3月18日から4月19日まで、東京・上野を中心に開催された「東京・春・音楽祭」。コンサート会場で生の演奏を楽しめるだけでなく、自宅にいながらにして楽しめるライブストリーミングでの配信も行いました。配信を担当するインターネットイニシアティブ(IIJ)の社内に設けられた配信センターの様子を見学することができましたので、その様子をご紹介します。
コロナ下での開催となった2021年から配信に取り組む
2005年に開催された「東京のオペラの森」を前身とし、2009年より続く「東京・春・音楽祭」。しかしコロナ禍の影響で、2020年は予定された公演の大半が中止となり、わずか14公演を行うにとどまりました(2019年は208公演)。そして2021年も、感染防止のために人数上限5,000人/収容率50%以下といったイベントの制限が出される中の開催となりましたが、会場での鑑賞が難しいならばということで開催された全14会場60公演のライブ配信を実施。そして今年、2022年も昨年同様にほぼすべての公演でライブストリーミングの配信を実施しました。
使われる会場は10以上、期間中毎日何らかの演奏会があります。そんな中で多い時は同時に4つのコンサートを中継配信するとなると、さぞかし設備やスタッフも大規模だろう……と思うところですが、配信をコントロールする配信センターはこじんまりしたもの。10人も入ればいっぱいになるようなIIJの社内会議室のひとつに機材を設置し、この1室で配信をコントロールしています。
そして、演奏会場側の体制も極めてシンプル。機材はカバンひとつにおさまるような量で、現地に赴くスタッフも最小限の人数でよいといいます。実は今回の「東京・春・音楽祭」の配信体制は、ミニマムの体制で実施するということを念頭において組まれたものなのだそうです。
配信の負担のミニマム化を目指した2022年の「東京・春・音楽祭」
一般的に、イベントをストリーミング配信する場合、まずカメラでステージやフィールドを撮影し、複数のカメラの映像をスイッチングして音声とともにひとつの映像として構成します。そしてその映像を配信用にトランスコードして、サーバーからストリーミングを行うことになります。
その基本的な構成事態は「東京・春・音楽祭」でも同様なのですが、2022年の「東京・春・音楽祭」では、2つの工夫で配信の省力化を行っています。
ひとつは、各会場ではリモート操作が可能な4Kカメラ1台だけでステージを撮影し、その映像だけで配信を行ったことです。これにより、会場に持ち込む機材は最小限となり、配置するスタッフも少人数で済むようになりました。
カメラ1台の映像では単調なのではという懸念はあるかと思いますが、この音楽祭で演奏されるようなクラシック音楽の中継は、もともとさほどカメラワークに凝ったりするようなものではないとのこと。また、ユーザーが鑑賞する映像は4Kカメラの映像を部分的に切り出したもので、どの部分を切り出すかを再生時にユーザーが操作できるようになっていました。つまり自分が気になる演奏者の様子をずっと見ていられるわけで、人によっては複数台のカメラを切り替えるような映像よりもうれしかったかもしれません。
またもうひとつの大きな変更点は、配信センターのおかれる場所です。昨年は配信センターが上野文化会館に置かれていました。それが、今年は配信センターを飯田橋のIIJ社内に設置しています。
昨年は、各会場と配信センターの間に回線を引いて映像を伝送し、配信センターで調整した映像データをIIJ WANサービスでデータセンターに送り、配信を行っていました。それが今年は、各会場のカメラの映像がIIJ WANサービスを通じて飯田橋の配信センターに送られ、そこで配信用の映像にトランスコードされ、配信が行われるという構成になっているのです。
会場から配信センターへのデータ伝送には、フレッツ/インターネット/モバイルなど複数の径路を設定。モバイル回線での伝送には、複数のモバイル回線を束ねてデータ転送を行う「LiveU」を利用しています。
イベント会場に持ち込むカメラを最小限とし、さらに現地から離れた場所に配信センターを設置できるようになると、イベント中継の配信のハードルが大きく下がります。今回の「東京・春・音楽祭」の中継が無事成功したことで、いろいろなイベントが気軽に配信されるようになると、エンターテイメントの世界だけでなくビジネスや学術の場にも大きな変化が訪れるかもしれませんね。