既報の通りAMDはRyzen 6000 Series MobileをCESで発表したが、搭載製品の出荷が2月になるというだけで詳細は未公開であった。ただそろそろその搭載製品の出荷時期が迫ってきたのであろうか? もう一段細かい情報が公開されたので、これをご紹介したいと思う。
まずRyzen Series 6000 Mobileのラフな特徴がこちら(Photo01)。システム構成がこちら(Photo02)である。基本的にはRyzen 5000 Series Mobileの構成に近いが、個々の要素ブロックがRefineされており、別物に近い。実は一番の相違点はGPU(Vega→RDNA2)ではなく、メモリ構成が2×DDR4/LPDDR4x x64から4×DDR5/LPDDR5 x32に代わった事だろうか。つまりRyzen 6000 Series MobileはDDR4/LPDDR4xには未対応で、DDR5/LPDDR5のみのサポートとなることが明言された。細かいところではMicrosoft Plutonの搭載なども新規に加わったし、PCIe/USBなども大幅に性能を引き上げている。
CPUコア「Zen 3+」の変更ポイント
さてまずCPUコアであるZen 3+であるが、基本的に性能改善に関する部分の変更点は無い、というのがJoe Macri氏(CVP兼CTO)の説明である。では何を変更したかと言えば省電力化である。Photo03はZen 3+というよりもチップ全体の話であるが、5つの大きな省電力化の対策を施した、としている。具体的なZen 3+の変更点がこちら(Photo04,05)で、プロセスをTSMCのN6に変更するにあたり、改めて低消費電力化を徹底(というか、トランジスタの選択をLow Leakage向けに振った)した上で、新たに
- C6 Stateからの復帰を高速化するハードウェアを搭載
- CPPCをコア単位で管理:CPPC(というかCPPC2)の話は以前こちらで紹介しているが、CPPCというのはOSがプロセッサの動作周波数などを制御する際に利用する機構でACPIで規定されているものだが、以前はCCXごとにこれが用意されていたのに対し、Zen 3+ではこれがコア単位で用意されるようになった。
- CCX Light C-State:より復帰の高速な、「軽い」省電力モードを追加する事で、細かいタイミングでちょっとだけ省電力動作に振る、という事が可能になった。
- Delayed L3 Initialization:Deep Sleepからの復帰の際に、L3の初期化を待たずにプロセッサの復帰を可能とした(つまり復帰の動作とL3の初期化が並行して行われる形)。
- Cache Dirtiness counter:キャッシュのヒット率が閾値以下に下がった場合は、しばらくの間はメモリアクセスを行って内容を最新のものに更新しないとプロセッサそのものの処理が待ちにメモリアクセス待ちに入ってしまう。こうした状態ではDRAMのPower Down(というか、メモリコントローラの省電力モード入り)を禁止してアクセスを強制的に行わせることで、無駄なCPUのメモリアクセス待ちを防止する。
- Selective SCFCTP Save:このSCFCTPが何の略なのかはさっぱり判らないのだが、AMDが2013年に出願し、2018年にUS9916243B2として特許を取得した"Method and apparatus for performing a bus lock and translation lookaside buffer invalidation"の中にこのSCFCTPという用語が、一切の説明なしに出てくる(*1)。この特許そのものはバスの調停機構に関係する部分(CCX内のInfinityFabricに相当するものと思われる)だが、特許を読む限りSCFCTPというブロックはL3内にあり、イベントが発生したらこのSCFCTPを参照してコアをC1に復帰させる仕組みになっているようだ。で、これをSelective Saveするというのは、つまりあまり活発に動いていないコアに関しては、SCFCTPに情報を保存させない事で、イベントが起きても不必要にコアを稼働させない仕組み、という事の様だ。
- Enhanced CC1 State:コアをSleep状態にするための新しいトリガーが追加された というあたりで、要するにより積極的にコアを休止状態に持ち込むための工夫が多数追加された、という事らしい。
(*1) 正確に言うとUS版には無いのだが、同じ特許を日本や中国でも取得しており、こちらには"The method of any of the preceding embodiments, wherein the SCFCTP block in L3I activates the core when an event or interrupt arrives."と説明がある。
SoCレベルの省電力化
次がSoCレベルでの省電力化(Photo06,07)。流石にGPUコアをCU別に管理というのは難しかった様で、GPUは一塊になっているが、それ以外はかなり細かくClock Gating/Power Gatingを可能な構成にしている。そのうえで
- SoCレベルでのSave/Restoreアクセラレータの搭載:ハードウェアアシストにより、Sleep/Wakeupの高速化を実現
- Clock/Power Gatingの効率化:PHYまでPower Gatingを可能に
- Memory Controllerの高性能化:元々DDR5/LPDDR5ではDDR4/LPDDR4xに比べて省電力に繋がる機能が多く搭載されているが、lane/rank/bankレベルでの電力管理も可能になっている。
- 新EDC(Electrical Design Constraints)コントローラの搭載:要するにSoC内部の各ブロックへの電圧供給を、よりきめ細やかにした。
- Z9/Z9 Deeper Low Power State:それこそDVD鑑賞といった、本当に省電力動作の場合に適した省電力モードを追加した
- New Data Fabric Optimization:先にZen 3+コアのところでも出た、Light C-StateをCCXだけでなくシステム全体でサポート
- Optimized Memory Bandwidth Allocation:これは後述
- Peak Current Control:文字通りピークの消費電流を管理する仕組み
などが新たに搭載されたとする。Photo08がPhoto03に出て来た「5 Layers of power optimization」の具体的な項目のおさらいだが、Platform Power Controlには1W未満のDisplayのサポートとかPanel Self refresh、Pnal delta update(変更があった場所だけ表示更新)などの機能が上がっており、このあたりで大分Intelと肩を並べてきた感がある。
次がSoftware周り。新しくPMF(Power Management Framwork)と呼ばれるソフトウェアプラットフォームが提供され、OEMメーカーはこれを利用して望む特性の構成を容易に実現できるようにした、とする。
パネル回りも重要である(Photo10)。Photo08でもちょっと触れたが、プロセッサの全力稼働時はともかく通常だとCPUというかSoCの消費電力よりパネルの消費電力の方がしばしば大きい。従ってパネル回りで省電力化に繋がる新機能を盛り込むのはまぁ当然である。その一方で、特にハイエンドSKUはワークステーションなどに向けた製品などに使われる公算が多い訳で、出力周りはかなり豪華な構成になっている。
RDNA2ベースに移行する内蔵GPU
次がGPUであるが、こちらはRDNA2ベースということで、まぁNaviに比べると変更点は多いが、要するにNavi 20世代である(Photo12)。構成は12CUであり、先日レビューしたRadeon RX 6500 XTの下位グレード(というか、OEM向け)にあたるRadeon RX 6400と同じ(Photo13)だが、Infinity Cacheが無く、その代わりにL2が2MBに増量されている(Radeon RX 6400/6500 XTは1MB)。これで多少なりともInfinity Cacheの代わりに、ということだろうか。なので性能はRadeon RX 6400よりやや落ちる(多分CESで同時に発表されたRadeon RX 6300Mよりもやや落ちる程度ではないかと思う)とは思うが、それでもVegaベースのRyzen 5000 Series Mobileの2倍の描画性能というのはまぁ妥当だと思う。CUの数が1.5倍で、効率もVegaよりも上がっており、おまけにメモリがDDR5でより広帯域なのだから、性能が上がらない方がおかしい(Photo14)。
Audio周りではActive Noise Cancellationを搭載した(ただしOEMシステムのみ)のが特徴である。なんでOEM向けのみかと言えば、Noise Cancellationをちゃんと動作させるためにはマイクとスピーカーの位置をきちんと考慮する必要があるからで、恐らくはこの辺のデザインガイドを入手し、それに沿って実装したメーカーの製品でのみ利用できるという形かと思う。
Ryzen 6000 Series MobileではまたUSB 4を始めとする色々な周辺機器が搭載される。ちなみにUSB4コントローラについてThunderboltとの互換性を確認したところ、勿論ターゲットにしており、現在Certificationを行っている最中という話であった。
Photo17がラフなCPU性能比較で、同じ15W枠でもRyzen 7 5000シリーズと比較して17%性能向上、28Wだと37%の向上がみられるとしており、Contents Creationではラフに2倍(Photo18)、バッテリー寿命ではシナリオにもよるが8~17%の省電力化が実現したとされており、性能/消費電力比はAlder Lakeの2.62倍に達する(Photo20)としている。
ラインナップと登場時期について
さてここからはSKUともう少し細かな性能の話をしたい。まずSKUであるが、Photo21の12製品がラインナップされる。ついで性能比較だが、Photo20の様にAlder Lakeと比較できるのはIntelがデータを公開しているものに限られるため、比較はTiger LakeとRyzen 5000 Series Mobileという形になる。まずは15W枠で、前世代比で17%のCPU性能向上、81%のGPU性能向上、3時間のバッテリー寿命延長としている(Photo22,23)。次が28W枠で、1.3倍のCPU性能、2倍のGPU性能とされる。
35W枠については説明がなく、その代わりトップエンドの45W枠のRyzen 9 6900HX(Photo26,27)での比較が簡単に示されているが、このあたりはいずれAlder LakeとRyzen 6000 Series Mobileの搭載製品同士の比較が行われることになると思うので、そこまで判断は留保しておきたいところだ。
また内蔵GPUについて、Tiger Lakeに比べると大幅に高い性能を発揮できるとしており(Photo28)、Discrete GPUに比べるとやや劣る(Photo29)ものの、FSRで改善できる(Photo30)というのは、判るけど間違っている気がする。
またDiscrete GPUではGeForce GTX 3080 vs Radeon RX 6800Sの結果も示されている(Photo31)。AMDとしてはこのハイエンドマーケットにも食い込みたいところなのであろう。
今後のロードマップとして、2月中にはまずGaming Note向けのHSシリーズが投入され、3月頭にHXおよびUシリーズ、3月中にRyzen Proが投入される形だ。で、Desktop向けは? という話。当初はMobile向けが一段落した5~6月あたりかと思ったのだが、DDR4に未対応というのがコントローラレベルでの対応だとすると、Socket AM5でしか利用できない事になるので、かなり後送りになりそうだ。単にMobile向けパッケージがDDR4/LPDDR4に未対応なだけでコントローラは対応している、という話ならSocket AM4が使える事になるのだが。このあたりはもう少し後にならないとはっきりしない。
ちなみにAMDによれば200以上のデザインが2022年中に出荷予定、という話であった(Photo33)。