順天堂大学は11月25日、不活動が骨格筋のインスリン抵抗性を生じさせる新規メカニズムを解明したと発表した。

同成果は、順天堂大大学院 医学研究科 スポートロジーセンターの筧佐織特任助教、順天堂大 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授、同・河盛隆造特任教授、同・綿田裕孝教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国内分泌学会が刊行する学術誌「American Journal of Physiology Endocrinology and Metabolism」にオンライン掲載された。

肥満はインスリン抵抗性によって生じ、その結果として生活習慣病である糖尿病やメタボリックシンドロームにつながっていく。その一方で、肥満がない場合でも、ステイホームや座位時間の増加といった不活動の状態が短期間継続するだけでも、インスリン抵抗性を発生させることが報告されるようになってきた。

日本人は諸外国の人々と比べて座位時間が長く、近年の身体活動ガイドラインにおいても、座位時間を含む不活動の時間を短くすることが推奨されるようになってきたが、なぜ短期間の不活動でインスリン抵抗性が生じてしまうのか、その分子メカニズムはよくわかっていなかったという。

そこで今回の研究では、動物およびヒトを対象として、不活動によるインスリン抵抗性発生メカニズムの解明を目指すことにしたという。

具体的には、片脚をギプス固定する不活動マウスモデルを用いて、不活動とそれに伴う代謝機能への影響が検証された。24時間の不活動と、悪い生活習慣である高脂肪食(2週間)を組み合わせた4群に対し、リン脂質などの脂質の前駆体「ジアシルグリセロール」(DG)量の比較が行われた。

その結果、骨格筋のインスリン感受性は24時間の不活動でも半減し(インスリン抵抗性の発生)、高脂肪食単独では変化がなかったものの、高脂肪食に不活動を組み合わせると、インスリン抵抗性がさらに増悪することが明らかになったという。

  • 肥満

    各群における骨格筋インスリン感受性と骨格筋DG量 (出所:順天堂大Webサイト)

またDGは骨格筋細胞内に蓄積すると、インスリンシグナル伝達を阻害してインスリン抵抗性を生じさせることから、DGの量に関する解析の結果、不活動で骨格筋のDG量が倍増、高脂肪食との組み合わせでさらに増加し、それに伴いインスリンシグナル伝達が阻害されていることが判明。これらのことから、骨格筋へのDG蓄積が不活動によるインスリン抵抗性発生のカギであることが示唆されたという。

また、不活動によりDGが蓄積する理由の解明に向けさまざまな代謝経路の探索が行われたところ、細胞内でDGを作り出す酵素「Lipin1」の活性が不活動によるDGの蓄積と連動していることが見出されたという。

さらに、ヒトにおいても24時間にわたって片脚をギプス固定し、その前後で骨格筋生検を実施した上で解析したところ、Lipin1の発現量の有意な増加と骨格筋DG量の増加傾向が認められ、マウスの実験と矛盾しない結果が得られたともしている。

これまでの研究から、運動により骨格筋代謝が改善するメカニズム探索は進んでいるものの、不活動がなぜ代謝を悪くするのかは未解明の部分も多く残っており、今回の研究成果は、そうした点で画期的といえると研究チームでは説明している。

なお、研究チームによると、日本人を含む東アジア人は、正常体重であるにもかかわらず、生活習慣病になってしまうケースが多いが、日本では諸外国と比較して座位時間が長いことを鑑みると、今回の成果を踏まえた東アジア人向けの新たな生活習慣病予防策の開発が期待できるとするほか、不活動は同時に骨格筋萎縮も引き起こすことから、その病態基盤としてのLipin1のさらなる役割についての研究も進めていくとしている。

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    今回の研究で明らかにされた不活動によるインスリン抵抗性発生の分子メカニズム (出所:順天堂大Webサイト)