第4セッションは「あなたの知らないインターネットの世界 (ピアリング交渉・相互接続編)」と題し、IIJ 基盤エンジニアリング本部の蓬田裕一氏が講演した。

  • IIJ 基盤エンジニアリング本部 ネットワーク技術部 ネットワーク企画課の蓬田裕一氏

蓬田氏の仕事は、各国のインターネットプロバイダーと交渉して相互接続を行うこと。インターネットは大小さまざまな自律したネットワーク(Autonomous System:AS)同士が接続して構成されるものだが、この「ネットワークを相互に接続し、トラフィックを交換しあう」ことを「ピアリング(Peering)」と呼ぶ。ピアリングでは物理的な相互接続状況だけでなく、BGP(Border Gateway Protocol)によるネットワーク同士の経路情報の交換、そしてそれぞれのISP間でピアリングすることの交渉と同意が必要になる。

インターネットに参加するにはただのネットワークではなく「AS」であると認められることが必要で、ASになると番号が割り当てられる。ちなみに、IIJの場合は「AS2497」という番号が割り当てられている。

こうして接続されたAS同士は、直接ではなく、ASをいくつか挟んで接続されるケースもあるが、ケーブルで物理的に繋がっている。ちなみに、インターネットの接続で世界を一周するとおよそ400~500ms程度かかる。

AS同士の接続には「Transit」(お金を払って上位ASから経路全てを購入し、下位ASへ経路情報を中継・広告する)と「Peer」(相互のASで自ASおよび顧客の経路情報を交換、必要なトラフィックのみ交換。経費は相互負担の対等な関係)がある。

Transitは楽だし、インターネット全てへ到達するためには必要なのだが、コストがかかる。また、複数のASを介さず直接接続することで通信品質がよくなり、コントロールできることも多い。そこでPeeringできる相手を探し、相互に接続先を増やしていくのが重要になるわけだ。

Peerの関係は基本的に対等であり、どこのASと接続するかの戦略が重要になってくる。そしてこの戦略を立案し、接続構成や調整、接続に向けた環境の強化、そして大概窓口になるのが蓬田氏の仕事「Peeringコーディネータ」というわけだ。

Peering交渉の担当者は公開されているケースもあるが、担当者同士が知り合いであればSNSで連絡を取ることもあるという。Peering関係のイベントもあるため、こうしたところで人脈を広げるのもコーディネータの重要な仕事というわけだ。

  • アジア地域で行われたPeering関係の国際イベント。こうしたイベントを通じて交渉したり、人脈を広げたりするという

Peeringにおいては接続スタイルやビジネス戦略の違いなどもあり、たとえばIIJは国内ではほとんどPeeringをせず、海外では相手を選んで、という戦略をとっている。こうしてさまざまな条件のもとで接続交渉を進めるわけだが、最終的には人と人の繋がりの世界になるという。デジタルな世界という印象のインターネトだが、案外人脈の世界だというのは面白いのではないだろうか。

IIJ Technical Weekは、IT系エンジニアの方はもちろん、エンジニアを目指す学生やIT系技術に興味のある方、他業種の仕事ぶりを参考にしたい方などにおすすめしたいイベントだ。各セッションは録画でも確認できるので、まずはチェックしてみてはいかがだろうか。