文書印刷やデジカメプリント、コピーなどに活躍するインクジェット複合機(プリンター複合機)。この冬は、全般に品薄で人気機種が入手しづらかったり、年末の商戦期になっても売れ筋モデルの価格が下がっていないなど、例年にはない異例の状況が見られます。そのあたりの事情をまとめつつ、テレワークや年賀状で使うために購入を検討している人に向けた製品選びのポイントや、この冬の一押しモデルが何なのかを見ていきましょう。
インクジェット複合機、品薄と需要増で価格が下がらず
この冬のインクジェット複合機でまず注意したいのが「品不足」です。かねてからの半導体不足や新型コロナウイルスの影響で、海外拠点での物流や生産が滞っていることに加え、テレワークで需要が増したこともあり、店頭やWeb通販では一部の売れ筋モデルの在庫が薄くなっているところもあります。
物流や生産が滞っているだけではありません。セイコーエプソンはこの秋、大容量インクタンクを搭載した「エコタンク搭載モデル」の生産に注力するとして、インクカートリッジ式の複合機「カラリオ」の最新モデルの発表を見送りました。2020年に発表したモデルを継続して販売します。エプソンはこの数年、エコタンク搭載モデルに注力しているとはいえ、主力モデルのカラリオの新製品発表を見送るのは異例といえます。
これらの品不足に加え、テレワークの普及で一年を通して安定した需要が出たことを受け、この冬はプリンターの商戦期である年末になっても主力モデルの価格が下がっていない、という異例の傾向も見られます。カラリオやPIXUSの主力モデルは、発表直後は3万円台前半で売り出し、商戦期の年末には2万円台前半まで値下がりして買いやすくなるのが例年の傾向でした。しかし、この冬は年末になっても発売直後の3万円台前半の価格をキープしたままとなっています。
レーベルプリントや背面給紙を装備しない機種が増えた
テレワークや年賀状作成用に複合機を購入しよう、古い複合機から買い替えよう、と考えている人も多いと思います。製品選びの際のポイントを、改めておさらいしておきましょう。
まずポイントとなるのが、ここ数年のトレンドである「大容量インク搭載モデル」か、従来のスタイルを受け継ぐ「インクカートリッジ式」かの選択です。ザックリ解説すると、大容量インク搭載モデルは「プリンター本体の価格は割高、印刷コストは圧倒的に安い」、インクカートリッジ式モデルは「プリンター本体の価格は割安、印刷コストは高い」という特徴を持ちます。もし、テレワークや学習で印刷やコピーをガンガンするならば、印刷コストの安い大容量インク搭載モデルが断然おすすめ。そうそうインク切れにならないので、「替えのインクカートリッジがない!」「急いでいるのに印刷できない!」といった苦い経験をせずに済みます。
ただ、大容量インク搭載モデルも決して万能ではありません。大量の文書を印刷するSOHOやオフィスをメインターゲットにしている製品なので、写真画質印刷で重要となる「染料ブラックインク」を搭載していない製品がほとんど。デジカメプリント時はイエロー、マゼンタ、シアンの3色での印刷となるので、暗部が抜けたような締まりのない仕上がりになります。
また、ここ数年のインクジェット複合機は使用頻度の低い装備の廃止が進んでおり、古い機種からの買い替えだと「あの機能が使えないのか…!」と驚くことも。省略する機種が増えている機能の一例が「CD-Rレーベルプリント」「背面給紙」「名刺など極小用紙への対応」「メモリーカードからのダイレクトプリント」「フィルムスキャン」など。もし、これらの機能が欠かせないと考えている人は、機能を搭載しているかをWebサイトなどで確認しましょう。ちなみに、フィルムスキャンに対応した複合機は、10年以上前に絶滅しています。
ランニングコストや性能のバランスがよい「PIXUS XK100」
これらのポイントを考慮して、この冬に一押しの機種だと感じたのが、キヤノンの「PIXUS XK100」です。インクカートリッジ式ながら「プリンター本体の価格はチョイ高め、インクカートリッジの価格はチョイ安め」とし、大容量インク搭載モデルほどではないもののランニングコストを抑えたのが特徴です。
インクは染料4色+顔料ブラックの計5色。中間色は搭載していないものの、デジカメプリントや年賀状印刷も締まりのある好ましい画質でプリントできました。顔料ブラックインクを搭載するので、普通紙への文書印刷もにじみを抑えてきれいにプリントできます。
普通紙なら最大100枚、郵便はがきなら最大40枚をストックできる背面給紙機構やCD-Rレーベルプリント機能など、装備が充実しているのもポイント。さらに、大容量インクモデルでは省略されがちな「印刷開始とともに前面パネルや排紙トレイが自動で開く」機構も搭載しており、開くのを忘れて印刷が始まっていなかった…という悲しい事態を回避できます。
使いやすいと思ったのがコピー機能です。独立した「モノクロコピー」「カラーコピー」のボタンを搭載しており、それぞれのボタンを押すだけで即コピーが始まります。用紙サイズなどの設定をする必要がないので手間が省けるだけでなく、子どもやシニアでも迷うことなく操作できます。リビングに設置して家族全員で使う、という複合機のコンセプトに合った機能として評価できると感じます。
PIXUS XK100の実売価格は4万円前後で、通常のインクカートリッジ式を採用する売れ筋モデル「PIXUS TS8530」(実売価格は37,800円前後)よりは若干高めとなっています。しかし、両機種のランニングコストは以下の通りでPIXUS XK100が半分以下で済み、そこそこ頻繁に利用するようであれば複合機の差額はほどなくペイできます。
▼プリント1枚あたりのコスト比較
機種名 | L判フチなし写真 | A4普通紙(カラー) | A4普通紙(モノクロ) |
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XK100 | 約9.8円 | 約3.9円 | 約1.5円 |
TS8530 | 約22.1円 | 約12.2円 | 約4.3円 |
※TS8530は大容量インク使用時の数値 |
PIXUS XK100はテレワーク、在宅学習、デジカメプリントのどの用途にも不満なく対応でき、ランニングコストも抑えた佳作だと感じます。新規購入だけでなく、古い機種からの買い替えでも満足できるでしょう。