例年、夏と冬の年2回開催されていた、フジヤエービック主催のポータブルオーディオイベント「ポタ研」。コロナ禍を経て約2年半ぶりに“復活”し、東京・中野サンプラザで7月9日に展示会形式(事前登録制)で開催されました。当日会場で見つけた注目製品を紹介します。
ところで、ポタ研やヘッドフォン祭の会場としておなじみの中野サンプラザですが、2023年7月2日の閉館が決まったことが大きく報じられ、さまざまな反響を呼んでいます。これは、JR中野駅新北口駅前エリア再整備事業の検討の一環で、市街地再開発事業への円滑な移行を進めるために閉館が決まったもの。
跡地には「中野のシンボルとなる新たな文化・芸術などの発信拠点」が整備される予定で、野村不動産を代表として、東急不動産、住友商事、ヒューリック、東日本旅客鉄道で構成されるグループが整備事業を検討。2022年度末の都市計画決定、2028年度内の竣工を目指しています。
なお、フジヤエービックが“フルサイズ”開催を予定している9月の「秋のヘッドフォン祭」の会場は、これまで通り中野サンプラザで変更はありませんので、そこはひと安心といったところです。
AKやqdc新イヤホン、細かい作り込みのAZLAイヤーピース/ライブ用耳栓
アユートのブースには、Astell&Kernやqdc、“隠し球”的な参考出展としてAZLAの新製品が登場。
7月16日発売予定のAstell&Kern×Campfire Audioコラボレーションイヤホン第2弾「PATHFINDER」(31万9,980円)や、銅とニッケルの合金「白銅」をボディ素材に採用した、国内150台限定の真空管アンプ搭載プレーヤー「A&ultima SP2000T Copper Nickel」(44万9,980円)の実機を手に取って試すことができました。
また、既に発売済みのAstell&Kernのユニバーサルイヤホン「AK ZERO1 Black」(6月11日発売/99,980円/国内200本限定)、4.4mm5極バランス出力を搭載したポータブルUSB DACアンプ「AK HC2」(6月17日発売/実売29,980円前後)の姿もありました。
新しいところでは、この4月からアユートが国内総代理店業務を開始した、qdcブランドのフラッグシップ級ユニバーサルイヤホン「Tiger」を参考出展していました。
qdcが“寅年”の2022年に投入した新作イヤホンで、片側に6つのバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーと、2つの静電ドライバーの計8基を搭載するというユニークなドライバー構成が特徴。試聴機にはダブルフランジのイヤーピースが付いていました。付属ケーブルの入力プラグは接続機器に合わせて2.5mm、3.5mm、4.4mmの3種類から選んで交換できます。
ほかにも“隠し球”的な参考出展として、近々発売予定の新しい医療用シリコン製イヤーピース「AZLA SednaEarfit MAX」を披露。
シリコンの厚みが傘の外側から内側(先端)にいくにつれて薄くなるテーパード構造を採用し、耳垢ガードは軸の部分と一体成型することで、接着剤を使わず人体にもやさしい設計とするなど、さまざまな製造上の工夫が凝らされています。耳垢ガードについては、ハチの巣状の六角形の穴を多数空け、音の通りをよくしたとのこと。
既存の「SednaEarfit Crystal」と同様に、ノズルが細いタイプのイヤホンでも使えるアダプターが付属する「Standard」、完全ワイヤレスイヤホン用の「TWS」、そして「AirPods Pro」の計3シリーズ展開となり、価格は3サイズ1ペアで3,980円、1サイズ2ペアで2,980円になるそうです。
さらに、このSednaEarfit MAXを同梱したAZLAの「ライブ用イヤープラグ」も参考出展。イヤーピースをつけると完全ワイヤレスイヤホンのように見えますが、これは音楽ライブで耳を保護するために使う耳栓です。
面白いのが、ローレット加工を施したイヤープラグ本体をひねるように回すことで開口部を開閉でき、これによって音圧の下げ幅を変えずに、周囲の音を取り込んだり、遮音性を高めたりといった調節を好みに合わせて行えるところ。「POM1000」という製品名になるようで、だいたい5〜6,000円で今夏〜今秋の発売を目指すとのことでした。
このほか、独自のセラミックツイーターを採用したイヤホンを手がけるオーツェイドが展開する新しいIEM(インイヤーモニター)ブランド、「Maestraudio」(マエストローディオ)の第1弾イヤホン「MA910S」の参考出展も別ブースで行われていました。
MADOO第2弾イヤホン「Typ500」登場。来場者の反応を製品化に活かす
「春のヘッドフォン祭 2022 mini」で注目を集めていたピクセルが、ポタ研でも引き続きブースを構えていました。
今回は、MADOOブランドの第二弾製品「Typ500」シリーズの試作品3種類を展示。試聴した来場者からの反応を集めて今後の製品作りに活かすという、ポタ研らしい試みが行われていました。
MADOOは、Acoutune製イヤホンなどを手がけてきた日本人エンジニアが関わり、「機械式のカメラや時計のように数十年使用することが出来る製品づくり」をコンセプトに掲げる新興イヤホン専業ブランド。第1弾として、潜水艦や時計の窓をイメージしてデザインしたという外観が目を惹く有線イヤホン「Typ711」(14万9,800円)を4月に投入しています。
今回企画したTyp500シリーズはまだ開発中の製品で、末尾に「-a」、「-b」、「-c」と付けられた3つの試作機を用意。aは「サウンドステージ(音場)とスピード感という相反する要素を高いレベルで両立させた」ところに特徴があるとしており、bは「ボーカル帯域が気持ちよく聞けるサウンド」、cは「タイトな低音」がテーマになっているとのこと。
同社のスタッフによれば、実は中身のドライバー構成は全部まったく異なっており、いわゆるチューニング違いのバリエーションではない……というところがミソなのだそう。来場者にはそれをあえて明かさず、反応を集めて商品化の方向性を探ることを意図している模様です。反応次第では、このなかのどれかがTyp500として製品化され、それ以外も別のバリエーションとして世に送り出されるかも、とのこと。
またカラーについても、試作機はつや消しのブラック仕上げでしたが、別の色見本モデルを参考として用意。製品化にあたり、たとえば本体は黒のまま窓枠はネイビーで仕上げる、もしくは本体がダークシルバーで窓枠はネイビーの組み合わせにするといったさまざまなカラーリングを考えているそうで、ユーザーの反応を元に決めていきたいと話していました。
Acoustuneブランドからは、音響チャンバーを交換できるイヤホン「HS2000MX SHO -笙-」専用のオプションチャンバーとして、真鍮と木材を組み合わせた「ACT03」を披露。ライブ音源を気持ちよく聞けるよう、同イヤホン標準付属の「ACT01」や、数量限定で販売した「ACT02」とは異なる振動板に変更しています。
また、Acoustuneのミリンクスドライバーの技術を活かしたステージモニターイヤホン「Monitor RS ONE」のバリエーションモデルとなる 音楽制作向けのモニターイヤホン「RS THREE」の試作機もありました。
FitEar初!? のヘッドホン試作機が注目集める
カスタムイヤホンでおなじみのFitEarのブースでは、謎の試作ヘッドホンが注目を集めていました。
FitEarでは、レコーディングやミックスといった音楽制作業務向けのヘッドホンを開発しており、今回は3Dプリンターで出力したハウジングに、既存製品から流用した機構部品などを組み合わせて試作機を作り上げたとのこと。ハウジングは密閉型ではなく、一部に穴を空けるといった加工も施されていました。
担当者によると、ドライバーの特徴などは特に公表せず、まずは音を来場者に聴いてもらい、集めた意見を元に今後製品化の方向性を決めていく予定だそうです。
詳しい方はお気づきかもしれませんが、試作ヘッドホンのハウジングには、FitEarカスタムイヤホンのフェイスプレートを模したデザインを採用。この外観は最終版ではないものの、「こういうデザインにしたい」と考えて仕上げたそうです。業務用ならではの事情もあって、ロゴはないけれどひと目でFitEarの製品と分かる“アイコン”的なカタチにすることをねらったようで、個人的にもこのデザインは好印象でした。
ケーブルは両出しで着脱可能になっていましたが、プラグの種類や接続方法も暫定的なものであり、変更の可能性もあるとのこと。イヤーパッドの形状には、どことなくSoundWarriorのモニターヘッドホンに近いものを感じましたが、これも製品化の過程で変わっていくのでしょうか。業務用製品という位置づけではありますが、今後の開発進捗が楽しみな一品です。