは2026年に予定されている。

  • ヴェガEに搭載される新型上段用のメタン・エンジン「E10」の燃焼試験の様子

    ヴェガEに搭載される新型上段用のメタン・エンジン「E10」の燃焼試験の様子 (C) Avio

このことからもわかるように、ヴェガCの運用期間はわずか4年であり、ヴェガCへの発展途上、あるいはヴェガとヴェガEの間をつなぐ中継ぎという意味合いが強い。

ただ、ヴェガCが無事にヴェガEへバトンを渡せるかどうかは予断を許さない。そこにはロシアのウクライナ侵攻がかかわってくる。

じつは、ヴェガCの第4段AVUM+には、ウクライナのユージュノエという企業が設計し、ユージュマシュという企業が製造している「RD-843」というロケットエンジンが装備されている。両社ともウクライナ東部のドニプロにあり、最近ではユージュマシュの工場が攻撃を受けたという報道もあった。その真偽や被害の度合いはまだ不明だが、供給に難が生じ、打ち上げができなくなる可能性もある。

ヴェガCの打ち上げ前に行われた記者会見で、ESAのステファノ・ビアンキ氏は「現在もウクライナ側とは共同で作業をしており、すでにイタリアへ送られてきたRD-843のストックも十分にあるため、中期的には問題ない」とコメントしている。また「現時点ではウクライナ(との取り引き)に問題はない。ただ、ヴェガEの新しい上段の開発を加速させたい」とも語られた。

「中期的」というのが具体的にどれくらいの年数なのかは不明だが、たとえば今後、戦争の影響によってウクライナとの作業ができなくなったり、RD-843の供給が止まったりすれば、ヴェガCの運用が難しくなる可能性も匂わせている。

また皮肉なことに、ヴェガCの打ち上げ数が増えれば増えるほど、つまり商業的に売れれば売れるほど、RD-843の在庫は早くなくなっていく。あるいは、ヴェガEの開発が遅れ、ヴェガCをより長く運用する必要が生じても、在庫切れで対応できないかもしれない。

もともとのヴェガから発展を遂げたヴェガC。しかし、この先に待ち受けているのは短くも綱渡りのような道である。ヴェガCの安定した運用と、ヴェガEの開発を両立させ、欧州の小型・中型ロケットを維持することができるか。夏の大三角が輝く空の下、小さなロケットの大きな挑戦が始まった。

  • ヴェガEの想像図

    ヴェガEの想像図 (C) ESA-J. Huart

【参考文献】

ESA - Vega-C successfully completes inaugural flight
Vega C - Arianespace
Following the success of the inaugural flight, Arianespace to start operations of Vega C with seven launchers already sold - Arianespace
VEGA-C Inaugural launch Flight VV21 MEDIA KIT
Vega E Launcher | Avio